私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

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じゅういち


※子供への暴力表現あり。ご注意ください。




 エライザ(母親)視点 


 レオナを連れ戻しに行ったリリィとジュードは、帰ってくるなり険しい表情で私に詰め寄った。
 
「お母さん、お姉ちゃんに暴力を振るってたって本当?」
「腕に傷痕もあるって。お姉ちゃんの恋人が見たって言ってたよ」

 まさか……。
 あの子が喋ったのっ?

「あっ……あ……の、それは……ね」

 二人に睨まれ言葉に詰まる。
 上手な言い訳が見つからない。

「弱い立場の人間に手を上げるなんて、お母さんがそんな事が出来る人だとは思わなかったよっ!」

「ひどいっ!お姉ちゃん今でも夜が怖いって言ってた!そんなんじゃ、お姉ちゃんが帰って来るわけ無いじゃないっ!どうしてあの時、全部話さなかったのっ!?子供を叩くなんて、そんなむごい事が出来るなんて信じられないっ!!」

 ずっと隠していた……私の醜さが、その行いが、全て白日の下に曝け出された。



 ーー回想ーー

 
 後妻として嫁いで直ぐの頃、私は夜会でバーレン伯爵夫人とその取り巻きに嫌味を言われた。

「あら?アウァールス男爵も女性の趣味が変わりましたのね。ソフィーさんは、薔薇のよく似合う可憐で儚げな女性だったのに……。エライザさんはずいぶん健康的で丈夫そうな方ですこと」

「ふふっ、そうですわね。薔薇園で庭師も出来そうじゃありません?」

「まあ、育てる方?ホホホ、そうですわね。健康が一番。よろしいじゃありませんか」

 扇で口元を隠したご夫人たちに嘲笑されながらも、私は媚びるようにへらりと笑ってやり過ごした。

 悔しくて……悔しくて……。

 夜会で恥をかかされた私は帰ってからレオナの部屋に忍び込み、ベッドでぐっすり眠るレオナの毛布を捲った。

「お母さん?」

 ばちんっ、ばちんっ

「な、何、お母さん、やめて……痛いよ……」

 ばちんっ、ばちんっ

 止められ無かった。
 憎い……憎い……あの女のせいで、私が馬鹿にされるのよ……。

 震えて蹲るレオナを見て我に返った時には、遅かった。
 赤く腫れた細い腕。
 私はその夜のことをレオナが主人に言いつけると思った。 

 どうしよう。離縁されてしまう。
 
 けれど、レオナは主人には何も言わず。
 私も昨夜の事なんて忘れたように笑顔で振る舞った。

 何故レオナが主人に言いつけないのかは分からない。
 私はレオナが何も言わないのをいい事に、暴力をエスカレートさせてしまった。時には扇で血が流れるほど腕を叩く。そして、昼間は仲の良い理想的な家族を演じた。
 
 レオナは絶対に喋らないと思い込み、いつしか、レオナを虐待しつつ良いお母さんを演じることに何の違和感も感じなくなっていた。


ーー回想終わり、現在へーー


 主人は仕事から帰った後、リリィとジュードから話を聞いた。
 私のひどい暴力について……。

「……なんてことをっ!」

 主人はギリッと音がしそうなほど、歯を食いしばり血走った目で私を睨みつけた。握った拳が白い。

 主人が私に近づいてくる。

 私は、殴られるのを覚悟で目を閉じた。
 けれどーー

「もう、いい。私にも責任がある。リリィ、ジュード、お前たちもレオナをそっとしといてやれ。もう会いにいくなよ?」

 主人は振り上げた拳を下げて、私を見ずに部屋に戻った。
 
 今度こそ離縁される。もう終わりだ。

 なのに、離婚に向けて話をしている最中に、主人が倒れた。

 資金繰りに奔走し、無理をしていたのだ。そこにレオナへの虐待が明るみになり、身体が、精神が、限界を超えた。

 幸い命は取り留めたが、主人の身体には重い麻痺が残った。一人では何も出来ない身体に、歪んだ顔。
 主人は介護が必要な状態になった。

 せめて父親が病気になったことを知らせようと、王立図書館に行ったが、レオナはそこを辞めていた。

 レオナは姿を消した。
 これで2度目。

 図書館で働く女性が
「王都を出て旅をするって言ってましたよ」と教えてくれた。

 もう二度と私達に会うつもりは無いらしい。
 
 ジュードは夫の跡を継ぎ、何とか事業を立て直そうと頑張っているが、私達の生活はますます貧しくなるばかり。

 リリィはメイドとして住み込みで働くことになった。
 今は、侯爵家の屋敷で苦労している。

 私は主人の介護と家の家事を全て一人で行うことになり、忙しい日々を過ごすことになった。
 

 
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