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きゅう
しおりを挟む「ヒューバートよ。お前が愛人のカサンドラと一緒にいるために邪魔になったイーリスを排除しようと離宮に隔離したのは明白」
「わ、私はそのような大それた事は……」
ヒューバート殿下は狼狽えて頭を振った。
「これから大勢の証人が出てくる。アースウェル公爵を怒らせたのだ。相応の覚悟は出来ているだろうな?」
「……。」
殿下の握られた手にその悔しさが滲む。
「イーリス、儂の可愛い孫を部屋で寝かせてやってくれないか?ヒューバートの処分は儂とアースウェル公爵に任せてくれ」
「はい。陛下……お気遣いありがとうございます」
陛下がそう言ってくれたのは正直有難かった。離宮で軟禁されていた私は体力も落ちていてここに立っているだけでも辛かった。
「お父様……」
「ああ、イーリス、任せなさい」
お父様が力強く頷いてくれるのを見て、きっと準備は万端なのだろうと思い全てを任せることにした。
「陛下、御前失礼します」
私はクリフを抱き玉座の間を後にした。
ヒューバート殿下視点ーーーー
玉座の間を出ていくイーリスを絶望的な気持ちで見送った。
陛下がイーリスを下がらせたのは、これからの審議が長く、容赦の無いものになるからだろう。
イーリスは情に厚いところがある。彼女が居れば俺を庇ってくれたかもしれないのだが……。
そしてそれは予想通り。
玉座の間にはアースウェル公爵の用意した証人が次々と現れた。
イーリスに盛った薬の入手先や帳簿だけでなく、ほんの僅かに薬を運んだ仲介業者や薬を栽培した人物まで細かく調べ上げられている。流石、完璧主義で知られる公爵だ。俺に反論する隙を与えない。
勿論、俺に協力した貴族たちも全員詳細に調べ上げられていた。アースウェル公爵の怒りだろうか?別の罪まで追加されている。
そして、ザインビーク伯爵も、アルスラン伯爵も、王太子妃を害そうとした計画に加担したとして爵位は剥奪され王都を追放されることになった。
ケネスは本来なら極刑であるが、王太子の命令に逆らえない立場だったとして、強制労働所送りになった。
俺がイーリスを大切にしていれは、アースウェル公爵は俺の味方だったのに……。後悔しても遅かった。
目の前で積み上げられていく証拠に俺は項垂れるしか無かった。
「ヒューバート、お前は何故イーリスを裏切ったのだ?」
「……カサンドラと居ると、しがらみや重圧を忘れることが出来ました。彼女は子供を産むことが出来ないそうです。だから俺を心から愛してくれているカサンドラに俺の子を抱かせてやりたい、……そう思いました。」
「お前の子を産むイーリスを蔑ろにしても構わないと?」
「……」
俺は自分とカサンドラのことだけしか頭に無かった。
イーリスに対しては、美しくも無い女を、公爵から押し付けられたとしか……。ハズレくじを引かされたような気分で、彼女を忌々しく思っていた。
表面上はヘラヘラ笑いながら内心は『何故、王族である俺が彼女の機嫌を取らねばならないんだ』と……。
イーリスの心情なんて思いやることもしなかった。彼女は、自分の子を取られてどんな気分だったのだろう。
「娘は王家の安定のために嫁ぎました。ヒューバート殿下との結婚も彼女が望んだ訳ではありません。」
アースウェル公爵は後悔を滲ませながら、最後にそう言った。
彼女の方も望まぬ結婚だったのか……。
そんな事はおくびにも出さないから知らなかった……。
俺は廃嫡となり、北の塔へ幽閉されることになった。レオンハルトの執政を危うくすることの無いように俺は生涯監視付きだ。
北の塔は昔から罪を犯した王族が幽閉されてきた場所。寒暖差が激しくそこでの生活は辛いそうだ。
そして、陛下も今回の事を重く見て、レオンハルトに王位を譲り、離宮に引き籠もることになった。
「全ては儂に責任がある」
陛下は静かにそう言った。
カサンドラは最後まで納得いかないようだった。彼女は「私は何もしていません。殿下に誘われて恋人になっただけです」と言い張っていた。
アースウェル公爵の用意した書類の中には、彼女が避妊薬を購入していた証拠もあった。
そして彼女が妊娠しにくいという診断を受けた形跡は……無い。
「避妊薬の数からは、彼女が欠かさず避妊薬を飲んでいたと推察出来ます」
そうか……。俺は騙されていたのか……。
「子供を産むと身体の線が崩れるのよ?冗談じゃないわ!」
追い詰められた彼女は自己中心的で我儘なその本性を隠さなくなった。あんなに美しいと思っていた顔すら、その下品な本性を知ると醜く見える。
「触らないでっ!!嫌!!どこに連れてくつもりっ!!」
彼女は陛下や他の貴族を呆れさせるような醜態を演じ、騎士に連行されていった。
戒律の厳しい修道院に送られるそうだ。
俺は連行される彼女を見て目が覚めた。美しいのは外見だけだったのだと……。
そしてカサンドラは修道院を逃げ出したそうだ。再びイーリスを狙う恐れもあるため直ぐに捜索されたが、彼女の足取りは途絶えた。
人身売買の噂のあるブローカーが彼女と接触した形跡は見つかったが、そのブローカーも国外へと姿を消した。それ以降、国内で彼女の姿を見たものは居ない。
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