世界でただ一人、僕の性春

野良風(のらふ)

文字の大きさ
7 / 9

7

しおりを挟む
「なんでそんなアプリ使ってんだよ。あいつ……男だよな?」

 俺の問いかけに、沈黙が落ちた。
 瞬きを忘れた長い睫毛から、楓の緊張が伝わる。

「……俺、莉子とエッチしたいとか思わないって言ったけど……今まで他の彼女にも、そういうのあんまり……思ったことなくて」

 楓が視線を揺らし、一度唇を噛んだ。
 ベッドシーツをいじりながら、再び口を開く。

「……それで、ちょっと、いろいろ考えて……俺、男が好きなのかなって、思って」

 その言葉に、脳がびりびりと痺れるような衝撃を受けた。
 ――男が好き……って何?あんなに散々、女の子と付き合ってたのに?

「だから、確かめてみようとしたんだよ……その……ほんとに、男とそういうの、出来るか」

 自分の血の気が引く音を、耳の奥に聞いた気がする。
 痺れた脳は、さらに沸騰したようにぐらぐらと揺れ、もうまともに考えることができなくなった。

「……わかった」

 呟いて、着ていたアウターを床に落とす。

「……斗真……?」
「俺が、確かめてあげるよ」

 戸惑うように俺を呼んだ楓を、強い力でベッドに押し倒した。
 綺麗にカラーの入った楓の髪の毛が、ラブホの白いベッドシーツに散らばる。やけにエロく見えるそれに、無性にイラつく。

「相手が変な奴だったらどうすんの?ヤバイ性癖持ってたりさ。俺だったら身元も確かだし、プレイはノーマルだし、安心だよ。もちろん、ちゃんと着けるし」

 サイドボードから、わざと見せつけるようにゴムを取る。
 すぐ下にある楓の大きな目が見開かれた。
 楓は女の子が好きだから、男の俺はハナから範囲外だって諦めてたのに。
 男が好きかも?男とヤれるか確かめる?
 こんな露骨なラブホで、あんなクソチャラスーツと。
 ――マジでふざけんなよ。
 楓の身体に本格的に乗り上げ、両手をベッドに押さえつけた。

「斗真……お前、なに……」

 楓が拘束を解こうともがくけど、身長もウエイトも俺の方が上だ。
 腰の上に体重をかけて、さらに手首を持つ手に力を込める。

「確かめたいんでしょ?大丈夫。優しくするから」

 冷たく笑って言うと、楓は信じられないものを見るように、俺をその瞳に映した。

「……斗真は嫌だ、絶対。……お前だけは嫌」

 その強い声にさらに苛立って、同じくらい悲しくなった。

「……あんなチャラスーツは良くて、俺はだめなの?」

 ぐちゃぐちゃな感情を押し付けるように、楓の首筋に顔を埋めた。甘いブルガリが、今はやけに苦く香る。

「……っ、やだ、やめろ」

 楓の本気の抵抗に、ぶちギレそうだった血管が、いよいよブツンと破裂した。

「やめろじゃねぇだろ!お前、ホテル来たってことは、こういうことすんだよ、分かってんの?なぁ?」

 身体を起こして、上から楓を睨み付けた。ムカつきすぎて身体が震える。

「アプリなんかの相手と、お前みたいなガチで綺麗な奴がヒョイヒョイ会うとか、馬鹿なのかよ!なんかあったらどうすんだ!危ねぇだろ!」
「……ご、ごめん、なさい……」

 感情のままに怒鳴ると、目を丸くした楓が謝る。
 肩で息をしながら、そういえば楓相手に怒鳴ったの、初めてだなと思う。 

「お前……ほんと何考えてんだよ……あんな奴と……マジで勘弁して……」

 派手な爆発の後、全身から力が抜ける。
 両手首を掴んでいた手を離して、楓の上に倒れこんだ。

「斗真……ごめん。……怒んないで」

 楓が俺の髪を撫でる。
 ……怒んないで、じゃねーよ。
 それでも、さっきは苦く感じた楓のブルガリがちゃんと甘くて、深く呼吸が出来る。
 楓の匂いに包まれると、身体中を駆け巡っていた怒りがゆっくり薄れていく。 

「……楓、お願いだから、他の男とヤんないで。お前が俺以外とエッチするとか……考えただけで死にそうになる」
「……斗真だったら、いいの?」
「……いいよ」
「なんで……お前、そんな……心配だからって、俺とできんの?」

 ――もういいか。そんな気持ちになって、身体を起こした。

「心配は心配だけど。……できるよ、余裕で。俺、楓のことめちゃくちゃ好きだから。性的な意味で」
「……せ、せい、てき?」

 寝転がったまま、心底驚いた顔をしている楓にちょっと笑う。
 背筋を伸ばして、息を吸って、気持ちを告げた。

「初めて会った時から、ずっと楓が好きだよ。幼馴染みとか友達の好きじゃなくて、エッチしたいって思う、好き」

 ――あーあ。言っちゃった。
 十年以上、秘密にしてたのに。そんでこれからも、ずっと楓の側に居たいから、言うつもりなんかなかったのに。

「だから、楓が……本当に確かめたいなら、その相手は俺にしてほしい。ずっとつるんでた幼馴染みとか、お前は嫌かもしんないけど」

 斗真だけは嫌だと、楓は言っていた。
 家族同然みたいな奴とヤるとか、考えられないってことなんだろうけど。
 だけど俺だって、ここはマジで、絶対、何があろうと譲れない。

「……斗真が俺のこと、好きならいいよ」
「…………あ?」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

箱入りオメガの受難

おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。 元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。 ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰? 不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。 現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。 この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 【2025/11/15追記】 一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

処理中です...