微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

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婚約解消!?

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 私の名前はフラヴィア・カリテス。

 今年も社交シーズンが始まり伯爵令嬢である私もせっせと夜会に出席している。地味顔の私は、ドレスもきらびやかな宝石も、盛った髪型も似合わない。柔らかくてクセのある髪は全然まとまってくれないし、背も低い。おまけにそこまで太くは無いと思うのに、この必要以上に大きい胸のせいで、ドレスを着ると太って見えてしまう。
 太くはない。断固太くは無い!
 けれど、夜会が苦手だなんて言っていられないのが悲しいかな、現実。

 まともに社交も出来ない令嬢がいるのでは、カリテス伯爵家の名に傷がつくのである。
 
 え?あれは……

「アンドレア様?」

 婚約者に似た後ろ姿を見かけて声を掛けると、彼は振り向いて私を見るなり、大きく目を見開いた。

「え、あ……あっ……フラヴィア……」

 彼がこんなに焦るのはおそらくコレが原因だろう。
 彼の隣には可憐な美少女が……。彼女はアンドレア様の腕に凭れるように寄り添っていた。
  
「ど、どうしてここに?今日は出席しないと聞いていたんだが……」

「私、レティシア様に誘われまして……。急遽参加することにしましたの。……それより、隣の方を紹介してくださいませんか?」

 アンドレア様の隣に立つのは美しく波打つピンク色の髪と、クリクリしたエメラルドグリーンの瞳がとっても可愛らしい少女。まだ、デビューしたばかりだろうか?

 あどけなさの残る少女なのに、その白く透き通る肌はほんのりとした色香も併せ持っていて……。
 アンドレア様と並ぶと絵画のようにお似合い。   
 そんな二人を見てたら胸がツキンと痛んだ。

「フラヴィア、彼女はビビアン・エポナ伯爵令嬢」

 アンドレア様は気まずそうにしていたが、鉢合わせしてどうにもならないことを悟り、腹を括ったようだった。

「はじめまして。わたくし、フラヴィア・カリテスと申します」

 私が挨拶すると、エポナ伯爵令嬢はほんの少し気まずそうに微笑んで、意味ありげな視線をアンドレア様に送った。

 それは何とも言えない感じの表情で……。
 私は愛想笑いを浮かべながら、胸がざわつくのを感じた。
    
「フラヴィア」と呼ばれてアンドレア様を見ると、彼は申し訳なさそうな顔をした後、私に向かって頭を下げた。

「ごめん。フラヴィア、俺、君との婚約を解消したいんだ」

「え?」

「パーティーで……ビビアンと出逢った。まるで運命のようだった。魂の片割れのように惹かれ、愛し合う関係になったんだ。君には申し訳無いと思う。けれど、どうか俺のことは諦めて欲しい」

「そんな……」
 
 嫌な予感が当たった。

「婚約解消に向けての違約金は此方で準備する。もちろん慰謝料も。本当にごめん」

 話によると、娘を溺愛するエポナ伯爵が娘の希望を叶えるために、違約金の一部を払うと申し出てくれたそうだ。

「フラヴィア様!本当に申し訳ありません。お金はきちんとお払いいたしますわ。横恋慕したわたくしが悪いのですもの……」

「ああ、ビビアン!君は悪くないんだ。フラヴィア、恨むなら俺を恨んでくれ!君という婚約者がありながら、俺はビビアンと出逢って、一目で恋に落ちてしまったんだ!」

「いいえ、アンドレア様。私が悪いのです」

 アンドレア様がビビアン様を庇うように前に出ると、ビビアン様は更にそれより前に出て、私に跪いた。
 恋人同士がお互いを庇い合う美しい光景。

「わたくし……ずっと昔からアンドレア様に憧れていましたの。もちろん、婚約者がいるからと何度も諦めようとしました。けれど、運命の悪戯で私達は出逢ってしまったのです」

 ビビアン様の潤んだ大きな目からポロリと涙が溢れた。アンドレア様は微笑みの貴公子と呼ばれるほど人気がある。ビビアン様はデビュー前からずっとアンドレア様に憧れていたと涙ながらに訴えた。

 天使のように美しい少女の流す涙は、周囲の人達の同情を引く。
 
 そりゃそうだ。
 一方はデビューしたばかりの儚げな美少女。一方の私は貴族令嬢としては嫁き遅れの25歳。ちょっとぽっちゃり体型で二の腕だって逞しいもの。

 観衆だって、ビビアン様の味方だと思う。
 運命的な出逢いを果たした美男美女の邪魔をする私は、さながら悪役。

 最近は貴族でも恋愛結婚に憧れる令嬢が多いから、アンドレア様とビビアン様の運命の純愛なんて、憧れの対象じゃないかしら?
 
 直接関係ないはずの令嬢たちまでが、胸の前で手を合わせて私たちの三角関係の行方を見守っていた。

「アンドレア様婚約解消の件は了解いたしました。お二人で幸せになってくださいませ」

 周囲から漏れる安堵の溜息。そして、二人を祝福する温かな眼差し。この場所で駄々を捏ねたり、二人に怒りをぶつけるわけにはいかなかった。

 私はビビアン様みたいにうまく泣けないから、周りの人たちは私の態度はあっさりして見えただろう。

 とうとう振られちゃった……。
 アンドレア様は社交界の人気者。でも、私は彼より四歳も年上だし美しくもない……。社交界で微笑みの貴公子なんて異名で呼ばれているアンドレア様とは月とスッポン、そもそもが不釣り合いなのだ。

 そうだよね。わかってた。
 アンドレア様は私との結婚に前向きじゃないってこと。

 アンドレア様のカフスとビビアン様のネックレス。シルバーの台座に大きなサファイアのデザインがそっくりで……きっとお揃い。私は彼にお揃いの物なんてブレゼントされた事もない。

 悲しいし情けない……。

 今までアンドレア様の隣に立つべく頑張ってきた。でも、政略結婚でアンドレア様を縛ろうとした私が悪かったのかも……。

 「はぁーーーっ」

 抱き合って喜ぶ新カップルに人々の注目が移るなか、私はこっそりと溜息を吐いた。


 
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