私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

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きゅう


 レオナ視点に戻ります。



「「お姉ちゃん、ごめんなさい」」

 今、ジュードとリリィは揃って私に頭を下げていた。

 リリィに「話をしたい」と言われたのは数日前の事。

 またモルス伯爵との縁談の話だったら嫌だな、なんて思って、グレッグさんにも同席してもらうことにした。
 約束のカフェに入ると、ジュードとリリィが神妙な面持ちで並んで座っていた。

 私達が向かい合わせの席に座ると、二人は私に謝ってきた。

「急に……どうしたの?」
 
 私が戸惑っていると、ジュードが謝罪の理由を説明してくれた。

「俺達、今までずっとお姉ちゃんを誤解してた。お母さんがお姉ちゃんを差別してたんだな。今まで、俺達何にも気付かなくてごめん。お姉ちゃん、辛かったよな?」

「私も……ごめんなさい。お姉ちゃんに勧めたモルス伯爵って酷い人だったの。私……知らなくて。縁談を勧めたお母さんの事はお父さんが叱って、その話は無かったことになったよ」

 モルス伯爵……。
 私に勧める縁談なんておかしいと思っていたけれど、やっぱりとんでもない人だったのか……。 

 お父さんがその縁談を止めてくれて良かった。

「お母さんに、何か聞いたの?」

「お父さんが前に務めてた使用人たちの話を聞いて、お母さんがお姉ちゃんを虐げてたんじゃないかって問い詰めたの。そうしたら、ソフィーさんに嫉妬してお姉ちゃんに辛く当たってたんだってお母さん言ってた。お姉ちゃん、お母さんに邪魔されて淑女教育を受けられなかったんだよね。私達、ずっと知らなくて、気付かなくてごめんなさい」

「そう……嫉妬であんな事してたんだ」

 理由を聞いてしまえば、よくある話。 
 だけど、子供だった私には自分に悪い所があるんだと思っていた。

「私達とお父さんでお母さんの話を聞いたの。お母さんはお姉ちゃんが社交界に出て注目を浴びるのが我慢出来なかったんだって。でも、そんな理由でお姉ちゃんを虐げていいって事にはならないよね。お母さんも今ではすごく反省してるわ。もうお姉ちゃんに酷いことはさせない。だから、お姉ちゃん、家に帰ってきてよ。また、家族に戻ろう?」

 三人で、一晩かけてお母さんの話を聞いたらしい。
 アウァールス男爵家に嫁いだ後、母親がどんなに辛かったか。理不尽に蔑まれ、私の実の母と比べ続けられていた事も。

「お姉ちゃん、昔みたいに裕福では無いけど、平民の女性として一人で稼いで生きていくよりはマシだと思う。俺達もお姉ちゃんに償いをしたいんだ。今までごめん。だから、戻ってきてよ」

「お母さんもお姉ちゃんに謝りたいって言ってるの。だから家に戻ってきて。本当に心から反省してるわ」

 二人は私に家に帰ってくれって言う。
 だけど、私は戻りたく無い。私はみんなのことを家族だとは思えなかったから。

「お母さん、私にはお金を掛けられないから、デビューはしなくていいって言ったの。ねえ、リリィ、私に言ったよね?髪や肌の手入れをした方が良いって。私は化粧品を買うお金すら無かったの」

「ごめんね、お姉ちゃん。私無神経だったわ」

「お姉ちゃん、言ってくれれば良かったのに。そうすれば、俺達だってもう少し早く気づけたよ」

「幼い私に逆らう力があると思う?」

 今でも夜中部屋のドアを開けるあの人の幻影に怯えることがある。

 もうあの人は居ないのに……。それでもこの恐怖は身体に染み付いていて……。


 そう言えば、私に暴力を振るった事。その事をお母さんはみんなに言ったのだろうか?

「私がどんな暴力を受けていたか知ってるの?苛立つ夜には部屋に来て私を叩いたわ。私、お母さんのあの目が怖かった。……今でも夜が怖いの……」

「え?暴力?お母さんが?本当に?」

 あの時の恐怖が蘇る。震えて、話せなくなった私の代わりにグレッグさんが口を開いた。

「本当だよ。僕はレオナの腕の傷痕を見たよ。じゃあ、やっぱり君たちのお母さんは反省していないってことなんじゃないかな?だって本当の事を言って無いんだから」

「まさか……暴力まで……」

 ジュードはショックで黙り込んでしまった。

「どうして言ってくれなかったの?」

 私が何か言ったら余計に暴力が酷くなるだけ。それに……私以外の四人は仲の良い家族だったから、私だけ馴染めないのが駄目なのかもって思ってた。

「お姉ちゃん、ごめんね。その事も知らなかったわ……」

「俺もごめん。もしかしたら、お母さん、俺たちとレオナお姉ちゃんを差別してるのかな?って思ったことはある。でも、お母さんもお父さんもいつも笑顔だし、優しくて、きっと気のせいだって思いたかったんだ」

 母親はリリィが一緒に居るときはバレないように特に気をつけていた。でも、幼い頃のジュードの前では、少し気が緩んで私にだけキツイ言葉を遣うことがあった。

「二人とも知らなかったんだもの。気に病むことは無いわ。でもごめんね。こんな理由で、私はお母さんとはもう二度と会いたく無いわ」

「うん、お姉ちゃんの気持ちはよく分かったわ。でも、以前私がこの図書館を訪ねた時に言ってくれれば良かったのに……。私達、そんなに信用出来なかった?」

「……。リリィ、ジュード、あなたたちは仲の良い家族だもの。なのに、『私だけがお母さんに家族として扱ってもらえませんでした』って?ずっと惨めだった。でも、あなた達の前では、普通の姉として振る舞っていたかった。これ以上、惨めになんてなりたくなかった」
    
 ずっと堪えていた涙が溢れた。
 そう、これが本当の気持ち。

 恥ずかしかった。
 母親に家族と認めてもらえない私が……。

 
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