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「……わかった。OK。帰ろう。でも待って。……コレ、おさめるから」
ジョガーパンツの上からでも分かるほどしっかり主張してるソレを、とりあえず通常の状態に戻さないと電車さえ乗れない。
「楓も泣き止んで。泣き顔興奮しちゃうから。いつまでたってもおさまんねぇから」
「……泣き顔……興奮すんの?」
「するよ」
「……お前、やばいね」
楓が楽しそうに笑って、その拍子に涙が一粒溢れ落ちる。そんな一瞬でも、見惚れるくらいに綺麗。
「……楓、笑うな。お前の全部が俺の下半身に直結する。静かにしてて」
目を閉じて、楓を遮断するよう努める。
「……今なに考えてんの?」
「……喋んなって。……今は、中学の校歌を脳内再生してる」
「……なんで?」
「……部活の夏合宿でクソ暑い中、謎に歌わされ続けてトラウマだから。はい、お前は黙ってて」
静かな部屋の中、脳内では校歌が流れている。
――海風吹き抜ける我が学舎、夢追い共に挑む道、未来への架け橋(繰り返し)――
「……ふ、ふふっ、あっは!」
「おい!」
臨戦態勢をオフにしようと頑張る俺の隣で、楓が盛大に吹き出した。
「だっ、て、無理だろ、なにこれ。ラ、ラブホで、めっちゃ勃たせて、中学の校歌脳内再してる奴なに、やば、ふ、っ、あははは!」
ばか笑いする楓につられて、最初は我慢していた俺も、結局一緒に笑ってしまった。
二人で散々笑った後、俺の俺はようやく外出可能なほどに落ち着いてくれた。
「……斗真」
部屋を出る直前、呼ばれて振り返ると楓が俺にキスをした。
そして「また後でね」と、やっと通常モードに戻った下半身に向けて悪戯に笑うから、俺は声に出して校歌を歌い、楓はまた大笑いした。
親のいない俺の家に帰ってきて、――途中、ドラッグストアで必要なものをしっかり購入して――飯も食わないですぐ風呂に入り(一応、別々に)、お互い髪も乾ききらないまま、もつれるように布団に倒れた。
「キスしていい?」と尋ね、答えを聞く前に唇を塞いでしまう。
最初から、真っ最中みたいな激しくて深いキスになる。
ラブホでの興奮以上の興奮が、俺の頭と身体を容赦なく襲う。
唇を塞ぎながら、楓の部屋着を脱がせる。首元に三つほど付いているボタンが、最高に疎ましい。
「斗真……ふ、童貞みたい、っ、んぅ」
荒々しく自分のスウェットも脱ぎ捨てる俺を見て、楓が笑う。その首筋を緩く噛んでやる。
俺と同じボディーソープの匂いをさせる楓に、今日はマジで我慢できないし、我慢しなくていいことが死ぬほど嬉しい。
「……お前、毎回そんな、がっついてたの?女の子引かない?」
楓が俺の襟足で遊ぶように、手を潜らせる。
「……こんなん、いつもならないし。いつもは、なんか、飯のこととか考えてた」
「それもどうなの」
楓が呆れたみたいに眉を下げる。
身体を起こして、楓を見下ろす。俺の布団のシーツに散らばる髪に触れる。
「あと、楓のこと、ずっと考えてるよ。一日中」
「……それもどうなの」
笑う楓がすごく嬉しそうで、下半身と心臓が痛い。
凄まじい性的興奮と、煩悩を取り去ったような純粋な恋心は、共存できるということを初めて知った。
「斗真」
楓が腕を伸ばして、俺を引き寄せる。加減して圧し掛かると、触れ合う素肌がじわじわ熱を持つ。
「……あのチャラいスーツの人さ」
「……今その話いる?」
俺の布団の中で、他の男の、しかも今一番地獄に落としたい人間の話を持ち出した楓を睨む。
「アプリのプロフィールに、バリエが好きって書いてあったから」
楓が少し笑い、俺の唇を軽く噛む。
「そんだけの理由で選んだ。ごめん」
力を込めて抱きしめられる。楓の温かさと匂いが身体中に染み込んでいく。
「好きだよ。斗真だけ」
鼻先が触れ合う距離での告白に、俺の目元も熱を持った。
「……俺も」
湿度を含む掠れた声で答えて、十年分の気持ちを込めてキスをした。
「あ、先輩達なんかやってる」
ぼんやりした頭に、武瑠の声が入ってくる。
ベランダの柵に腕を乗せ中庭に目をやると、そこにはお馴染みの集団とギャラリーがいた。
楓は段差のところに座っていて、欠伸をしてる。
『眠そう』
スマホでメッセージを送る。
楓がスマホを取り出し、それから真っ直ぐ俺の教室のベランダを見た。
優しく笑う楓は、なんだかすごく幸せそうに見える。きっと俺も、同じような顔で笑い返してる。
『眠いよ。寝かしてくんない奴いたから。降りてこないの?』
『今お前の隣に行ったら、普通にそこで昨日の続き始める自信ある』
楓がスマホから顔を上げ、口パクで俺に向かって「バカ」と言うのがわかる。
腕に顔を乗せ、でれっでれに緩む頰を隠す。
――ああ……。あそこにいるの、俺の彼氏なんだけど。あの綺麗なの、俺のものなんだけど。昨日、あの綺麗なのとヤったんだけど。
「……ぐ、う……あああぁ……」
自分の中だけじゃ処理しきれない感情が、呻き声となって溢れる。
ただ動いて出して終わり。
こんなもんだったはずのそれは、こんなもんなんて二度と言えなくなった。
バカみたいにがっついて、「好き」と言われただけで涙が出るような。
コントロールできない衝動は、もて余すほどに強烈で、死ぬほどの幸せがあった。
「斗真がスマホ見てニヤニヤしてると思ったら、急に悶えだした」
「女だろ」
「でもコイツこの前、エッチだるいとか言ってました」
「青春真っ只中のDKにあるまじき発言」
「あれだよ、斗真はさ、ガチの本命のみに爆発するタイプなんだよ」
「爆発」
「不眠不休の大爆発よ」
「えぐ」
好き勝手に盛り上がる武瑠達に、ちょっと感心する。
――俺のこと、良く分かってんじゃん。
俺の身体も心も、不眠不休で反応するのは楓だけだ。
かっこよくて可愛くて、愛してやまない、あいつだけが。
世界でただ1人、僕の性春。
END
ジョガーパンツの上からでも分かるほどしっかり主張してるソレを、とりあえず通常の状態に戻さないと電車さえ乗れない。
「楓も泣き止んで。泣き顔興奮しちゃうから。いつまでたってもおさまんねぇから」
「……泣き顔……興奮すんの?」
「するよ」
「……お前、やばいね」
楓が楽しそうに笑って、その拍子に涙が一粒溢れ落ちる。そんな一瞬でも、見惚れるくらいに綺麗。
「……楓、笑うな。お前の全部が俺の下半身に直結する。静かにしてて」
目を閉じて、楓を遮断するよう努める。
「……今なに考えてんの?」
「……喋んなって。……今は、中学の校歌を脳内再生してる」
「……なんで?」
「……部活の夏合宿でクソ暑い中、謎に歌わされ続けてトラウマだから。はい、お前は黙ってて」
静かな部屋の中、脳内では校歌が流れている。
――海風吹き抜ける我が学舎、夢追い共に挑む道、未来への架け橋(繰り返し)――
「……ふ、ふふっ、あっは!」
「おい!」
臨戦態勢をオフにしようと頑張る俺の隣で、楓が盛大に吹き出した。
「だっ、て、無理だろ、なにこれ。ラ、ラブホで、めっちゃ勃たせて、中学の校歌脳内再してる奴なに、やば、ふ、っ、あははは!」
ばか笑いする楓につられて、最初は我慢していた俺も、結局一緒に笑ってしまった。
二人で散々笑った後、俺の俺はようやく外出可能なほどに落ち着いてくれた。
「……斗真」
部屋を出る直前、呼ばれて振り返ると楓が俺にキスをした。
そして「また後でね」と、やっと通常モードに戻った下半身に向けて悪戯に笑うから、俺は声に出して校歌を歌い、楓はまた大笑いした。
親のいない俺の家に帰ってきて、――途中、ドラッグストアで必要なものをしっかり購入して――飯も食わないですぐ風呂に入り(一応、別々に)、お互い髪も乾ききらないまま、もつれるように布団に倒れた。
「キスしていい?」と尋ね、答えを聞く前に唇を塞いでしまう。
最初から、真っ最中みたいな激しくて深いキスになる。
ラブホでの興奮以上の興奮が、俺の頭と身体を容赦なく襲う。
唇を塞ぎながら、楓の部屋着を脱がせる。首元に三つほど付いているボタンが、最高に疎ましい。
「斗真……ふ、童貞みたい、っ、んぅ」
荒々しく自分のスウェットも脱ぎ捨てる俺を見て、楓が笑う。その首筋を緩く噛んでやる。
俺と同じボディーソープの匂いをさせる楓に、今日はマジで我慢できないし、我慢しなくていいことが死ぬほど嬉しい。
「……お前、毎回そんな、がっついてたの?女の子引かない?」
楓が俺の襟足で遊ぶように、手を潜らせる。
「……こんなん、いつもならないし。いつもは、なんか、飯のこととか考えてた」
「それもどうなの」
楓が呆れたみたいに眉を下げる。
身体を起こして、楓を見下ろす。俺の布団のシーツに散らばる髪に触れる。
「あと、楓のこと、ずっと考えてるよ。一日中」
「……それもどうなの」
笑う楓がすごく嬉しそうで、下半身と心臓が痛い。
凄まじい性的興奮と、煩悩を取り去ったような純粋な恋心は、共存できるということを初めて知った。
「斗真」
楓が腕を伸ばして、俺を引き寄せる。加減して圧し掛かると、触れ合う素肌がじわじわ熱を持つ。
「……あのチャラいスーツの人さ」
「……今その話いる?」
俺の布団の中で、他の男の、しかも今一番地獄に落としたい人間の話を持ち出した楓を睨む。
「アプリのプロフィールに、バリエが好きって書いてあったから」
楓が少し笑い、俺の唇を軽く噛む。
「そんだけの理由で選んだ。ごめん」
力を込めて抱きしめられる。楓の温かさと匂いが身体中に染み込んでいく。
「好きだよ。斗真だけ」
鼻先が触れ合う距離での告白に、俺の目元も熱を持った。
「……俺も」
湿度を含む掠れた声で答えて、十年分の気持ちを込めてキスをした。
「あ、先輩達なんかやってる」
ぼんやりした頭に、武瑠の声が入ってくる。
ベランダの柵に腕を乗せ中庭に目をやると、そこにはお馴染みの集団とギャラリーがいた。
楓は段差のところに座っていて、欠伸をしてる。
『眠そう』
スマホでメッセージを送る。
楓がスマホを取り出し、それから真っ直ぐ俺の教室のベランダを見た。
優しく笑う楓は、なんだかすごく幸せそうに見える。きっと俺も、同じような顔で笑い返してる。
『眠いよ。寝かしてくんない奴いたから。降りてこないの?』
『今お前の隣に行ったら、普通にそこで昨日の続き始める自信ある』
楓がスマホから顔を上げ、口パクで俺に向かって「バカ」と言うのがわかる。
腕に顔を乗せ、でれっでれに緩む頰を隠す。
――ああ……。あそこにいるの、俺の彼氏なんだけど。あの綺麗なの、俺のものなんだけど。昨日、あの綺麗なのとヤったんだけど。
「……ぐ、う……あああぁ……」
自分の中だけじゃ処理しきれない感情が、呻き声となって溢れる。
ただ動いて出して終わり。
こんなもんだったはずのそれは、こんなもんなんて二度と言えなくなった。
バカみたいにがっついて、「好き」と言われただけで涙が出るような。
コントロールできない衝動は、もて余すほどに強烈で、死ぬほどの幸せがあった。
「斗真がスマホ見てニヤニヤしてると思ったら、急に悶えだした」
「女だろ」
「でもコイツこの前、エッチだるいとか言ってました」
「青春真っ只中のDKにあるまじき発言」
「あれだよ、斗真はさ、ガチの本命のみに爆発するタイプなんだよ」
「爆発」
「不眠不休の大爆発よ」
「えぐ」
好き勝手に盛り上がる武瑠達に、ちょっと感心する。
――俺のこと、良く分かってんじゃん。
俺の身体も心も、不眠不休で反応するのは楓だけだ。
かっこよくて可愛くて、愛してやまない、あいつだけが。
世界でただ1人、僕の性春。
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