呪われた皇帝の執着或いは溺愛

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16.皇帝陛下の変化

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それから、レイはアンテーノール侯爵家へは来なくなった。
その代わり手紙と花束が毎日届けられた。

その手紙は恋文なんかじゃ無くて、毎日何を学んでどう行動したか、何だか成長記録みたいだった。
私はレイの許可を得て、ジャスミンお母様にも手紙を見せた。 

「陛下も頑張っているようね。ジェンナも…………、ね。」

私もジャスミンお母様の淑女教育を頑張っていた。
養女となったからには迷惑は掛けられない。 

毎日忙しくて、覚えることは沢山あった。
そんな日々の中でも、夜一人になって部屋へ戻るとレイの事を思い出す。
求婚を断ったことを後悔もした。

それでも、目の前の課題だけに集中して過ごし、そうして一年半が過ぎた。

「ジェンナ、アンドリュー陛下が我が家へ来るそうよ。」

いつものように、お茶会の準備として招待状を書いていると、お母様がそう教えてくれた。

「は、はい。」

密かに期待していた。
私はズルいのかもしれない。
断ったクセに、レイが誰とも婚約をしないことを嬉しく思っていたのだから……。



~~~~~




「久しぶり、ジェンナ!」

「レイ。」

久しぶりに見るレイは身体つきも顔もますます男らしくなって、健康そうな笑顔を見せた。
あのやつれて不機嫌な表情の皇帝陛下はどこにも居ない。
レイを見た途端、胸はドキドキするし、勝手に顔が赤くなる。
暫く離れていても、未だにレイの事がこんなに好きなのだと気が付いた。

「今日は改めてジェンナに結婚の申し込みに来た。」

「……。レイ……。」

「ジェンナに言われた事をよく考えた。ジェンナに言われた事は尤もだと思ったよ。……でも……。」

彼は自嘲するように顔を歪め…そして私を見る。

「ごめんね。僕はジェンナを諦められない。」

ふわりと浮かべた笑顔は何かをふっきったように清々しく見えた。

「ジェンナ、好きだ。…これからも僕は努力するよ。君を守れるように強くなる。だから、どうか僕の傍にいて。きっと大変だと思う。でも僕の隣はジェンナがいい。ジェンナが隣に居てくれるならどんな事だって頑張るよ。」

真摯な瞳が真っ直ぐに私に向けられて、胸が高鳴る。
この一年半、彼の事を思わない日は無かった。
自分の気持ちが引き返せないほど強くなっている事を自覚した。
彼がこうしてもう一度告白してくれた事が堪らなく嬉しい。
気持ちが……、言葉が……溢れる。

「私も好きです。レイの事が大好き。会えなくなって、ずっと恋しかった。レイと離れて、昔みたいに平気じゃいられなかった。隣でレイを支えたい。他の人が支えるなんて嫌なの。」

途端にレイに抱きしめられた。
久しぶりに嗅ぐ彼の匂いは、懐かしくて……。
胸に愛しさが溢れてじんわりと涙が滲む。
顔を上げると愛しい人が私を見下ろしていた。
目尻を下げ、優しく私を映す黄金の瞳には、愛情を感じる事が出来る。
私にだけ向けられる表情は
少し情けなくて、
不安げで、
それでもいつも特別な熱を感じていた。

そっと目を閉じると、彼が僅かに息を呑む気配がする。

そっと、そーっと唇が合わさる。それは羽のように軽いキス。

それは慎重で臆病な彼らしい口づけで……。

唇が離れ、思わずくすりと笑みを溢せば、レイは不思議そうに首を傾げた。

「レイ、好きよ。」

もう一度、彼の胸に頬を当て身体を預けると、優しく抱き込んでくれた。背中に当たる手のひらが温かくて、じんわりと幸せな気持ちが身体に広がってゆく。

懐かしい匂いと体温に包まれながら、ジャスミンお母様にどうやって報告しようか考えていた……。

……彼の不穏な言葉を耳にするまでは……。

「良かった。ジェンナを無理矢理連れて帰ることにならなくて……。」

彼がポツリと呟いたセリフ。
無理矢理?
同意が無くても皇宮へ連れていくって事?

「え?無理矢理って?私は今日皇宮に行くことははじめから決まってたの?」

「……まあ……ね……。」

それは見たことも無いほの暗い微笑み。

「皇宮内の貴族の粛清も進んだ。もう僕がジェンナを無理矢理拐っても文句を言う人間はいない。アンテーノール侯爵が苦言を言うぐらいだ。」

今日皇宮に行くっていうのは急過ぎないだろうか?

「今日なの?」

「そうだよ。もう我慢出来ない。」

「ジャスミンお母様が……。」

「皇帝としての執務に支障をきたさなければ良いって許可が出たよ。歴代の皇帝でも珍しいことじゃないらしい。執着するのは血筋らしいね。」

なんとなく背筋が薄ら寒い……。逆らうと監禁される映像が頭を過り、その日からレイのいう通り皇宮で生活する事にした。
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