夫に裏切られ子供を奪われた私は、離宮から逃げ出したい

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※悲惨です。地雷注意。
※救いのないバッドエンドです。
※読まなくても大丈夫です。話は繋がります。

 母親が離宮の窓から身を投げた。
 表向きは『長年の病を苦にして』ということになっているが、俺が酷い言葉をぶつけたせいだ、そう思う。

 父上の話によると、母親は陰湿で悪辣な性格。浪費家でもあり悪女として有名だったという。

 俺はそんな母親の血が流れる自分を恥じていた。 
 だから、実の母親が死んでも、なんの感情も湧かなかった。






「何?公爵領で?」

「はい。アースウェルの領民が自主的に妃殿下を偲んで、一ヶ月間喪に服し、祭りなども中止するそうです」

 嫁いでしまった領主の娘にそんな事をするなんて聞いた事が無い。
 アースウェルの領民は随分と情に厚いらしい。俺は陛下に呼び出された。そして直接公爵領へ赴いて領民の主催する追悼式に参加し礼節を尽くすよう命じられた。

 今まで悪女の子供であることを恥じていて公爵領へ行くことは避けてきた。浪費家で横暴で苛烈な性格の母は、使用人にも領民にも嫌われていると父上から聞いていたから……。

 けれど、予想に反して、俺はアースウェル公爵家で温かく迎えられた。

「ザッカリー様にはどことなくイーリス様の面影がありますわね。勿論、ヒューバート殿下にそっくりですが……」
「これっ!余計なお喋りをするでない!」

 公爵家の年配のメイドが俺に話し掛けてくるのを執事が軽く咎めた。

なんだ……この優しい雰囲気の屋敷は……。使用人共々みんな家族のように温かい。

「ザッカリー様、イーリス様は公爵家では皆に好かれていましたの。その……離宮ではどんな風にお過ごしだったのか聞いていませんか?」

「皆が母を好いていただと……?」

「あっ、はい。イーリス様は庭師にも気軽にお声を掛けるようなお優しいお嬢様でしたの。身分の差を気にすることなく、誰にでも分け隔て無く接するので、領民にも人気でしたのよ!」

 本当に?
 父上から聞いていた母のイメージとは随分違う。
 
 俺は領地の至るところで領民たちに歓迎された。とても母親が嫌われものの悪女だったとは思えない。

 俺はなんだか落ち着かない気分になって……。王都に戻ると直ぐに離宮を訪れた。喪が明けるまでは私物は片付けないことが、この国の慣習だ。なのに、こそこそと離宮を片付ける使用人たちを見掛けた。

「喪が明けるまで、故人の物はそのままにしておくのが習わしだろう!」

「ひゃあ!ザ、ザッカリー殿下……」

「言え!誰の命令だ?誰の命令で荷物を運んでいる?」

「そ、それは……ご、ご勘弁を……」
 
「言わねば、荷物を持っているお前の腕を斬り落とすぞ!」

「ひ、ひぇっ!お、王太子殿下です!わ、私が話したことは、どうか内密に!」

「その荷物をそこに置いて、直ぐに去れっ!!」

「は、はいーーっ!!」

 その使用人は地面に箱を置くとそのまま足早に逃げていった。

 俺は箱の中身を空けてみた。

「これは……」

 そこには手紙の下書きらしきものが……。書き損じたのか、途中で字を間違えたり、文面を直した跡がある。

「あの人の書いた手紙……『成人おめでとう……』?」

 これは俺に宛てて書いたものなのか……?

 箱の底の方には色褪せた手紙もあった。

『ザッカリー、そろそろ家庭教師との勉強は始まったのかしら?貴方はお父様の後を継ぐのだから大変だと思う。だけど頑張ってね。お母さんはいつも貴方を応援しているわ。そばに居てあげられなくてごめんね』

『そろそろ、ダンスは覚えた?お母さんも貴方と一緒に踊ってみたかった。こんな病気になってしまってごめんね』

 俺の成長に合わせた手紙が箱いっぱいに詰められていた。
 そしてその手紙には何度も何度も俺への謝罪が綴られている。

『病気になって、そばに居られなくてごめんね』と。

 この文面のどこが悪女なのだろう……。

 俺を騙していたのは父上の方なのか……?

 俺はフラフラと離宮の中にある母親の部屋へと向かった。
 離宮にある母上の部屋は質素な佇まい。
 けれど、その壁には俺の姿絵があった。

 「ん?……これは?」

 部屋の片隅に置かれたタンスの奥に幼子用の手編みの手袋や靴下が置いてあった。

 宝物だったのだろうか……綺麗な布にそれは丁寧に包んであった。

「これも……俺のもの……」

 手足が痺れ、……身体が震える。
 涙で視界が霞む。   
 どうしてこの手紙を俺は知らない?
 どうして俺の部屋には母上の手作りのものが一つも無い?

 俺は剣を持って侍医の元に行き、彼を脅して全てを聞いた。

「なんということ……陥れられたのは、母の方だったのか……」

 母の評判どころか、病気でさえ嘘だと、侍医は言った。

「父上ーーっ!!」

 俺は怒りに任せ王太子宮にある父上の部屋へと乗り込み、その喉元にに剣を突き付けた。

「父上!本当は父上が母を嵌めたんですね!」

「な、何を?落ち着け!何を聞いたんだ!」

「全てだよ!あんたたちが母上にしたこと全てを聞いた!」

「ご、誤解だ!れ、冷静に話を聞いてくれ!」

「誤解なんて無い!公爵領の民たちの……そして使用人たちの母への好意、離宮に遺された母上の遺物に込められた思い!それ以上の真実なんて無い。あんたたちの言うことはいつも口先ばかり。そんなあんたたちを疑うことすらせずに騙された俺の間抜けさにもうんざりだ!」

「お前は将来王となる身だ。そのような事で未来を壊す気か?」

「うるさい!うるさい!」

 俺は父上の声などもう聞いていたくは無かった。
 ありったけの力で剣を振り下ろすと、父上は少し呻いて力無く地面に崩れ落ちた。

「きゃあーーーっ!!」

 父上と一緒に部屋に居たカサンドラが恐怖で金切り声をあげた。
 この女も母を貶めていた。父と共犯だ。

「お前も……俺を騙していたんだな」

「ざ、ザッカリー……聞いて、私は貴方を今まで育てて来たのよ?や、やめて……」

「お前も同罪だ!」

 俺は再び剣を振り下ろした。

「ぎゃあああーーー!!」

 大袈裟に叫ぶカサンドラを何度も何度も斬りつける。
 護衛騎士たちも、王族である俺に剣を向けるのを躊躇している。俺は剣を振り回しながら、王太子宮を抜け、母親の遺体が埋葬されている墓地へと向かった。

「母上……母上……」

 既に俺の身体はボロボロだった。剣を振り回して逃げる俺に向け放たれた矢は、腕と足に貫通していた。

 母上が離宮から身を投げるまで追い詰めたのはこの俺だ。

「母上……ごめ゛ん゛な゛さいーー」

 涙が止まらない。
 俺が生まれたばかりの頃、こんな風に泣きながら母上の腕に抱かれていたのだろうか?

 戻りたいーー。

 騎士たちが俺を取り囲む。俺は最後の力をふりしぼり、自らの胸を貫いた。














※救いがなくて申し訳ありません。
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