あなたへの恋心を消し去りました

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 ジニアはキマイラ皇太子の案内役としての役割をそつなくこなし、そのお陰で俺はアルマ帝国との交渉役に指名されることになった。
 
 だが俺は素直には喜べない。
 彼女が出掛ける度、嫉妬で身が焼けそうになった。
 もちろん俺に文句を言う資格など無いのだが……。

 二人は今頃何をしている?
 ジニアは俺より地位の高い皇太子に靡かない?
 本当は俺と身体を重ねるよりキマイラ皇太子の方がいいいんじゃないのか?

 醜い嫉妬。
 地獄のような時間。 
 
 だけど……。俺はキマイラ皇太子が帰国した後も二人に何があったかなんて聞く事は出来なかった。







 数年後、俺とジニアとの間に長男ランディーが生まれた。

 ジニアは良き母親としてランディーを大切に育ててくれた。俺への気持ちは冷めていても、子供というのは可愛いらしい。

 いつも優しくて常に微笑みを絶やさない、そんな母親だった。

 その頃彼女はこんな事を言っていた。

「魔女の魔法を掛けて貰ってから、私は他人をひどく憎むことも、身が焦がれるような恋しさも、胸が張り裂けそうな悲しみも、頭が熱くなるような怒りも感じなくなったの。もう感情に振り回されたりはしないのよ。だから、生きることがとても楽になったわ」

 その言葉通り、彼女の気分はいつも安定していて、そんなジニアと子供と過ごす時間は心地よく、俺は仕事以外の時間は家族と過ごすため真っ直ぐに家に帰った。

 友人は「結婚してから落ち着いたな。奥さん一筋か?」
 と言って俺を揶揄う。
 だが、俺はずっと片想いだった。
 彼女にとって俺は子供の父親というだけの存在。
 
 失った恋心は二度と戻らない。

 相変わらず夜会に出ればジニアに声を掛ける男達がいる。侯爵夫人のツバメになりたい若い男達。俺に止める権利は無い。 

 俺は毎晩彼女がちゃんと家に帰るのを確認してから眠りについた。




 
「ジニア、ランディーも大きくなったし、二人で旅行に行かないか」

 ランディーも学園に通う年齢になった。
 俺達は相変わらずの仮面夫婦。

 時折、庭園を眺めるジニアの静かな横顔を見て、俺はどうしても二人で旅行に出掛けたくなった。

 俺の提案を聞いて、ジニアは不思議そうに目を丸めた。

「仕事はいいの?」

「ああ、少しのんびりしたいんだ。君は花が好きだっただろ?コスモス畑を見に行こう」

「ええ、だけど今はそれほど見たいとは思わないの。コスモスを見ても昔みたいには感動しないと思うわ?」

「いいさ、旅行して他にも綺麗な場所を探せば」

「そう?」

 ジニアは少し面倒そうに返事をした。
 好きでも無い男と旅行なんて……と思っているのかもしれない。

 だけど、そうせずにはいられなかった。 
 少しでもあの色鮮やかな感情を取り戻して欲しかった。

 あの花の咲くような笑顔を奪ってしまったのは俺だ。だから……。

「綺麗ね」

 高く澄んだ空の下、どこまでも広がるコスモス畑。パステルカラーの花が風に揺れ、遠くには赤煉瓦で出来た塔風車が見える。
 そのおとぎ話のような光景を見て彼女は目を細めた。

「ああ」

 彼女の本当の笑顔は戻らない。

 キラキラした瞳で、
 紅潮した頬で、
 大きく口を開けて笑うかつての君。
 その弾けるような笑顔は今でもはっきりと覚えていた。

 彼女は今、俺の隣で微笑んではいるが、以前とは違う柔らかな笑顔。

 俺はどうしても、昔みたいな笑顔が見たくて……。それからは彼女をあちこちに連れ出した。 
 ジニアは嫌がることも喜ぶこともしない。
 俺には本心は分からない。 

 そして月日は過ぎ、ランディーが成人を迎えた数日後、ジニアは病に倒れた。
 









※遅れて申し訳ありません。
ギリギリまでお話のストーリーを変えようか迷ったのですが、そのまま当初の予定通りの展開にすることにしました。
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