お金のために氷の貴公子と婚約したけど、彼の幼なじみがマウントとってきます

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10.帰りの馬車で

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「はぁー、アルフォンソ様、……どうしたんです?こんなお茶会にまで……」

 デュロイ公爵邸からの帰り道、馬車の中でようやく彼の腕から解放してもらって座席に座るとほっと息を吐いた。
 お姫様抱っこの羞恥プレイに、湯気が出そうなぐらいだった顔からようやく熱が引いていく。

「デュロイ公爵夫人って男性を紹介するのが趣味らしいから、僕……心配で……」

 どうしてそんなにしょぼんとした顔をしているのでしょう?
 そして、そんな事誰に聞いたんでしょう。男性を紹介されるって……?
 そんなはずないのに……。

「ああ、その噂……聞いた事があります。恋のクピドを自負してるって。でもそれは政略結婚で跡継ぎを産んだ後のご夫人相手で……。今日の招待は私とマウントトール様のバトルを見たかっただけかと……」

 社交界で噂になっていたからね!

「ええ!そうなの?そういえばエヴァリンも居たね」

「え…。……マウントトール様ってば、その程度の認識?『虫マニア仲間』っておっしゃってましたものね。ってことは私……ヤキモチやく必要……無かった?」

「ヤキモチって……嫉妬してくれたの?嬉しいな……」 
 
 アルフォンソ様は私の肩口に顔を埋めるようにギュッと抱きついた。
 彼ってスキンシップが多くて、慣れない私は恥ずかしくてしょうがない。
 
 だけど、アルフォンソ様がすると年上なのに何だか可愛く見えて……許せちゃう。

「普通しますよ。婚約者……なんです……から」

 彼は素直に愛情を伝えてくれるのに、私は出来ない。どうしても恥ずかしくなってしまう。

「僕……恋なんて初めてだし……エヴァリンが君に迷惑掛けてたのも気付かなくて……ごめんね。頼りなくて……。だけど、キャロラインにだけは知っておいて欲しい。僕は君だけが好きだよ。キャロライン以外の女性を意識したことすらないんだ。こんな気持ちになったのは初めて……だから……」

 アルフォンソ様は身体を離すと、私の両肩に手を置いて真っ直ぐに視線を合わせてきた。彼の誠実さが分かる真剣な顔。その真摯で迷うことの無い視線は、彼の熱量を私に伝えてくれる。
 
「政略結婚とかじゃ無くて、僕はキャロラインと恋がしたいんだ。ねぇ、僕と一緒に恋をしてよ」

 お茶会の帰りの馬車の中。素敵な景色もプレゼントも無い。けれどそんなところが、不器用な彼らしいと思ってしまう。

  傷付くのが怖くて『お金目当て』なんて言い訳を作って、アルフォンソ様との恋愛から目を背けていた。

 私とは違う。彼の生真面目さが、その熱量が私の心を震わせる。 アルフォンソ様との恋愛に溺れてしまってもいいと思う自分がいた。

「じゃあ……私も好きになって良いですか?私……重いかもしれませんよ?」

 心のどこかに沈んでいた錨。それは弱い私の心が彷徨ってしまわないように、私自身が沈めたお守りだ。
 アルフォンソ様は恋なんて初めてだって言いながらも、傷付くことを恐れないで前へ前へ進んでいく。だから私も彼の手を取って共に歩んでいきたい。

「うん。重い恋愛も歓迎。きっと僕も重いからね」

「はい。覚悟してます」

 照れながら、彼の身体に腕を回した。ギュッと抱きつくなんてまだ出来ないからそっと身体を寄せる。でもアルフォンソ様はそれじゃもどかしかったみたい。
 身体をぎゅうぎゅう抱きしめられて、息が苦しい。興奮してるのか、力加減が分からないのか……

「ア、アルフォンソ様……く、苦しい」  
「あっ!ご、ごめん……」

 パッと腕の力を抜いて、申し訳なさそうに眉を下げる。その情けない表情は『氷の貴公子』なんて呼び名とは無縁の人みたい。

「こ、これからは私が抱きつきますから、しっかり受け止めてくださいね」
 
 相変わらず可愛げの無い言い方。
 だけど、彼は「もちろん」って言ってふわりと笑った。


~~~


 デュロイ公爵邸での『お姫様抱っこでお茶会途中退席』以降私にはお茶会の案内が沢山届いた。

 エーデルワイス様が参加するべき家の招待を選別してくれて、私はそれに出席している。残念ながらマウントトール様は王宮内でも同じ派閥で顔を合わせる事が多い。

 アルフォンソ様はマウントトール様も出席するお茶会の日には必ず予定を合わせて迎えに来てくれる。毎回お姫様抱っこでの退席は恥ずかしいので丁寧に断った。

 マウントトール様は路線を変更したみたい。

「アルって昆虫の博士号も持ってるから専門的な話がしたいのよ。私ならずっと専門的な話を聞いてあげられるから……。婚約者なら少しは彼の趣味も理解してあげた方がいいんじゃない?」

 ほー!そうきたかっていうような見事な路線変更。
 だけど今度は私も負けていなかった。

「アルフォンソ様、私と昆虫の専門的なお話をしたいですか?」

 お茶会に迎えに来てくれたアルフォンソ様に、マウントトール様の目の前で質問してみた。

「え?恋人とそんな話はしたくないな。僕はもっと君の話が聞きたいし、恋人同士の甘い会話も楽しみたい」

 アルフォンソ様は私の頬にキスを落とす。皆の前でこんなことされるのは恥ずかしいけど、もう止めても無駄なのは分かってる。『氷の貴公子』なんて呼ばれてた頃とはうって変わって、彼は人前でのイチャイチャが結構好きだ。
 理由を聞くと『牽制さ』って笑う。

 その蕩けるような表情に、周囲の令嬢たちはため息を漏らす。

 それでも諦めないマウントトール様。
 最早意地になっているのかも……。

「夫婦になると長い時間を一緒に過ごすものですもの。一時の甘い感情なんて直ぐに忘れてしまいますわ。やはり同じ趣味を持つ方が良いのでは?」

 なんて言い続けている。





 そして『虫のマニア仲間』をアピールし続けた彼女がどうなったかと言うと、『蟲の森』が隣接するガガオーイ辺境伯からの縁談があり、そこに嫁ぐことが決まった。

 辺境から王都までは馬車で5日ほどかかる。
 
 それから彼女は王都には滅多に姿を表さなくなった。

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