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5.彼の友人は良い人でした
しおりを挟む「今日はもう遅い。それに婚約発表の日だぞ?どうしても急を要するのか?」
「ええ、お願い。急ぐの。話を聞いて!」
「じゃあ、キャロラインも一緒に……」
「え……、それは困るわ。あまり人には聞かれたくないの」
アルフォンソ様は私の方を見て少し考えている。
婚約して早々、他の女性と二人きりになるのは避けたいと考えているのかもしれない。
「テラスで話をしよう。キャロライン、少し待って」
「ええ、分かったわ」
すると近くで話を聞いていたウィスロッド伯爵家のご子息であるジャレッド様が会話に入ってきた。
ジャレット様は、さっきエヴァリン様からアルフォンソ様への『あーん』を阻止してくれた人。
彼もまたアルフォンソ様やエヴァリン様の幼馴染で、特にアルフォンソ様にとっては一番の親友だと聞いていた。
「キャロライン様、お暇でしょう?待っている間、俺と話をしませんか?アルの小さな頃のエピソードなど」
ウィスロッド卿は私に気を遣ってくれているみたい。場の空気を読んでの事だろう。
そして、私も彼の幼い頃の話をちょっと聞いて見たかった。
「お願いします」
そんな訳で、招待客を全て見送った後、私たちは話をする事にした。
サロンには二人で座れるテーブル席が幾つか置いてある。
アルフォンソ様とマウントトール様が端の席に座り、私もウィスロッド卿と少し離れた席に座ると、会話は聞こえないけれど、二人の様子は見える丁度よい距離になった。
アルフォンソ様たちは何やら真剣に話をしているみたいだけど、甘い雰囲気ではないみたい。
私は少し安心してウィスロッド卿との会話を楽しむことにした。
「今日、エヴァリンが暴走してて、さぞかし不愉快でしょ?」
「いいえ。それほど気になりませんわ」
嘘!めっちゃ不愉快!
「ご安心くださいね。あいつ、キャロライン様以外は女性として意識して無いですから」
「そうかしら?」
「ほら、今もチラチラ此方を見てる。昆虫の話をしてるのに、集中出来ないあいつなんて初めて見ますよ」
「ええっ……?今も虫の話してるの?」
「そうです。マウントトール伯爵家が所有している養蜂場の話だと思いますよ。あいつは相談役に就いているから……」
ウィスロッド卿の話によると、アルフォンソ様は隣国のアカデミーで昆虫の博士号を持っていて、マウントトール領の養蜂場だけでなくウィスロッド領の養蚕場でも相談役を努めているみたい。
ただの虫オタクじゃ無かった……。
しかも、相談役を努める代わりに、侯爵領には優先的に良質の絹糸が卸されているのだとか……。
一応、領地に貢献はしているみたい。
チラリと向こうのテーブルを見ると、アルフォンソ様が一方的に畳み掛けるような勢いで話をしていて、エヴァリン様は引き攣った笑顔。
オタク魂に火が着いたのかもしれない。
うわぁー。
もう放っておこー。
ウィスロッド卿との会話はとても楽しかった。
王都で話題の劇の話や、最近出来た貴族向けの遊技場の話など。情報通らしく、多岐に渡って色んな話をしてくれるから飽きることがない。
いつしか私はアルフォンソ様の事は忘れて、ウィスロッド卿の話に夢中になっていた。
「……結局、ビビリー子爵が大騒ぎしていたのは、狼では無くて、鹿だったんですよ。」
「まあ!それはビビリー様も居心地の悪い思いをなさったでしょう?」
先日行われた狩猟会で、大型の狼が出たと騒ぎになった話の顛末を聞いていると、アルフォンソ様がいつの間にか此方のテーブルに移動してきていた。
「キャロライン、待たせて悪かった。僕の話は終わったよ」
「ええ?もう?」
あちらのテーブルには山のような資料が積み上げられ、エヴァリンさまは呆然とそれを眺めていた。
「ああ、蜂たちが蜜を集める量が少なくなっているらしいから、考えられる理由と対処方法については資料を渡した」
「それでいいんですか?」
「いいんだ。今日は僕たちの大切な日だし……。ジャレットありがとう。もういいよ。キャロラインの話し相手は僕がするからマウントトール嬢を送ってってくれないか?」
「ああ、いいぜ」
こうしてエヴァリン様は山のような本や書類を馬車に詰め込んで帰っていった。
ふふふっ。
本当に読むのかしら?
マウントトール様とウィスロッド卿を見送った後、アルフォンソ様は私とウィスロッド卿との会話の内容を聞いてきた。
「ジャレットとの話は楽しかった?」
「ええ。もちろんです。ウィスロッド卿は人を楽しませる会話がお上手ですのね。私の事も気遣っていただいて、素晴らしい方でしたわ!」
「そ、そう……。僕と話をしてあんなに笑ったキャロラインは見たこと無いんだけど……」
「え?そうでした?」
アルフォンソ様は少し落ち込んでいるみたい。でも、彼っていつも虫中心の話だし、特に話をしてても楽しくは無い。
「まあ……虫の話ですからね」
「……今度の休みの日空けておいて欲しい。駄目かな?」
「え?……ええ。承知しましたわ」
「デートしよう」
こうして私たちは初めてのデートをする事になった。
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