夫に裏切られ子供を奪われた私は、離宮から逃げ出したい

文字の大きさ
11 / 14

じゅう

しおりを挟む

※胸糞注意!!
※残虐な表現があります。











カサンドラ視点


 私が送られた修道院は最悪の場所。

「え?早朝から雑巾掛け?私は貴族なのに下女みたいなことをしなきゃならないの?」

 王太子の愛人だった私は、本当なら大勢の使用人に傅かれる立場……。

「ここでは貴族も平民も関係ありませんよ。皆が同じ規則の元で行動を共にします」

 嫌よ!大体、修道服って色気もないし、化粧も禁止。
 こんな場所で一生過ごすなんて冗談じゃない!
 
 移送した騎士たちが帰ったのを見計らって、私は修道院から逃げた。

 こんな地味で陰気臭い場所で暮らすぐらいなら……まだ娼館の方がマシ!

 殿下も夢中になった私の美貌なら娼館でもナンバーワンになれるはず。身体にだって自信はある。そうしたら、お金持ちに身請けしてもらって、また贅沢に暮らそう!

 私は街に逃げた。なるべく人通りの多い方の道を選んで進んで行くと、なんとか繁華街まで辿り着いた。
 お金持ちと出逢うには安い娼館より高級な場所がいい。

 花街を物色しながら歩いていると、怪しげな男性が声を掛けてきた。

「お嬢さん、どこからか逃げてきたのかい?」 

 如何にも怪しい人物。だけど、スーツは貴族の着るような高級品。身のこなしだって品がある。
 この人、高級娼館のスカウトじゃない?

「はい。今、娼館を探しているんです」

「若い娘さんが娼館かい?」

「ええ、修道院よりはマシだもの」

「勿体無いねぇ。こんなに綺麗なお嬢さんが……。ある高貴な人物が美しい女性を探しているんだ。しかし注文が多くて参っていたんだよ。君ならお眼鏡に適いそうだ。一緒に行くかい?」

 あからさまに怪しいお誘い。けれど高貴な人物か……。
 若い女が大好きな好色爺かしら?
 雑巾掛けより夜伽の方がいいわ。

「その人は本当にお金持ち?」

「それは保証するよ」

「ヨボヨボのお爺さんとか?」

「いや、そんな年寄りでは無いよ。そのお方は火傷を負っていてねぇ、城の外には出ないんだ」

 今、城って言った!
 火傷ぐらい平気。目を瞑ってすればいいもの。城に住むなら王族かしら?

「行くわ」
「良かったよ。これから長い旅になる。俺の事はダンと呼んでくれ」


 私はダンの誘いに応じた。ダンは何者なのだろう?
 既に私の分の偽の身分証は用意されていて、それを使って船に乗った。

 私を買ってくれる人は遠く離れた小さな公国のお城に住む人物だって。

 どんなお城なのかしら?






 ついたお城は大きいけれどどことなく寂しげな印象。

「ここなの?」
「ああ。伝統のある古いお城だよ」

 中に入っても照明は薄暗くてジメジメしてて何だか不気味だった。

 そして私を迎えてくれたのは、仮面を着けたスタイルの良い女性。

「え?女の人?」
「ああ、そうだよ。言わなかったかい?」

 騙された!私も買ってくれる人の性別をきちんとは聞かなかった……。

 そういえばダンは性別が分かる表現を避けていた。この女性……同性愛者なのかしら?

「ダン、とっても綺麗な子ねー。報酬は弾むわ」

「ありがとうございます、公女様」

 ダンは「怖かったらこれを飲んで」と言って薬を私に渡して帰っていった。

「は、はじめまして」

「ふふふ。可愛いわね。貴女のために特別な部屋へ案内してあげる」

 女性の相手なんてしたことない。私はダンに貰った錠剤を飲み込んだ。

「ゔっ!!」

 何、この薬!

「……う……うぅ……」

 喉が……
 焼けるように熱い……毒?
 さっき飲んだ錠剤は毒だったの?
 ダン……どうしてーー

 私は喉を掻き毟りながらのたうち回り、やがて意識を失った。






「……(パクパク)」

 声が出ない!
 そして、私は裸のまま鎖で繋がれて、硬いベッドに寝かされていた。

「ふふふ。この子、身体も綺麗ねぇ。ねぇ、リト、どうやって血を抜くの?」

「そうですねぇ……。ただ切っただけでは血は固まってしまいます。水に付けるといいのでは?」

「まあっ!そうなのね。そうしましょう!どこを斬ればいいのかしら?柔らかい所を斬った方が血が出るわよね」

 公女様の無邪気な声。仮面の奥の瞳は嬉しそうに微笑んでいる。
 まるで花を摘むような気軽さでナイフを持ち『ここが柔らかいかしら?』と言いながら私の足を触っている。
 ……や、やめて……斬らないで……

「……っ!!」

 突然足の後ろを斬られて鋭い痛みが走る。叫んでいるはずなのに、私の喉はヒューヒューとか細い音を鳴らすだけ。激痛に顔が歪み冷や汗が出る。そんな私を見ても二人は表情を変えなかった。

「ここに血を……」
「……(ヒュー、ヒュー、ヒュー)」

 ふくらはぎの傷を水に付けて皮膚をぎゅうぎゅう押して血を絞り出された。桶に張られた水が赤く染まる。気が遠くなるほどの激痛。

「綺麗な赤い水になったわ」
「もういいでしょう」

 赤く染まった桶の水を見て、リトと呼ばれる従者は満足そうに頷いた。
 公女様はその桶を自らの前に置いて仮面を取る。仮面の下から現れた顔の半分は、醜く皮膚が引き攣れていた。

「ふふ。この顔に驚いた?この醜い火傷の痕を治すには美しい女性の生き血で顔を洗うそうよ」

 な、何を言っているの……この人たち。
 そんな事、あるわけ……ない。

「美姫と有名だった公女様のお顔を取り戻すお手伝いが出来ることを誇りに思いなさい。貴女の美しい顔は選ばれたのよ」

 リトと呼ばれた従者が私の傷口を手当てしながらそう話をした。
 高圧的な態度。
 私は、王太子の恋人だったんだから……。
 あんたたちよりも価値があるんだから……。

「うん。これくらいでいいわね。明日も大丈夫かしら?」

「明日は反対側の足にしましょう」

「なるべく長く持たせないと。一ヶ月もつと良いわね」

「少しずつ切ればかなり長期間もつと思いますよ」

 公女様は仮面の奥でクスクス笑う。この人は狂ってる。

 修道院から逃げなければ良かった……。
 
 

 
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...