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97 接続が切れました

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「共同ということは、どこかとどこかが管理しているとなるな」
「いくつもある世界、天界と魔界や地界、邪界や霊界などが管理しています」
「ここは天界だよな」
「はい。ここ以外にも位相が異なったいくつもの世界が存在しています」

全く分からないが、そういうものらしいな。

「理解不能は仕方のないことです。それが問題で事件が起きる訳でもありません」

いくつもある世界は正直どうでもいい。
問題は、あの融合異世界が今後どうなるのか分からないことだ。
巡視という仕事で何回か行った世界だが、人と関わるうちに愛着が湧いてきてしまったのだろう。
明日、いや今後、あの世界が無くなったと言われたらどうだろうか。
自分自身にとって、馴染みの店がなくなるくらいの衝撃はあるのではないか。

「明日はお休みです。もちろん、ゲーム世界に行くこともできますし、現実世界でのショッピングや地上に行くことも問題ありません」

伝えたいけれど、伝えられない。
言いたいけれど、言ってはいけない。
そんな感じがする、なぜだか分からないけれど、世界の崩壊が近いその世界に行ってきて欲しいという感じがする。
なぜだろうか。
なぜ。
なぜ。

分からないことをいつまでも考えても仕方が無い。
でも、単独行動はするべきではないと思ったから、一緒に行けるもう1人のみどりに連絡して、明日融合異世界へ行こうと誘おうと思った。
しかし…

「行かないわよ」
「何か悪い予感がする。今、行かないと後悔するのではないかと思うから」
「そう言われても私にも予定というものがあるの。だから行かない」
「分かった。悪かったな」

みどりは誘ったが断られた。
予定があると言っていたし、仕方が無いか。
単独行動はしたくなかったがこうなれば仕方が無い。
一人でも行くとしよう。

翌朝…

「融合異世界の接続が切れており、世界に転移することができません」
「それはどういうことか」
「簡単に言ってしまえば、融合異世界という世界は行方不明ということです。可能性としては世界が無くなっているか、以前と比べて極端に小さくなっているかと考えられます」
「行方不明になった世界に行く方法はないのか」
「接続が切れる寸前に転送することは可能ですが、戻ってくることができなくなります」

2つの選択肢がある。
1つは、接続切断前に世界に乗り込んでいく。
ただし、戻れなくなる。
もう1つは、行かないということだ。

融合異世界への巡視と異界審査官の仕事がある。
巡視だけなら迷わずに行けたと思う。
しかし、もう1つの仕事があるから、そっちを投げ出していくわけにはいかない。
苦渋の決断は、行くことはできない…だった。
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