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ランディー視点
俺の母は物事を俯瞰で見ているような人で、いつもどこか冷めていた。感情的に怒るところなんて見たことが無い。
だけど、俺の事はとても大切に育ててくれた。
両親は、政略結婚で結ばれたありふれた夫婦。
幼い頃はそんな両親になんの違和感も感じなかった。
「ランディーのお母さんは、お父さんのことをとても好きだったの」
母の友人が教えてくれた。だけど、その時はその意味を深く考えることはしなかった。俺には母の方が父に冷たく見える。
いつも母を目で追っているのは父の方だ。
俺が成長し、社交界に顔を出すようになると、両親の様々な噂を耳にした。母はアルマ帝国のキマイラ皇帝陛下の愛人だったなんて噂もあった。
だけど、使用人や母の友人たちから聞いた両親の真実は違っていた。
父は若い頃、浮気を繰り返していたこと。
それに耐えられなかった母が魔女によって恋心を封印したこと。
その顛末を聞いて、俺は母らしいなと思った。
母には色んな男性との噂があったが、俺は自分の目の前にいる母だけを信じた。
とても理性的で愛情深く信頼出来る人だった。
母は俺が成人してすぐに病に倒れた。別荘で療養し面会を許されたのは俺だけ。
死期が近づいた頃、母はポツリポツリと父との思い出を語った。母が直接語る昔話は、喜怒哀楽がぎゅっと詰まったような鮮やかな日々。
魔女の魔法で恋心を失くしたと言うけれど、俺はそれでも母は父を一番好きだったのだと思う。
母はいつでも、父の前で一番綺麗だった。
病気になった母は、父の面会を禁じたが、それは痩せこけた自分を見られるのが嫌だったからなのかもしれない。
やがて母は安らかにその生涯を閉じた。
俺にだけは僅かな遺品と姿絵が遺されたが、屋敷にある自らの私物は全て片付け、父には何も遺さなかった。
母は最後まで父に冷たかった。
☆
父は今でも暇があれば母の墓に行って、何かを話している。
母に会いたいのだろうか?
若い頃、たくさんの女性と浮名を流し、母を傷つけたことへの贖罪か……。
まるで父は片想いしているようだった。
年を取り、歩く足取りも覚束なくなった父の身体を支え、母の墓碑に向かう。
周囲には色とりどりのコスモスが乾いた風に揺れていた。母の好きだった花。父が植えたらしい。
花を手向けて身を屈め、母の墓碑に語りかける姿。
その小さくなった背中には後悔が滲みでていて……。
父は未だに母に恋している。
そして、母もまた心から父に恋していた。
そうでなければ、病魔に侵された身体で、自分の痕跡を全て消すなんて面倒な事はしない。
昔の自分の記憶だけを遺しておきたかったんだ。
「ランディー、ありがとう」
振り返った父の疲れきった表情。
不自由になった足でここまで来るのは大変なのだろう。
俺は遺された母の姿絵の中から、一番出来の良い物を父に渡した。
姿絵を持つことすら許さなかった母。
だけど、もういい……。
母はもう許している。そんな気がした。
※ランディー視点はこんな感じになりました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
俺の母は物事を俯瞰で見ているような人で、いつもどこか冷めていた。感情的に怒るところなんて見たことが無い。
だけど、俺の事はとても大切に育ててくれた。
両親は、政略結婚で結ばれたありふれた夫婦。
幼い頃はそんな両親になんの違和感も感じなかった。
「ランディーのお母さんは、お父さんのことをとても好きだったの」
母の友人が教えてくれた。だけど、その時はその意味を深く考えることはしなかった。俺には母の方が父に冷たく見える。
いつも母を目で追っているのは父の方だ。
俺が成長し、社交界に顔を出すようになると、両親の様々な噂を耳にした。母はアルマ帝国のキマイラ皇帝陛下の愛人だったなんて噂もあった。
だけど、使用人や母の友人たちから聞いた両親の真実は違っていた。
父は若い頃、浮気を繰り返していたこと。
それに耐えられなかった母が魔女によって恋心を封印したこと。
その顛末を聞いて、俺は母らしいなと思った。
母には色んな男性との噂があったが、俺は自分の目の前にいる母だけを信じた。
とても理性的で愛情深く信頼出来る人だった。
母は俺が成人してすぐに病に倒れた。別荘で療養し面会を許されたのは俺だけ。
死期が近づいた頃、母はポツリポツリと父との思い出を語った。母が直接語る昔話は、喜怒哀楽がぎゅっと詰まったような鮮やかな日々。
魔女の魔法で恋心を失くしたと言うけれど、俺はそれでも母は父を一番好きだったのだと思う。
母はいつでも、父の前で一番綺麗だった。
病気になった母は、父の面会を禁じたが、それは痩せこけた自分を見られるのが嫌だったからなのかもしれない。
やがて母は安らかにその生涯を閉じた。
俺にだけは僅かな遺品と姿絵が遺されたが、屋敷にある自らの私物は全て片付け、父には何も遺さなかった。
母は最後まで父に冷たかった。
☆
父は今でも暇があれば母の墓に行って、何かを話している。
母に会いたいのだろうか?
若い頃、たくさんの女性と浮名を流し、母を傷つけたことへの贖罪か……。
まるで父は片想いしているようだった。
年を取り、歩く足取りも覚束なくなった父の身体を支え、母の墓碑に向かう。
周囲には色とりどりのコスモスが乾いた風に揺れていた。母の好きだった花。父が植えたらしい。
花を手向けて身を屈め、母の墓碑に語りかける姿。
その小さくなった背中には後悔が滲みでていて……。
父は未だに母に恋している。
そして、母もまた心から父に恋していた。
そうでなければ、病魔に侵された身体で、自分の痕跡を全て消すなんて面倒な事はしない。
昔の自分の記憶だけを遺しておきたかったんだ。
「ランディー、ありがとう」
振り返った父の疲れきった表情。
不自由になった足でここまで来るのは大変なのだろう。
俺は遺された母の姿絵の中から、一番出来の良い物を父に渡した。
姿絵を持つことすら許さなかった母。
だけど、もういい……。
母はもう許している。そんな気がした。
※ランディー視点はこんな感じになりました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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後半から涙腺崩壊で…(。´Д⊂)
ハッピーエンドは好きだけど、この終わり方の方が全然胸に来て、良いです!
主人公が、昔の自分の気持ちを大事に汲んでくれている描写も好きだし、子供には穏やかだけど愛情注げたのも良かった!
ランディーにはかわいそうな終わり方かもしれないけど、ちゃんと愛されてたよ!そこだけ救いかな…。
感想ありがとうございます
✧◝(⁰▿⁰)◜✧✧◝(⁰▿⁰)◜✧✧◝(⁰▿⁰)◜✧
私も本来はハッピーエンドが大好きです。
何回読んだかわからないくらい大好きなお話です。
たぶんあのまま結婚しても男は誰が大切なのか気づかないまま浮気三昧で彼女は嫉妬と絶望でいっぱいだったと思うからこれでよかったと思う!
たいがい皆失ってから気づくから。。
失わないと気が付かないから…。
感想ありがとうございます。
(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧
大好きなんて言っていただけてとても光栄です。
ランディー視点で救われた思いになりました。
すでに許されていた…その言葉が重しに。
納得の結末で忘れられない作品をありがとうございます(人 •͈ᴗ•͈)
嬉しい
(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧
ハッピーエンドでは無いけれど、こんな結末もありかな、と。愛が重くて優しくて。
沢山のお話があるなか、読んでいただいてありがとうございました。