夫に裏切られ子供を奪われた私は、離宮から逃げ出したい

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じゅうに

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ヒューバート視点



 北の塔に来て10年。  
  

 イーリスを流行り病だと偽った罰が当たったのだろうか……。俺は3年前にその病に感染した。

 治療は受けているので、死にはしないが咳が出て胸が痛い。
 思うように動くことも出来ず退屈な日々を送っていた。
 誰も俺を訪ねて来ない。孤独な毎日。

 そんな俺の楽しみは皮肉な事にイーリスから来る手紙だった。

 イーリスはクリスフォードの成長を事細かく書いて俺に知らせてくれる。誕生日の度に送ってくれる姿絵や手形は俺の宝物になった。

「クリスフォードは身体を動かす遊びが好きなようです。私は運動が苦手でしたから、ヒューバート様に似たのかもしれませんね」

「先日クリスフォードが庭で転んで膝を擦りむきました。でも泣くのを我慢したの。『僕は男の子だから泣かないの』だって。逞しく成長しています』

 もしもあのまま、イーリスを離宮に軟禁していたとしても俺はこんな手紙を書くことは思い付きもしなかっただろう。
 彼女の懐の深さ、その慈愛を初めて知る。

 イーリスはクリスフォードが成人するまでは本当の父親の事は教えないつもりのようだ。王族の血を引く身。ずっと隠すわけにはいかない。

 彼女は再婚し、今ではレガンド伯爵夫人になっている。

 クリスフォードは新しい父親であるティルソンに懐いて可愛がって貰っているらしい。かつて俺の護衛騎士だった男だ。

 ティルソンの融通の利かない生真面目さが嫌いだったが、彼ならイーリスもクリスフォードも幸せにしてくれるだろう。
 不思議と悪い気分じゃない。
 

 今日も見張りの騎士から新しい手紙を受け取った。
 封筒には綺麗に折り畳まれた便箋が二枚入っていた。彼女の字は、その人柄を表すように丁寧で読みやすい。

「……ダンスを踊れるようになったのか……」

 まだ大人の肩ぐらいの身長だろうか?俺にそっくりな息子がダンスを踊る姿を想像すると涙が出る。

 手紙を読むたび会いたい気持ちが募る。どうして俺はイーリスを裏切ってしまったのだろう。あんなに酷い計画を立てられたのだろう。
 恋は盲目と言うが……あの時の自分の気持ちが理解出来ない。

 確かに俺の手にあった幸せ。俺はこの手でその幸せを握りつぶしてしまった。

 本当に病気になってしまった今では、もう二度とクリスフォードに会うことは出来ない
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