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じゅうさん
しおりを挟む「「クリスフォード、誕生日おめでとうーーーっ!!」」
今日はクリフの6歳の誕生日!
私達はレガンド伯爵邸で家族だけのささやかな誕生パーティーを開いていた。
実家の家族や友人を招いての大々的なパーティーは別の日にあるが、それはクリフにとってお行儀良くしなくちゃいけない大変な1日。だから今日は気軽な内輪だけの誕生会だ。
「クリフ、プレゼントよ」
「おとうさま、おかあさま、ありがとう」
私達のプレゼントが入った箱をクリフは嬉しそうに受け取った。
「クリフ、記念の手形も押してくれ」
ティルソン様は白い台紙を二枚取り出し、テーブルの上に置いた。
この国では誕生日の度に成長の記念として手形を残す風習がある。本来は1枚だけ残すものだが、ティルソン様は毎年2枚の台紙を用意してくれていた。
それはクリフが1歳の誕生日から続いていて、もう1枚の手形は、ヒューバート様に贈るためのもの。
ヒューバート様にクリフの手形を贈る事を提案してくれたのはティルソン様だった。
「幽閉されている者は皆孤独と退屈に苦しむそうです。このクリスフォード様の手形は、ヒューバート様の慰めになると思いますよ」
ティルソン様のその提案を聞いて、私は離宮での軟禁生活でどんなに孤独が辛かったかを思い出した。
ザッカリーがどんな風に成長しているのかを知りたい、いつもそう思っていた。
ティルソン様にクリフの成長を知らせる手紙を北の塔にいるヒューバート様に宛てて送りたいと言ったら、彼は思った以上に賛成してくれた。
「俺も手紙は良いと思いますよ。ヒューバート様は罪を犯したけれど、それとこれとは別ですから」
手紙の内容はティルソン様も一緒に考えてくれる。内容は本当に他愛もない無い話。
クリフが嫌いなお野菜を食べるようになった事や初めて馬を見て怖がっていた話など……。
ティルソン様は本当に公明正大な人だと思う。
「ヒューバート様がイーリス様にした事は許せませんし、夫婦だった事に対しても多少の嫉妬はあります。俺も男だし……やきもちはやきますよ。けど、彼がクリフと血を分け合っていることは事実ですし、息子の成長を知る権利ぐらいはあると思います」
そんな実直な彼が本当に好きだし尊敬できる。彼と一緒に居ると自分も正しくあろうと思えて、背筋がピンと伸びる感じ。クリフの父親としてもティルソン様は満点だった。
~・~・~・~・~
「今日は寒いわね」
「お母さまのあんでくれたマフラーがあるからへいきー」
「へいきー」
クリフが元気良く手を挙げると、妹のフィアもお兄ちゃんの真似をしてきゃっきゃっと笑う。
今日は秋の収穫祭。
私達親子4人は祭りの会場であるグラナトゥム広場に来ていた。
ティルソン様はクリフとお揃いの濃紺のマフラー。私とフィアは薄いピンクのマフラー。
全て私が編んだものだ。
収穫祭で野菜のモチーフの物を身に着けるのが最近流行っている。子供たちの中はトウモロコシのような服を着たり、かぼちゃの帽子を被ったり、皆が思い思いに仮装して楽しんでいるようだ。
「みんな派手ね。年々派手になっているみたいだわ。ちょっと地味過ぎたかしら?」
「俺はこれで良いと思うよ。イーリスの編んだものはいつもとっても暖かいしね。クリフもそう思うだろう?」
「うん!そうおもう!」
「フィアも!」
私の編んだのは茄子の形をしたミトンの手袋。ちょっと色もデザインも地味だった。
「来年はぶどうとか、桃とかもっと派手にするわね」
「うん!楽しみ!」
「フィアも!」
「さあ!折角の収穫祭だ。クリフとフィアは何が食べたい?」
「ぼく、とうもろこしー」
「フィアはおいもー」
「イーリスは何が良い?」
「私はフルーツを沢山買って帰りたいわ。お菓子を作りたいの」
「よし!順番に回ろう。まずはとうもろこしだな」
クリフと手を繋いだティルソン様はもう片方の腕でフィアを抱えた。
「イーリスは、はぐれないように、俺の服を掴んで」
「護衛も居るから大丈夫よ」
「それでも、心配なんだ」
ティルソン様があまりに真剣な顔でそう言うから、彼のジャケットの裾を掴んだ。
