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9. ペンダントの秘密
しおりを挟むハルシャワ伯爵令嬢は貴人用の牢で暫く過ごした後、釈放され実家に戻った。
ただ、一時でも牢に入ったことは醜聞となり、彼女は今後の縁談に支障をきたすだろう。
レイはアンテーノール侯爵毒殺未遂の対応で毎日夜遅くに執務から戻った。
過労死を心配するレベルの労働時間。
アンテーノール侯爵は幸い後遺症もなく、既に執務に戻っていた。
~・~・~・~・~
彼を元気づけたくて、いつものように疲れた様子で寝室に入って来たレイにペンダントを見せた。
幼い頃に貰った大切な思い出の宝物。
「………これ、ずっと持っててくれたの?」
「…うん。ずっと大切にしてた。宝物だったよ。」
彼はペンダントを見て、懐かしそうに目を細めた。
「そっか、いつ見ても身に付けてないから無くしたのかと思ったよ。………これはね、母の形見なんだ。あの時これしか贈るものを思い付かなかったから……時間も無くて………。
絶対僕の事、忘れないでほしくて急いで持っていた形見を渡したんだ。直ぐに会えると思ってたしね。」
「そんなに大切なものだったのね。今まで見せなくてゴメンなさい。」
「いいんだ。こうして大切にしてくれてたってだけで嬉しいよ。髪と瞳の色が変わって少し背が伸びただけなのに、僕の事全然気付かないから、忘れたのかなって思ってたんだ。」
「ううん。レイの事は忘れたことなんて無いよ。でも、怖くて顔を見ないようにしてたから気付かなかったの。このペンダントは大切にしてたけど、メイドが付けるには高価そうで目立つし、それにね。」
私がペンダントの台座を捻るとコロンと石が外れるのを見せた。
「うっかりするとこうやって石が落ちちゃうの。無くしそうだから、ずっと着けて無かったわ。」
知らなかったのだろう。彼は少し驚いた顔で石を手に取り眺めていたが、急に何か思い付いたように大きく瞳を開いた。
「ああ、これ…もしかして……。ジェンナ、これ借りるよ。」
「え?ええ。勿論、……元々レイの物だもの。」
「一緒に行こう。」
レイに案内されたのは廊下の奥にあるひっそりとした小部屋。
そこには女性用の家具や衣裳、それに本棚などが所狭しと置いてあった。
「これらは母の私物なんだ。」
「亡くなったお母様?」
「ああ、母はねヒステン族の族長の娘だったんだ。僕の名前も本当はアンドレイって付けてくれたんだけど、父がアンドリューに変えたんだ。母は僕の事、レイって呼んでたよ。」
話をしながら、レイは鏡台を調べ始めた。
「ずっと不思議だったんだ。この穴は何だろう?って。」
鏡の横に楕円形の穴が空いていた。
レイはその穴にペンダントに付いていた石を嵌め込んだ。
ーーーカチッ
小さな音が聞こえた。
「やっぱり、この石は鍵だったんだ。」
レイが鏡をスライドさせると奥に封筒が見えた。
「何かある。」
レイは興奮気味に声を上げると、封筒の中身を取り出した。
紙の束は古びていて、何やら文字がぎっしりと書き込まれていた。
「………ジェンナ、これ、母が調べた月影の木の売買記録だっ!!」
「え?」
「………月影の木は違法薬物になるから売買は禁止されている。……ああ、やっぱり間違いない。公爵家が魔女の森の違法伐採を指示していたんだ。月影の木は魔女の森にしか生えない特別な木なんだ。」
「でも、10年以上も前の記録が証拠になるの?」
「…うーん……難しいかな。でも何かヒントがあるかもしれない。アンテーノール侯爵にも相談して調べるよ。」
「証拠が掴めるといいね。」
「魔女は北の森の守護者だ。月影の木の伐採は許さない。けど、一人では全ての木を護りきることは出来ないらしい。僕が瘴気を身体に取り込んだあの日、魔女は『主らの国の者が木を盗みにくる。焼き捨てても氷漬けにしても、後から後から湧いて森に入ってくる。妾は森から出ることは叶わん。月影の木の伐採を指示する者を此処へ連れて来ぬと、更に酷い厄災が主らの国を襲うだろう。』って言ってた。」
「酷い厄災?」
「僕への呪いは手始めだって。国民への見せしめだって言ってた。」
「そんな、更に酷い厄災なんて……。」
「絶対阻止してみせるよ。証拠と公爵家の者を魔女の元へと送り届ける。制裁は魔女が決めることだ。彼らは魔女との約定を違えたのだから。」
「…うん。」
その日から、彼の帰りは更に遅くなった。
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