世界でただ一人、僕の性春

野良風(のらふ)

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 楓が初めて彼女を作った時、俺は心底打ちのめされて、反抗期のお手本みたいな非行に走った。
 今思えばマジで安易ではあるけど、酒と煙草に手を出したり、ピアスの穴も五つ開けた。
 無駄な喧嘩を売って買って、童貞を捨てたのもこの頃だ。毎日、世界の破滅を割とガチで願っていた。
 俺の非行少年ムーブが落ち着いたのは、楓が俺に「由美さんを悲しませるような斗真は嫌い」と、珍しく真面目に怒ったからだ。

 由美さん、ってのは俺の母親なんだけど。
 楓に嫌われたら生きていけないし、それに、母さんを悲しませるのは確かにないな、と思ったから。
 来るもの拒まず去るもの追わずな楓に、今でこそ慣れてはきたけれど。
 それでもやっぱり、楓に彼女が出来るたびへこむし、楓には悪いけど、別れれば嬉しい。
 次の新カノ紹介イベントはいつ襲来するかな、なんて考えていると。

「俺……当分、もう誰とも付き合わない」

 楓が今までにない発言をする。

「……え、なんで?……誰かに告られてもOKしないの?」
「うん。……今はいいわ」
「なに……今回、結構へこんでる?」

 莉子さんは俺も何回か会ったことがあるけど、美人で性格もサバサバしてて、案外甘えたな楓と合いそうな感じの人だった。周りも今回は続くだろって言ってたし。

「へこんでるってか……莉子なら長く付き合えるかなって、ちょっと思ってたんだよね。あいついい奴だし、気も合うし。……でもそういう……キスとかエッチとか、全然したいと思わなくて」
「……ああ、そう、なの」
「うん。別れた日も、莉子に誘われたんだけど、……そんな気になれなくて。いつもみたいに断ったら、いい加減にしてってキレられた」

 ベッドに転がっていたクマのクッションを抱きしめながら、楓が言う。

「何回も女から誘って断られる気持ち分かる?って言われて、馬鹿にしないでってコーヒーぶっかけられて、おしまい」
「え……楓コーヒーかけられたの?大丈夫かよ」
「冷めてたし平気。カーデはダメになったけど」
「……あー、それで……」

 いつものカーディガンを着ていない理由はそれか。

「……カーデとかはいいんだよ。莉子には、可哀想なことしたと思うし……」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられてるクマの顔は、間抜けに歪んでいる。
 楓が天井を見上げ、ぽつりと呟く。

「俺だって、ちゃんとみんな好きなのになー……なんで上手くいかないんだろ」

 ――みんな好き、だからじゃね?
 思ったけど、言わなかった。
 楓の「みんな好き」の中に、楓の彼女たちが求める“特別な好き”はない。
 そのみんなの中には、俺も入ってる。
 みんなの中の一人。特別じゃない中の一人。
 俺はずっと、楓だけが特別なのに。

「じゃあ、彼女いない間は俺と遊んでよ」

 ベッドに乗り上げ、楓の胸にあるクッションに頭を乗せ言った。
 加減しながらぐいぐい体重をかけると、楓が「重い」と笑う。

「斗真とは彼女いる時もかなり遊んでんじゃん」
「もっとだよ。もっと遊んで」
「あは。いいよ」

 身体を反転させて上から覗き込むようにすれば、楓の細められた目に俺が映る。
 あー、くそ。マジで好き。
 特別になれなくても。ずっとずっと、楓だけが好き。
 

 
 
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