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ミリー視点
しおりを挟む私はミリー・カヌス。
ウィリデ侯爵家で働く侍女。実家のカヌス男爵家は貴族とは名ばかりで領地も何もない末端の貧乏貴族だ。
私はお行儀学校を卒業した後、すぐにウィリデ侯爵家に勤めることになり、その家のひとり娘であるアリア様に小さな頃から仕えてきた。
アリア様はプライドが高くて、気難しい。侯爵家の甘い教育のせいだろう。
他にも何人もの侍女が居たが、皆長くは続かずに辞めてしまって、私一人だけが残った。
そんな彼女は類稀なる美女。デビュタントを迎えると同時に社交界の華として常に注目を浴びてきた。
皆がひれ伏して当然、そんな感覚のまま成長したお嬢様は、気に入らない令嬢がいると、意地悪をしていた。
私は昔からそんなお嬢様に命じられて、色んな事をしてきた。他の令嬢のドレスを汚したり、不名誉な噂を流したり……。
でも、こんな……犯罪の加担をさせられるなんて……
「お久しぶりです。ミリー嬢」
「グラディウス公子……」
侯爵家からの用事で商家までのお遣いに出た後、帰り道で声を掛けられた。
私に声を掛けてきたのは、グラディウス公爵家の嫡男シリル様。
今、お嬢様が熱を上げている人だ。
私はお嬢様に命じられ、グラディウス公子の恋人に薬を盛った。彼女を救護テントに置き去りにして、魔物に襲わせる計画だった。
お嬢様はグラディウス公子を自分の婚約者にするために、フラヴィア様が邪魔だと考えたようだった。
けれど……
本当はどんなことをしても、王太子殿下やグラディウス公子がお嬢様を選ぶことは無いと私は思っていた。
一見、お二方ともお嬢様に対して友好的な態度だが、彼らがお嬢様を見る目。その奥には嫌悪感がはっきりと見て取れる。
お嬢様は明らかに嫌われているのに、どうしてそれに気づかないのだろう。
だからといって、私がお嬢様に意見出来るはずがない。
私は命じられるまま、グラディウス公子の恋人フラヴィア様に睡眠薬を盛った。
狩猟会では魔獣が結界を突き破り大きな騒ぎとなったが、フラヴィア様は無事。それどころか怪我人も出なかった。
私は計画が失敗したことで内心ほっとしていた。けれど、グラディウス公子が私に会いに来たってことは、お嬢様の仕業だってことがバレた?
「今からウィリデ侯爵邸に戻るのですか?」
グラディウス公子は鋭い人物。全て見透かされているようで、思わず目を反らせた。
「え、ええ」
「差し出がましいようですが、僕は戻らない方が良いと思いますよ?」
「……どうしてですか?」
「狩猟会での事件の捜査が進んでいます。ウィリデ侯爵を拘束するための手続きも進んでいますよ。明日には拘束されると思いますね」
「何故、私にそれを?私は侯爵家の人間ですよ?」
「調書を読んで、僕だったら貴女の口を封じるな、と」
「……そう……ですか」
そうかもしれない。ウィリデ侯爵ならそうするだろう。
けれど私にはウィリデ侯爵家に戻る他、選択肢はない。
「家族の事、ですよね?」
「え?」
「カヌス男爵家はグラディウス公爵家で守りますよ。貴女が気にしているのは家族のことでしょう?」
え?何故それを……。
確かに私はウィリデ侯爵家を裏切ったことで家族に報復されることを恐れていた。
「私はフラヴィア様に薬飲ませたのに、どうしてそこまで……?」
恋人を殺されそうになったのに……?
私が知る彼は、人に同情するような性格では無い。他人に関心なんか無さそうで、夜会でもいつもつまらなさそうにしていた。
「僕は別に貴女に同情しているんじゃありませんよ。個人的にはヴィアを殺されそになって非常に腹立だしいです。ただ、僕の好きなフラヴィアって女性は命令されて薬を盛った貴女に同情すると思うので」
彼は淡々と話を続ける。
「彼女、自分はお人好しじゃないなんて思ってるみたいですけどね、僕からみれば底無しのお人好しなんです。まあ、そこがヴィアの可愛いところなのでいいですけど……。彼女に悲しい思いはして欲しくない。僕の目的はそれだけですよ」
彼は冷たく私を見据える。そして小さく息を吐いた。
「で、どうします。僕はグラディウス公爵家の庇護下で証言した方がいいと思いますけどね。何よりもご家族のためですよ」
そう言われて心を決めた。
私は自分の名誉のためにも、プライドのためにも、今までのことを全て証言して然るべき罰をうけよう。
「グラディウス公子についていきます。証言もします。その代わり、家族のことはお願いします」
「良かった」
私はグラディウス公子に連行されて、王宮へと向かった。
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