ティルソン様の真後ろを歩きながら、フィアを抱えたその大きな背中を見ていた。騎士らしく真っ直ぐな姿勢で人混みをかき分けて歩いていく。
あまり身長の高くない私から見ると大木のよう。その大きな背中に守られていることをふと実感した。
彼について行けば大丈夫、そう思えた。それはとても幸せな感情で、温かく胸に広がる安心感は他に例えようもない。ただ、こんな風に未来を変えることが出来たことが嬉しくて……涙が出そうになる。
「お母さまもとうもろこし食べるー?」
感傷的になっていた私を現実に引き戻すように、クリフの声がした。
クリフは網に並んだとうもろこしの前で嬉しそう。早く食べたくて仕方がないって感じだ。
「私はフィアと、はんぶんこにするわ」
私がそう言うと、ティルソン様はとうもろこしを店主から受け取ってそれを半分に割ってくれた。熱くないようにそれぞれに紙を巻いて私とフィアに渡してくれる。
「そろそろ花火の時間だな。ベンチに座ろう」
「うん!いぇーい!花火だー」
「はなびぃー!!」
4人でベンチに座ってとうもろこしを囓り「美味しいね」って笑い合う。子供たちはワクワクしながら空を見上げていた。
ここまで来るのに色んな事が沢山あった。
これからも私達家族が歩くのは決して平坦な道ばかりでは無いだろう。
けれど、今ここでこうやって祭りを楽しむ私達は紛れも無く幸せで仲の良い家族だ。
これからクリフやフィアが大きくなって真実を知ると、色んな葛藤があるに違いない。
けれど、不器用なほど真っ直ぐなティルソン様に育てられたクリフとフィアは、きっと素直で正しい子に育っているだろう。
今この幸せな記憶の積み重ねが、将来彼らの心を支えてくれる確かな礎になるといい、そんな風に願いながら私は花火を見上げた。
ーー(完)ーー
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今 作者様の作品をタイトル気になると気になるものから読んでます
これが今のところ大好きでヒロイン幸せヒーローの告白 殿下へのざまぁ愛人へのざまぁ好みです
これからさらに過去作品読み進めます
小説なろうと違って評価のつけ方がわからないので感想で失礼します
こりぞう様〜🌟
感想ありがとうございます
Ꭲʱᵃⁿᵏ Ꮍ༠ᐡ⋆♬*゜
なろうさんって評価システムあるんですね!
(о・。・о)
他のサイトをほぼ知らなくて……՞ ՞ ՞
読んでいただいて、こうして感想までくださり、本当に感謝です
♡。⑅感( ๑ºั艸ºั๑)謝⑅。♡
とても楽しく、一気に拝読させて頂きました!
1つ気になったのが、if話で、ザッカリーが父親の所に駆け込む時に「父上~~~~~!」と呼び掛ける場面で、叫ぶ際は「ー」の方を使用した方が良いのでは?と·····。
何だか、「~」だと間延びした感じがして、折角のシリアスな場面が台無しと言うか、勿体ない感じがしました( ̄▽ ̄;)
細かい指摘で申し訳ない(苦笑)
それともし叶うなら、実はクリフ(ザッカリー?)も時間を逆行していて記憶があり(生まれた時からでも、ある日を境に記憶が戻るでもどちらでも構いませんが)、そのクリフ視点が読んでみたいかな~?と。
そこで、過去(前世?)と現在の違いやら、母への罪悪感への葛藤?やら、今の幸せへの思いやらが綴られると、一読者としては大いに喜びます!(あくまで個人の感想です(笑))
ミグ様〜🌟
感想ありがとうございます
ᵗʱᵃᵑᵏᵧₒᵤও٩(❛ัᴗ❛ั⁎)ೄ
ご指摘の部分直ぐに直します
◝(⑅•ᴗ•⑅)◜..°♡
いただいた部分のお話は考えて🤔みます
一気に読了させて頂きました。
時々涙が勝手に落ちたりしましたが。
家族4人が幸せに・・・・。
とても心が救われました。
良い作品を。ありがとうございました。
蒼linnxx様💐
感想ありがとうございます
|\_/|
|― ‐―|
オハヨウ ´∧_∧_ノ___//
ゴザイマス ´(・ω・`)ニャー /
O旦⊂| _ ヽ
OOノ_/」/_/\」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
酷い展開のあるお話なのに、最後まで読んでいただけたこと本当に嬉しいです (*´ ˘ `*)♡エヘヘ