呪われた皇帝の執着或いは溺愛

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8.宰相が毒を盛られました。

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私が陛下の居住エリアの清掃係になって暫く経ったある日、宰相が毒を盛られたと王宮中が騒ぎになった。

宰相であるアンテーノール侯爵はレイが幼い頃から後ろ楯になって支援してくれた人らしい。
そんな人が毒を盛られた事に憔悴してレイは戻ってきた。

「ただいま、ジェンナ。」

彼は私に近づくとポスッと私の首筋に顔を埋めてくる。
よしよしと頭を撫でると……ポツリポツリと話を始めた。

「アンテーノール侯爵は僕の恩人だ。毒は幸い吐き出して命に別状は無いけど、……………また僕の周りの人が傷付くかと思うと……怖いよ。」

彼の背中を擦りながら、彼の話を黙って聞いていた。母親が亡くなった事を思い出しているのだろうか………。
小さい頃と同じように、背中を丸めて震える彼が痛ましくて……。

「もう間に合わないんじゃないかって諦めそうになる……。呪いは今も僕を蝕んでいる。髪と瞳が黒く染まったのは呪いの証。ゴメンね。ジェンナに怖がられるかと思って言えなかった……。」

彼は一旦言葉を切った。
彼の瞳には確かに強い意志を感じた。
彼の瞳から視線を反らせない。その先を聞くのも怖かった。

「解呪が間に合わなければ、僕は死ぬかもしれない。」



ーーー息が詰まる。



「瘴気を身体に取り込んだんだ。僕だけの力じゃ消滅させることは出来なくて……。国民のために僕が出来ることってそれぐらいしか無かった。」

もう彼の声が遠く聞こえる。
………言葉が出ない。
時間が止まったように長く、私は彼の目を見ていた。

「解呪っていつまで……。」

「後、700日。時々魔女が夢で知らせにくるよ。」

その日は彼が私の背中を撫でて眠ってくれた。
彼の手は私の悲しい気持ちも不安も吸いとるように優しくて………。

一緒に布団に入ると、彼の匂いも体温も私を包んでくれて、少し気分を落ち着ける事が出来た。

「呪いを消す方法は無いの?」

「まだ諦めた訳じゃないよ。黒き魔女の怒りの原因は北の森の伐採を行ったからなんだ。今、その犯人の特定を進めている。恐らく皇太后の実家イクシオン公爵家が絡んでる。今その証拠を探してるんだけど、断定出来る証拠が無くて。」

「皇太后様…ですか。」

皇宮で絶大な力を持つあのお方。

「アンテーノール侯爵と一緒に調べているし何としても間に合わせるよ。」

今は彼のこの言葉を信じるより他無かった。



~・~・~・~・~



私がいつものように、陛下の寝室のシーツを交換して、洗濯物を抱えて廊下を歩いていると、金切り声が聞こえて来た。

「いいから入れなさいよっ!!私は婚約者なのよっ!!」

あの声はハルシャワ伯爵令嬢?
ヤバいと思って隠れる所を探したが、だだっ広い廊下に身を隠す場所なんて無かった。

「お、お待ちください。此処は限られた者しか入れませんっ!!」

衛兵の制止も聞かず、ハルシャワ伯爵令嬢は此方へ向かって歩いて来た。

不味いっ!

せめてもと思い、洗濯物で顔を隠して廊下の隅に寄って頭を下げる。

けれど、彼女は私の前に来て立ち止まった。

「何?此処にはメイドも入れないと聞いてたけど……?」

顔は見えない。けれども私をじっと見ているのが分かる。

「ちょっと、顔を見せなさいよっ!!」

恐る恐る洗濯物を下ろすと、ハルシャワ伯爵令嬢は眦を吊り上げた。

「何で貴女が此処にいるのっ!!貴女の愛人の座を狙ってるんじゃないでしょうねっ!」

「ひっ!」

彼女が手を振り上げるのが見えて思わず目を閉じた。

………

目を開けると、ハルシャワ伯爵令嬢の腕を掴むレイが。
その視線は氷のように冷たくて、久しぶりに見る彼の皇帝としての顔。

「誰の許可を得てこの居住区域に入って来た?」

「わ、わたくしは、へ、陛下の婚約者です。皇太ご………。」

「皇太后陛下が何と言おうが、ここに許可なく入ってきたものはスパイ容疑で捕縛となる。衛兵っ!連行せよっ!」

「…は、……はい!」

衛兵が僅かに逡巡したのを陛下は見逃さなかった。

「マルス、ハルシャワ伯爵令嬢を捕縛せよ。それと、侵入をゆるした衛兵にも事情聴取せよっ!!」

「えっ!へ、陛下!誤解です。私は何も………。」

陛下の怒気を当てられたハルシャワ伯爵令嬢と衛兵たちは、そのままおとなしく連行されていった。


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