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世界一の暗殺者死す
序
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黒い革手袋をして、銀のナイフを握り締めた若い男は静かにターゲットの頸を切り裂いた。血飛沫が男の体にかかることはなかった。手馴れた体捌きだった。
「なぁ、父ちゃん。もう卒業でいいだろ?」
「……」
ナイフの血糊を払う。彼をそのまま老けさせたような男が闇からぬっと出てきたのを見て若い男は溜め息をついた。
「まだまだ、童貞をすてたからといって暗殺を甘く見たらいけないな」
ラッキートリックをくわえて年嵩の男は、まだ若い彼を鼻で嗤った。
「だったら、どうしたら卒業なわけ?」
若い男はニヤニヤと、父親を挑発するように見た。
「ふっ、世界一の俺を倒して暗殺会の長におさまることだな」
「ふーん?」
「魁斗……お前はまだ世界を知らん」
「ボクは暗殺なんてしたくないんだけど」
シュボッと音をたてジッポで火をつけ肺一杯に、紫煙を吸い込んだ男はニヤリと不敵に笑うと魁斗の顔に吹きかけた。
「ケホッ、ケホッ……」
「煙草の良さもわからん若僧だしな」
「んな、体に悪いもの。わかりたくもないね。父ちゃんはアホだ」
目に涙を浮かべて魁斗は、反抗的に言葉を返す。
「父ちゃんとは、もう呼ぶな。俺はジブラ。お前はティザー。こっからは仕事だ」
「はいはい、ジブラさん。まったく、中二病かよ」
ゴツンっと魁斗の頭に拳骨が落ちた。
「いって。油断した」
「中二病ではない。コードネームだ。真面目にやれ」
「へいへい。ったく、地獄耳だな」
秘密結社ドナミエトの日本支部であるここは、荘厳な宗教施設のような造りで静謐に満ちていた。
だが、二人にとってはただの狩場である。暗殺者としての。秘密結社ドナミエトは、他の秘密結社とは異質な存在である。世界を牛耳るとかそんなことは考えていない。いや、他の秘密結社もそんな陳腐なものを企んでいるはずがないのだが。世間の一般的な認識は世界を牛耳るとかそのようなものだ。
二人の足取りに迷いは見られない。気配を消し、何日も前から飲食もせずにわずかな臭いさえしないよう創意工夫している。徹底した暗歩で足音も立てていない。
壁や柱を利用して、二人はスルスルと歩いては殺していく。競うように、少なくとも魁斗は父に負ける気はなかった。数でも技術でも力でも。
やがて、大きな扉の前にたどり着く。日本支部の幹部がいるはずの部屋である。華美な造形をした何をモチーフにしたかわからない化け物の石像が柱になり、扉の横に二柱建っていた。入るものを威嚇するような佇まいの、まるで息づかいまで聴こえてきそうなくらいに生命力に満ちている。石像に対して妙な表現かもしれないが、それくらいリアリティにあふれているのだ。
生唾を飲み込む音が魁斗の耳に届いた。自分のものだと気づくのに少々、間があった。いくつかの組織の支部や本部を見てきたが、こんなに不思議な感覚は初めてかもしれなかった。
「縮んじまったか?」
ジブラは小馬鹿にするように、魁斗に言い放った。
「誰が」
魁斗は反抗するしか能がないなと思いながらも、自虐気味に呟いた。
「はねっ返りだな」
「うっさい」
魁斗の中で張りつめていた緊張が少しだけ萎んだ気がした。魁斗の脳裏に葡萄を皮だけ残して啜り食べるイメージがよぎった。なんとも言えない気分だった。
「開けるぞ」
ジブラの言葉に、魁斗は気を引き締めた。扉がゆっくりと開いていく。
「なぁ、父ちゃん。もう卒業でいいだろ?」
「……」
ナイフの血糊を払う。彼をそのまま老けさせたような男が闇からぬっと出てきたのを見て若い男は溜め息をついた。
「まだまだ、童貞をすてたからといって暗殺を甘く見たらいけないな」
ラッキートリックをくわえて年嵩の男は、まだ若い彼を鼻で嗤った。
「だったら、どうしたら卒業なわけ?」
若い男はニヤニヤと、父親を挑発するように見た。
「ふっ、世界一の俺を倒して暗殺会の長におさまることだな」
「ふーん?」
「魁斗……お前はまだ世界を知らん」
「ボクは暗殺なんてしたくないんだけど」
シュボッと音をたてジッポで火をつけ肺一杯に、紫煙を吸い込んだ男はニヤリと不敵に笑うと魁斗の顔に吹きかけた。
「ケホッ、ケホッ……」
「煙草の良さもわからん若僧だしな」
「んな、体に悪いもの。わかりたくもないね。父ちゃんはアホだ」
目に涙を浮かべて魁斗は、反抗的に言葉を返す。
「父ちゃんとは、もう呼ぶな。俺はジブラ。お前はティザー。こっからは仕事だ」
「はいはい、ジブラさん。まったく、中二病かよ」
ゴツンっと魁斗の頭に拳骨が落ちた。
「いって。油断した」
「中二病ではない。コードネームだ。真面目にやれ」
「へいへい。ったく、地獄耳だな」
秘密結社ドナミエトの日本支部であるここは、荘厳な宗教施設のような造りで静謐に満ちていた。
だが、二人にとってはただの狩場である。暗殺者としての。秘密結社ドナミエトは、他の秘密結社とは異質な存在である。世界を牛耳るとかそんなことは考えていない。いや、他の秘密結社もそんな陳腐なものを企んでいるはずがないのだが。世間の一般的な認識は世界を牛耳るとかそのようなものだ。
二人の足取りに迷いは見られない。気配を消し、何日も前から飲食もせずにわずかな臭いさえしないよう創意工夫している。徹底した暗歩で足音も立てていない。
壁や柱を利用して、二人はスルスルと歩いては殺していく。競うように、少なくとも魁斗は父に負ける気はなかった。数でも技術でも力でも。
やがて、大きな扉の前にたどり着く。日本支部の幹部がいるはずの部屋である。華美な造形をした何をモチーフにしたかわからない化け物の石像が柱になり、扉の横に二柱建っていた。入るものを威嚇するような佇まいの、まるで息づかいまで聴こえてきそうなくらいに生命力に満ちている。石像に対して妙な表現かもしれないが、それくらいリアリティにあふれているのだ。
生唾を飲み込む音が魁斗の耳に届いた。自分のものだと気づくのに少々、間があった。いくつかの組織の支部や本部を見てきたが、こんなに不思議な感覚は初めてかもしれなかった。
「縮んじまったか?」
ジブラは小馬鹿にするように、魁斗に言い放った。
「誰が」
魁斗は反抗するしか能がないなと思いながらも、自虐気味に呟いた。
「はねっ返りだな」
「うっさい」
魁斗の中で張りつめていた緊張が少しだけ萎んだ気がした。魁斗の脳裏に葡萄を皮だけ残して啜り食べるイメージがよぎった。なんとも言えない気分だった。
「開けるぞ」
ジブラの言葉に、魁斗は気を引き締めた。扉がゆっくりと開いていく。
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