2 / 12
に
しおりを挟む私はアウァールス男爵家の長女として生まれた。
アウァールス男爵家は宝石加工の事業を手広く手掛けていて、そこそこ裕福な家柄。
けれど、私は亡くなった先妻の遺した娘ということもあり、新しい母親からは冷遇されてきた。
母親は、夜中にこっそりと来て、私に折檻をする。
父が浮気した日。
パーティーで恥ずかしい思いをした日。
妹や弟が自分に反抗した日。
私は長い間、母のストレスの捌け口だった。
だけど、他の家族はそのことを知らない。
私は暴力を振るわれてることは誰にも言わなかった。
だって母親の機嫌を損ねたら、痛い思いをするのは結局私だと知っていたから。
家族の前では私は妹や弟と平等に扱われた。家族で仲良く過ごし、旅行に行くこともあった。
だけど、私はふとした会話の途中に睨まれることあったから……。その目が怖くて、家族で和気あいあいとした会話をしている最中もほとんど喋らずにいた。
楽しい思い出なんて何も無い。
この家族団欒の雰囲気すら嫌いだった。
「家庭教師は私だけ?レオナお姉さまはダンスを習わないの?」
「この子はダンスの先生も家庭教師の先生も追い返したのよ。気に入らないんですって。先生たちにも申し訳ないし、困ったわー」
そんな事実はない。
母親は私を人付き合いの嫌いな偏屈な娘として扱った。私を冷遇していることに気付いて、母親に止めるよう意見した使用人は全てクビに。そして、それは私が我儘で辞めさせたのだと家族に説明していた。
社交界デビューももちろん駄目で。
「貴女のドレスは無駄だし、買わないわ。欲しいなんて言わないでよ」
「……はい」
「まあ、もしドレスを着ても、そのボサボサの髪じゃ似合わないでしょ?肌もガサガサだし。年頃の令嬢としてみっともないわね」
私は化粧品も買わせて貰えなかった。
ある日、リリィから
「お姉ちゃん、仮にも男爵令嬢なんだから、身だしなみぐらい整えたら?お母さんが心配してたよ」
なんて言われた。
「うん、でも……」
「でも?」
「化粧品……ない……」
「ええーっ!?信じられないっ!私の化粧品貸して上げるから同じもの買って使いなよ。面倒くさがっちゃ駄目だよ?」
そう言ってリリィは私に使いかけの化粧品や香油を幾つか分けてくれた。
リリィに悪気は無い。
彼女は知らないのだ。
私には自由に使えるお金なんて無いことを
姉妹は平等に育てられていると信じている、そんなリリィが私は羨ましかった。
何もすることが無くて、屋敷の奥の部屋で過ごす毎日。
母親は人前では良き母を演じるから、誰も私の味方は居なかった。
だけど、そんな私の境遇に気がついたのは、当主の座を退いて別邸に住む父方の祖父母。
「エライザさん、お願いがあるんだけど……」
「はい」
「私達ね、そろそろ年でしょ?だからこの屋敷に引っ越して来ようかな、って思ってるの。そろそろ、身の回りの世話をしてくれる身内にそばに居て欲しいし、いつまでも年寄り二人じゃ寂しいでしょ?私達の屋敷も古くなってあちこち直さなきゃいけないし大変なのよ……。この屋敷で私達も一緒に住んで良いかしら?」
「え?お義母様たちは……長年住んでいる慣れた屋敷が良いと思いますわ。ここは空気も悪いし……」
「でも、身内が離れて住んでいるって、年寄りには心細いものよ。それに、いざと言う時、使用人だけじゃ……ねぇ?」
「そ、そ、そうですわね。じ、じゃあ、レオナがそちらに行きますわ。身の回りの世話もあの子なら出来ますから」
「ええ?レオナちゃんが?だって、あの子適齢期じゃない。今は結婚相手を探さなきゃいけない大切な時期よ?」
「レオナは人付き合いが苦手で、昔からほとんど喋らない子です。社交界だなんてとても……。家の中でお義母様たちのお世話をする方が、あの子も幸せだと思いますわ」
「そうなのね。じゃあ、レオナちゃんに私達の世話をお願いしようかしら。でもレオナちゃん、あんなに古い屋敷でも来てくれる?」
「ええ、レオナなら大丈夫です。きっと喜んでそちらに行きますわ」
こうして、私は実家を出ることが出来た。
実際、祖父母は元気で何も困ってなんかいない。屋敷は古いけれど、使いやすいように修繕されていた。
私の手首の痣に気がついた祖母は、波風を立てないように私をあの家から連れ出してくれたのだ。
祖母の家に来た当初、私は人と話すのが苦手だった。
何か気に入らないことを話せばお母さんのように暴力を振るうかもしれない。そんなことを考えると、喉の所で詰まったようになって言葉が出ない。
そして何より暴力を振るわれた時間帯ーー夜が怖かった。
祖父母はそんな私に沢山の本を買ってくれた。
「すまんなぁ、レオナには辛い思いをさせて……。当主の座を退いた儂らにはこんなことぐらいしかしてやれん。せめて、お金だけは遺してやるからなぁ」
そして私は祖父母の紹介で、王立図書館に司書として務めることになり、小さな家で独り暮らしを始めた。
もう怯えなくていい生活の中で、私は徐々に普通に会話出来るようになっていった。
祖父母は母親には秘密で、沢山の縁談を用意してくれたけれど、全て断った。
家族なんて……。
私はこの古くて寂れた図書館で働きながらひっそりと静かに暮らしていくことを望んだ。
974
あなたにおすすめの小説
わたくしのせいではありませんでした
霜月零
恋愛
「すべて、わたくしが悪いのです。
わたくしが存在したことが悪かったのです……」
最愛のケビン殿下に婚約解消を申し出られ、心を壊したルビディア侯爵令嬢。
日々、この世界から消えてしまいたいと願い、ついにその願いが叶えられかけた時、前世の記憶がよみがえる。
――すべては、ルビディアのせいではなかった。
※他サイトにも掲載中です。
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる