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6.副団長さんの猛攻
しおりを挟む掃除が終わり、遅めの朝食を食べていると、何人かの宿直明けの騎士たちが食堂へ入ってきた。
「君がカナデ?よろしくな。」
「はじめまして。よろしくお願いします。」
「カナデっ!」
初めて会う騎士たちと挨拶を交わしていると、副団長さんが私のテーブルへとやって来て椅子をくっ付けてそこに座った。
「副団長さん?」
「カナデ。隣で食べて良いだろうか?それから俺の事はこれからシーヴァーと呼んでくれ。」
「はぁ……。名前呼びなんて失礼じゃありませんか?」
「いい。カナデだけには名前を呼ばれたい。」
甘い表情でそんな事を言うシーヴァーさんに、食堂にいる騎士達が驚いている。
「え?副団長??」
当のシーヴァーさんは、そんなみんなの困惑など、まるで無視。
(あの、どんな美女も一晩で捨てる副団長が?)
(女を口説いた事も無いくせに、いつも女を連れてるあの副団長が?)
(とことん冷たくて氷結騎士なんて呼ばれているあの副団長が?)
騎士さんたちのヒソヒソ声が耳に入った。
副団長さんって女性トラブル多いのかしら?そういう人と職場内恋愛すると、別れた後で気まずくなるよね。適切な距離を心掛けなきゃ。
「仕事とプライベートは分けたいです。副団長さん。」
私がわざと名前を呼ばないことに気がついた副団長さんは、明らかにガッカリした表情で私を見つめた。
ごめんなさい。ヤリ逃げしておいてなんだけど、職場内恋愛は避けたいの。
シーヴァーさんの捨てられた子犬のような瞳に罪悪感が募り、私は申し訳ない気持ちになって、目を逸らした。
「副団長さん、お先に失礼します。」
私は喉を詰まらせそうになりながらも、急いでパンとスープを胃に流し込み食堂を後にした。
うう……背中に視線を感じる。痛いぐらい。
(副団長さんってもしかしてヤバい人??)
副団長さんの粘着質な言動に微かな不安を覚えたけれど、彼はモテそうだし直ぐに新しい彼女を見つけて、私への奇妙な言動もなくなるに違いないわーー
その時はそう思っていた。
けれどーー
副団長さんはちょっとストーカー気質??
翌日、ランチのために食堂に行くと私の座る席を確保してある。しかも、スイーツ付き。副団長さんの縋るような視線と、周りの騎士たちの誘導により、私は隣の席に座ることになった。
「これ、どうしたんですか?」
机に置いてあるのは薄いピンク色をしたまあるい形の食べ物。フルーティーで美味しそうな香りが漂っている。
「カナデが喜ぶかと思って。第5騎士団に来てくれた歓迎の意味を込めて買ってきたんだ……。」
そんな事を言うから、そのスイーツは有り難くいただいた。
ベリー系のムースのような味わい。さっぱりしていて美味しいっ。
「こういう甘酸っぱいスイーツ大好きですっ。」
元の世界のケーキ屋さんで売っているようなムースに自然と顔が綻んだ。
「そ、そうか……。喜んでくれて嬉しい。」
それから副団長さんは、有名カフェのスイーツを私のためにほぼ毎日買って来てくれた。
嬉しいし有り難い……だけど少し愛が重い。
☆
「副団長さん、宿直明けでしょ?しかも昨晩は忙しかったって聞きましたよ。ちゃんと寝て下さいね。」
「あ、ああ。」
副団長さんは勤務時間以外を全て私のために使っているみたい。だって、必ずそばにいるもの。
掃除や片付けを手伝ってくれるのは嬉しいけど、是非とも身体を休めて欲しい。
私がいくら言っても副団長さんは帰ろうとしなくて……仕方がないので治療室のベッドで休んで貰うことにした。
「い、いいのか?」
「ええ、だっていくら言っても帰らないんですもの。ここで仮眠をとってくださいな。」
「夢のようだ。この部屋はカナデの匂いがする。そんな場所で眠れるなんて……。」
私の匂い??
ちょっと、そんな変態的な事を言わないで貰いたい。私って体臭キツかった??
なるべく香りの強い石鹸を早急に買ってこなくちゃ。
私は副団長の寝顔を見ながらそう決心していた。
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