4 / 9
4
しおりを挟む
でかい地球儀やら壁掛けの地図が置かれた社会科資料室は、放課後になると『音楽研究会』の部室になる。
音研の主な活動内容は、その名の通り音楽の研究なので、音楽流して「これいいな」「な」で終了。
部員は、浜高一・二年イケメン軍団。……呼び方くっそダサい。
適度な広さと日当たりの良さで、先輩たちがこの資料室を溜まり場にしていたことが先生にバレて、ここを使う正当な理由が欲しいために同好会を作ったらしい。
「この前のダンチャレ動画、やっぱすげー伸びてるらしいよ」
「へー。まぁ楓出てるしな」
「お前は楓教の信者か何かなの?」
「先輩か様を付けろよ。お前に呼び捨ては許されてない」
「ガチ信者やんけ」
放課後、テックハウスミュージックが流れる部室にいるのは俺と武瑠だけだ。
誰かが持ち込んだ古いソファにだらりと座って、武瑠はゲーム、俺はスマホをいじって時間を潰している。
「つか斗真、その傷どしたん?」
武瑠がスイッチから顔を上げ、俺の頰あたりを顎で示す。
武瑠の言う「それ」は、多分目の下くらいにある引っ掻き傷のことだろう。
「……ジェルネイル。あれもはや凶器だろ」
「……女の子に凶器使わせるようなことしたお前が悪いんじゃね?」
「ごもっとも」
正論が耳に痛い。
昨日は、楓が両親と食事するからって遊べなくて、俺もバイトないし、ってところに女の子から声かけられて。
その子の家に誘われて、そしたらやることはヤることしかない。
俺がセックスする理由は、溜まってたから、暇だったから、誘われたから。
昨日は、溜まってたし誘われたから。
動いて出しておしまい。
心が満たされることはないけど、それでも性欲は発散できる。
今まで、特定の彼女は作ったことない。全部セフレだ。
本当に好きな奴以外とはエッチしない、とかいう聖人君子でもないし、かといって、好きでもない奴を彼女にする意味も分かんないし。
「なんで凶器使われたんだよ」
武瑠がゲームを再開させながら言う。
「別に……ただ、TVでケーキがうまいっていうカフェ紹介してて、その店の名前スマホにメモしてたら」
「何やってる時?」
「……ヤってる時」
「アウト」
まぁね。確かに、真っ最中にTV見ながらスマホいじるのはマナー違反だ。そりゃビンタくらいされる。俺が悪い。けど、楓が好きそうなケーキだったからさぁ。
「本当、イケメンの無駄遣いだよおめーは」
「俺のイケメンを俺がどう使おうと関係ないと思いますけど」
「うざ。そのカフェ、女の子と行ってやれよ。一緒に行きたくて店の名前メモった、とか言って」
さすが軍団で一、二を争うモテ男のアドバイス。
武瑠も、結構去るもの追わずタイプだけど、別れる時揉めたとか聞いたことないし、なんなら別れた後、元カノと友だちになるような奴だ。
「あー……それもう遅い。その子に、このカフェ一緒に行こうって言われて、楓と行くって言っちゃった」
「アウトすぎだろ信者」
ゲラゲラ笑いだす武瑠に蹴りを入れていると、部室の扉が開いた。
「斗真、お待たせ」
顔を覗かせたのは、新しいバレンシアガのカーディガンを着た楓だ。最高に似合ってる。
「おー。掃除当番終わった?」
「うん。……てかなんで武ちゃん爆笑してんの?」
「いやー、マジで斗真が信者過ぎるというか、好きな人のことが好き過ぎるというかぁ」
「っおい、武瑠!」
余計なことを言い出す武瑠の口を慌てて塞ぐ。
武瑠に、恋愛感情として楓のことが好きだと言ったことはないけれど、こいつは多分、気づいていると思う。俺が不毛な片思いをしていることに。
「……斗真の、好きな人?」
「楓、気にすんな。こいつが適当言ってるだけだから」
武瑠を睨んで、ぺたんこの通学バッグを手に取る。
「帰ろ、楓」
「ああ、……うん。武ちゃん、またね」
「バイバイ楓先輩。斗真は崇拝もほどほどに」
「うるっせぇ」
楓に見えないように舌を出す武瑠に、俺も楓に見えないように中指を立てた。
音研の主な活動内容は、その名の通り音楽の研究なので、音楽流して「これいいな」「な」で終了。
部員は、浜高一・二年イケメン軍団。……呼び方くっそダサい。
適度な広さと日当たりの良さで、先輩たちがこの資料室を溜まり場にしていたことが先生にバレて、ここを使う正当な理由が欲しいために同好会を作ったらしい。
「この前のダンチャレ動画、やっぱすげー伸びてるらしいよ」
「へー。まぁ楓出てるしな」
「お前は楓教の信者か何かなの?」
「先輩か様を付けろよ。お前に呼び捨ては許されてない」
「ガチ信者やんけ」
放課後、テックハウスミュージックが流れる部室にいるのは俺と武瑠だけだ。
誰かが持ち込んだ古いソファにだらりと座って、武瑠はゲーム、俺はスマホをいじって時間を潰している。
「つか斗真、その傷どしたん?」
武瑠がスイッチから顔を上げ、俺の頰あたりを顎で示す。
武瑠の言う「それ」は、多分目の下くらいにある引っ掻き傷のことだろう。
「……ジェルネイル。あれもはや凶器だろ」
「……女の子に凶器使わせるようなことしたお前が悪いんじゃね?」
「ごもっとも」
正論が耳に痛い。
昨日は、楓が両親と食事するからって遊べなくて、俺もバイトないし、ってところに女の子から声かけられて。
その子の家に誘われて、そしたらやることはヤることしかない。
俺がセックスする理由は、溜まってたから、暇だったから、誘われたから。
昨日は、溜まってたし誘われたから。
動いて出しておしまい。
心が満たされることはないけど、それでも性欲は発散できる。
今まで、特定の彼女は作ったことない。全部セフレだ。
本当に好きな奴以外とはエッチしない、とかいう聖人君子でもないし、かといって、好きでもない奴を彼女にする意味も分かんないし。
「なんで凶器使われたんだよ」
武瑠がゲームを再開させながら言う。
「別に……ただ、TVでケーキがうまいっていうカフェ紹介してて、その店の名前スマホにメモしてたら」
「何やってる時?」
「……ヤってる時」
「アウト」
まぁね。確かに、真っ最中にTV見ながらスマホいじるのはマナー違反だ。そりゃビンタくらいされる。俺が悪い。けど、楓が好きそうなケーキだったからさぁ。
「本当、イケメンの無駄遣いだよおめーは」
「俺のイケメンを俺がどう使おうと関係ないと思いますけど」
「うざ。そのカフェ、女の子と行ってやれよ。一緒に行きたくて店の名前メモった、とか言って」
さすが軍団で一、二を争うモテ男のアドバイス。
武瑠も、結構去るもの追わずタイプだけど、別れる時揉めたとか聞いたことないし、なんなら別れた後、元カノと友だちになるような奴だ。
「あー……それもう遅い。その子に、このカフェ一緒に行こうって言われて、楓と行くって言っちゃった」
「アウトすぎだろ信者」
ゲラゲラ笑いだす武瑠に蹴りを入れていると、部室の扉が開いた。
「斗真、お待たせ」
顔を覗かせたのは、新しいバレンシアガのカーディガンを着た楓だ。最高に似合ってる。
「おー。掃除当番終わった?」
「うん。……てかなんで武ちゃん爆笑してんの?」
「いやー、マジで斗真が信者過ぎるというか、好きな人のことが好き過ぎるというかぁ」
「っおい、武瑠!」
余計なことを言い出す武瑠の口を慌てて塞ぐ。
武瑠に、恋愛感情として楓のことが好きだと言ったことはないけれど、こいつは多分、気づいていると思う。俺が不毛な片思いをしていることに。
「……斗真の、好きな人?」
「楓、気にすんな。こいつが適当言ってるだけだから」
武瑠を睨んで、ぺたんこの通学バッグを手に取る。
「帰ろ、楓」
「ああ、……うん。武ちゃん、またね」
「バイバイ楓先輩。斗真は崇拝もほどほどに」
「うるっせぇ」
楓に見えないように舌を出す武瑠に、俺も楓に見えないように中指を立てた。
3
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
箱入りオメガの受難
おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。
元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。
ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。
現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
【2025/11/15追記】
一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる