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最終手段として、楓が他の男とヤるなら死ぬ!くらい言う覚悟でいたから、さらりと聞こえた楓の言葉は、まるで知らない外国語みたいに理解出来ない。
遠くなった香りがまた近づく。楓が身体を起こして、俺と向き合った。
「前に武ちゃんが言ってた、斗真の好きな人って……俺なの?」
「……好きな人?……ああ、……いや、うん……実は、そうなんだけど……でも俺あの時、いないって言わなかった?」
「あんなん、すぐ嘘だってわかるよ。……俺はお前に隠し事できないけど、お前だって、俺に隠し事出来ないよ」
ふー、と楓が長く息を吐いて、俺に手を差し出す。
「……なんか、緊張してきた。斗真、手、握ってて」
頭ん中はまだ全然いろんな処理が追いついてないけど、条件反射みたいにその手を握る。
指先が冷たくて、温めるように親指でさすった。
「俺が、男が好きなのかもって本気で考えたきっかけ、お前なんだよ」
「……俺?」
「うん。今までは自分のこと、性欲薄いんだなーくらいに考えてたんだけど。斗真に好きな人がいて、しかもそいつのことすげぇ好きらしい、って聞いた時……俺けっこう衝撃受けて」
楓が静かに笑う。
「セフレしか作んなかったヤリチンに、ついに好きな人が?って」
「おい。ヤリチンて」
「事実じゃん」
言われて、自信を持って違うと言い返せないくらいには自覚があるから、黙るしかない。
「でも……だんだん、なんか……お前に好きって思われてる人が、羨ましいとか……思うようになって」
「……好きって思われてるの楓だよ」
「……だって、そんなの……お前は女の子が好きだと思うだろ、普通」
少し唇を尖らせ呟く楓を、思いっきり抱き締めたい衝動をなんとか堪える。
「……俺さ、今みたいに、斗真に手とか髪とか触られんのすげぇ好きなの」
「マジ?」
「マジ。お前、めちゃくちゃ優しく触るでしょ。……イケメンヤリチン代表みたいな見た目のくせに」
「……なんだよその代表……不名誉すぎるんだけど」
うるさい鼓動を誤魔化すように、わざと茶化してみる。お互いに。
「お前に触られると、なんかすごく大事にされてるって思えて、安心するし……ドキドキする」
楓が目を細めて、俺を見る。
大事にされてる。俺がいつもそう感じる、優しい目で。
「それで……斗真に対してそんなふうに思うのって、俺は恋愛対象に男も入る人なのかなとか、考え始めて」
「……で、今に至るわけか」
ちらりと室内を見て言う俺に、楓が肩を竦める。
「でも実際、男とラブホまで来たら、すげぇ気持ち悪くなっちゃって。……怖かったし」
頬を緊張させて、無理やり唇の端を上げる楓の手を両手で包む。
慰める気持ちと、俺がどんだけ心配したか伝わるように。
「……だから、男が好きとか、そんなんじゃなくて、俺は斗真が好きなんだなって分かった。男に触られたからじゃなくて、斗真に触られるから、安心するし、ドキドキするんだって」
楓の言葉に、息が詰まった。
神経とか細胞とか血液とか、俺を作る全てにその言葉たちが溶けて、全身が熱く震える。
楓の指先をそっと撫でた。
「……俺だって、お前だから……本当に大事に思ってる楓だから、こういう風に触るんだよ」
「……俺だけ?」
「お前だけ。……楓だけが、ずっと俺の特別」
顔を近づけると、楓が長い睫を伏せる。
俺も同じように目を閉じて、二人の距離を埋めた。
温かくて柔らかな感触に、もう死んでもいいとさえ思う。
唇を離すと、楓の目の縁に小さな涙が浮かんでいる。それを掬い上げるように目尻にもキスをする。
「泣かないで」と、泣きそうになりながら囁いて、また唇に唇を重ねた。
だんだんと深くなるキスに、死んでもいいと思った俺の純情は呆気なく崩壊する。
楓の舌の濡れた感触とか、楓が漏らす息遣いとか、俺のスウェットをぎゅうと握る細い指とか。
とにかく楓の全てに、下半身があり得ない早さで反応し始める。
――全然まだ死ねない。今死んだら確実に成仏できない。
角度を変え何度もキスをしながら、楓の頭に手を添えてベッドに押し倒す。
出来るだけ体重をかけないように覆い被さり、ようやく唇を離した。
楓はちょっと苦しそうに眉を寄せ、涙が滲んだ瞳で俺を見ている。耳まで赤くしながら。
見下ろしたその景色に、俺の俺が痛いくらいに準備完了になる。
「楓……していい?」
耳たぶを軽く噛みながら言うと、楓の身体が震えて、「んん」と甘い声が漏れ出る。
やばいやばいやばい。脳が溶ける。
「斗真、あ、待って――」
「楓、好き。マジで好き」
本能が身体を動かしてるみたいに、手が勝手に楓のカットソーの中に潜り込む。
触れた素肌に、更に脳みそがぐずぐずに溶けて、飢えた動物みたいに喉が鳴る。
――ああこれ、死にたくないけど、興奮し過ぎて死ぬかもしんない。
そんな、目も眩むような激情真っ只中にいる俺の手を掴んで、楓が言った。
「マジで待って、斗真。……帰りたい」
その瞬間、俺の思考も身体も、ピタリと一時停止する。荒ぶっていた全てが、宙へ放り出されたみたいに行き場をなくす。
――かえりたい……?かえり……か、帰りたい……?
頭の中で漢字変換が完了すると、ようやく声が出た。
「…………なぜ?」
なぜそんな、ひどい仕打ちを……?同じ男として、おあずけの辛さは分かってもらえると思うんだけど……?
「好きな人との初めてが、ラブホとか嫌だ」
「……え?」
「……お前とはちゃんと、家で……ちゃんとしたい」
楓が半泣きで俺を見上げる。
――なんだこいつ……。
なんで、こんな可愛いの。綺麗でかっこいいのに、こんなに可愛いってどういう仕組みなの。
そんな、反則にも程があるような可愛いことを、反則にも程がある可愛い顔で言われたら、続行するなんて出来ない。
なんとか理性をかき集め、精神を集中させる。
遠くなった香りがまた近づく。楓が身体を起こして、俺と向き合った。
「前に武ちゃんが言ってた、斗真の好きな人って……俺なの?」
「……好きな人?……ああ、……いや、うん……実は、そうなんだけど……でも俺あの時、いないって言わなかった?」
「あんなん、すぐ嘘だってわかるよ。……俺はお前に隠し事できないけど、お前だって、俺に隠し事出来ないよ」
ふー、と楓が長く息を吐いて、俺に手を差し出す。
「……なんか、緊張してきた。斗真、手、握ってて」
頭ん中はまだ全然いろんな処理が追いついてないけど、条件反射みたいにその手を握る。
指先が冷たくて、温めるように親指でさすった。
「俺が、男が好きなのかもって本気で考えたきっかけ、お前なんだよ」
「……俺?」
「うん。今までは自分のこと、性欲薄いんだなーくらいに考えてたんだけど。斗真に好きな人がいて、しかもそいつのことすげぇ好きらしい、って聞いた時……俺けっこう衝撃受けて」
楓が静かに笑う。
「セフレしか作んなかったヤリチンに、ついに好きな人が?って」
「おい。ヤリチンて」
「事実じゃん」
言われて、自信を持って違うと言い返せないくらいには自覚があるから、黙るしかない。
「でも……だんだん、なんか……お前に好きって思われてる人が、羨ましいとか……思うようになって」
「……好きって思われてるの楓だよ」
「……だって、そんなの……お前は女の子が好きだと思うだろ、普通」
少し唇を尖らせ呟く楓を、思いっきり抱き締めたい衝動をなんとか堪える。
「……俺さ、今みたいに、斗真に手とか髪とか触られんのすげぇ好きなの」
「マジ?」
「マジ。お前、めちゃくちゃ優しく触るでしょ。……イケメンヤリチン代表みたいな見た目のくせに」
「……なんだよその代表……不名誉すぎるんだけど」
うるさい鼓動を誤魔化すように、わざと茶化してみる。お互いに。
「お前に触られると、なんかすごく大事にされてるって思えて、安心するし……ドキドキする」
楓が目を細めて、俺を見る。
大事にされてる。俺がいつもそう感じる、優しい目で。
「それで……斗真に対してそんなふうに思うのって、俺は恋愛対象に男も入る人なのかなとか、考え始めて」
「……で、今に至るわけか」
ちらりと室内を見て言う俺に、楓が肩を竦める。
「でも実際、男とラブホまで来たら、すげぇ気持ち悪くなっちゃって。……怖かったし」
頬を緊張させて、無理やり唇の端を上げる楓の手を両手で包む。
慰める気持ちと、俺がどんだけ心配したか伝わるように。
「……だから、男が好きとか、そんなんじゃなくて、俺は斗真が好きなんだなって分かった。男に触られたからじゃなくて、斗真に触られるから、安心するし、ドキドキするんだって」
楓の言葉に、息が詰まった。
神経とか細胞とか血液とか、俺を作る全てにその言葉たちが溶けて、全身が熱く震える。
楓の指先をそっと撫でた。
「……俺だって、お前だから……本当に大事に思ってる楓だから、こういう風に触るんだよ」
「……俺だけ?」
「お前だけ。……楓だけが、ずっと俺の特別」
顔を近づけると、楓が長い睫を伏せる。
俺も同じように目を閉じて、二人の距離を埋めた。
温かくて柔らかな感触に、もう死んでもいいとさえ思う。
唇を離すと、楓の目の縁に小さな涙が浮かんでいる。それを掬い上げるように目尻にもキスをする。
「泣かないで」と、泣きそうになりながら囁いて、また唇に唇を重ねた。
だんだんと深くなるキスに、死んでもいいと思った俺の純情は呆気なく崩壊する。
楓の舌の濡れた感触とか、楓が漏らす息遣いとか、俺のスウェットをぎゅうと握る細い指とか。
とにかく楓の全てに、下半身があり得ない早さで反応し始める。
――全然まだ死ねない。今死んだら確実に成仏できない。
角度を変え何度もキスをしながら、楓の頭に手を添えてベッドに押し倒す。
出来るだけ体重をかけないように覆い被さり、ようやく唇を離した。
楓はちょっと苦しそうに眉を寄せ、涙が滲んだ瞳で俺を見ている。耳まで赤くしながら。
見下ろしたその景色に、俺の俺が痛いくらいに準備完了になる。
「楓……していい?」
耳たぶを軽く噛みながら言うと、楓の身体が震えて、「んん」と甘い声が漏れ出る。
やばいやばいやばい。脳が溶ける。
「斗真、あ、待って――」
「楓、好き。マジで好き」
本能が身体を動かしてるみたいに、手が勝手に楓のカットソーの中に潜り込む。
触れた素肌に、更に脳みそがぐずぐずに溶けて、飢えた動物みたいに喉が鳴る。
――ああこれ、死にたくないけど、興奮し過ぎて死ぬかもしんない。
そんな、目も眩むような激情真っ只中にいる俺の手を掴んで、楓が言った。
「マジで待って、斗真。……帰りたい」
その瞬間、俺の思考も身体も、ピタリと一時停止する。荒ぶっていた全てが、宙へ放り出されたみたいに行き場をなくす。
――かえりたい……?かえり……か、帰りたい……?
頭の中で漢字変換が完了すると、ようやく声が出た。
「…………なぜ?」
なぜそんな、ひどい仕打ちを……?同じ男として、おあずけの辛さは分かってもらえると思うんだけど……?
「好きな人との初めてが、ラブホとか嫌だ」
「……え?」
「……お前とはちゃんと、家で……ちゃんとしたい」
楓が半泣きで俺を見上げる。
――なんだこいつ……。
なんで、こんな可愛いの。綺麗でかっこいいのに、こんなに可愛いってどういう仕組みなの。
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