10 / 12
10.帰りの馬車で
しおりを挟む「はぁー、アルフォンソ様、……どうしたんです?こんなお茶会にまで……」
デュロイ公爵邸からの帰り道、馬車の中でようやく彼の腕から解放してもらって座席に座るとほっと息を吐いた。
お姫様抱っこの羞恥プレイに、湯気が出そうなぐらいだった顔からようやく熱が引いていく。
「デュロイ公爵夫人って男性を紹介するのが趣味らしいから、僕……心配で……」
どうしてそんなにしょぼんとした顔をしているのでしょう?
そして、そんな事誰に聞いたんでしょう。男性を紹介されるって……?
そんなはずないのに……。
「ああ、その噂……聞いた事があります。恋のクピドを自負してるって。でもそれは政略結婚で跡継ぎを産んだ後のご夫人相手で……。今日の招待は私とマウントトール様のバトルを見たかっただけかと……」
社交界で噂になっていたからね!
「ええ!そうなの?そういえばエヴァリンも居たね」
「え…。……マウントトール様ってば、その程度の認識?『虫マニア仲間』っておっしゃってましたものね。ってことは私……ヤキモチやく必要……無かった?」
「ヤキモチって……嫉妬してくれたの?嬉しいな……」
アルフォンソ様は私の肩口に顔を埋めるようにギュッと抱きついた。
彼ってスキンシップが多くて、慣れない私は恥ずかしくてしょうがない。
だけど、アルフォンソ様がすると年上なのに何だか可愛く見えて……許せちゃう。
「普通しますよ。婚約者……なんです……から」
彼は素直に愛情を伝えてくれるのに、私は出来ない。どうしても恥ずかしくなってしまう。
「僕……恋なんて初めてだし……エヴァリンが君に迷惑掛けてたのも気付かなくて……ごめんね。頼りなくて……。だけど、キャロラインにだけは知っておいて欲しい。僕は君だけが好きだよ。キャロライン以外の女性を意識したことすらないんだ。こんな気持ちになったのは初めて……だから……」
アルフォンソ様は身体を離すと、私の両肩に手を置いて真っ直ぐに視線を合わせてきた。彼の誠実さが分かる真剣な顔。その真摯で迷うことの無い視線は、彼の熱量を私に伝えてくれる。
「政略結婚とかじゃ無くて、僕はキャロラインと恋がしたいんだ。ねぇ、僕と一緒に恋をしてよ」
お茶会の帰りの馬車の中。素敵な景色もプレゼントも無い。けれどそんなところが、不器用な彼らしいと思ってしまう。
傷付くのが怖くて『お金目当て』なんて言い訳を作って、アルフォンソ様との恋愛から目を背けていた。
私とは違う。彼の生真面目さが、その熱量が私の心を震わせる。 アルフォンソ様との恋愛に溺れてしまってもいいと思う自分がいた。
「じゃあ……私も好きになって良いですか?私……重いかもしれませんよ?」
心のどこかに沈んでいた錨。それは弱い私の心が彷徨ってしまわないように、私自身が沈めたお守りだ。
アルフォンソ様は恋なんて初めてだって言いながらも、傷付くことを恐れないで前へ前へ進んでいく。だから私も彼の手を取って共に歩んでいきたい。
「うん。重い恋愛も歓迎。きっと僕も重いからね」
「はい。覚悟してます」
照れながら、彼の身体に腕を回した。ギュッと抱きつくなんてまだ出来ないからそっと身体を寄せる。でもアルフォンソ様はそれじゃもどかしかったみたい。
身体をぎゅうぎゅう抱きしめられて、息が苦しい。興奮してるのか、力加減が分からないのか……
「ア、アルフォンソ様……く、苦しい」
「あっ!ご、ごめん……」
パッと腕の力を抜いて、申し訳なさそうに眉を下げる。その情けない表情は『氷の貴公子』なんて呼び名とは無縁の人みたい。
「こ、これからは私が抱きつきますから、しっかり受け止めてくださいね」
相変わらず可愛げの無い言い方。
だけど、彼は「もちろん」って言ってふわりと笑った。
~~~
デュロイ公爵邸での『お姫様抱っこでお茶会途中退席』以降私にはお茶会の案内が沢山届いた。
エーデルワイス様が参加するべき家の招待を選別してくれて、私はそれに出席している。残念ながらマウントトール様は王宮内でも同じ派閥で顔を合わせる事が多い。
アルフォンソ様はマウントトール様も出席するお茶会の日には必ず予定を合わせて迎えに来てくれる。毎回お姫様抱っこでの退席は恥ずかしいので丁寧に断った。
マウントトール様は路線を変更したみたい。
「アルって昆虫の博士号も持ってるから専門的な話がしたいのよ。私ならずっと専門的な話を聞いてあげられるから……。婚約者なら少しは彼の趣味も理解してあげた方がいいんじゃない?」
ほー!そうきたかっていうような見事な路線変更。
だけど今度は私も負けていなかった。
「アルフォンソ様、私と昆虫の専門的なお話をしたいですか?」
お茶会に迎えに来てくれたアルフォンソ様に、マウントトール様の目の前で質問してみた。
「え?恋人とそんな話はしたくないな。僕はもっと君の話が聞きたいし、恋人同士の甘い会話も楽しみたい」
アルフォンソ様は私の頬にキスを落とす。皆の前でこんなことされるのは恥ずかしいけど、もう止めても無駄なのは分かってる。『氷の貴公子』なんて呼ばれてた頃とはうって変わって、彼は人前でのイチャイチャが結構好きだ。
理由を聞くと『牽制さ』って笑う。
その蕩けるような表情に、周囲の令嬢たちはため息を漏らす。
それでも諦めないマウントトール様。
最早意地になっているのかも……。
「夫婦になると長い時間を一緒に過ごすものですもの。一時の甘い感情なんて直ぐに忘れてしまいますわ。やはり同じ趣味を持つ方が良いのでは?」
なんて言い続けている。
そして『虫のマニア仲間』をアピールし続けた彼女がどうなったかと言うと、『蟲の森』が隣接するガガオーイ辺境伯からの縁談があり、そこに嫁ぐことが決まった。
辺境から王都までは馬車で5日ほどかかる。
それから彼女は王都には滅多に姿を表さなくなった。
84
あなたにおすすめの小説
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして
犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。
王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。
失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり…
この薔薇を育てた人は!?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
勇者になった幼馴染は聖女様を選んだ〈完結〉
ヘルベ
恋愛
同じ村の、ほのかに想いを寄せていた幼馴染のジグが、勇者に選ばれてしまった。
親同士も仲良く、族ぐるみで付き合いがあったから、このままいけば将来のお婿さんになってくれそうな雰囲気だったのに…。
全てがいきなり無くなってしまった。
危険な旅への心配と誰かにジグを取られてしまいそうな不安で慌てて旅に同行しようとするも、どんどんとすれ違ってしまいもどかしく思う日々。
そして結局勇者は聖女を選んで、あたしは――。
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる