魔力なしの私と魔術師を目指した少年

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貴族用の衣料品を取り扱う店がある街へ行くまでに少し物騒な地区を横切る必要がある。

路地裏は少し空気が澱んでいるように見えて恐かった。早くここを通り過ぎたい一心で少し足早に歩いていると、路上で少年がガラの悪い若者に囲まれていた。
少年は何か言い掛かりを付けられたのか、持っていたお金を若者達に取られてしまうのが見えた。


少年は10才くらいだろう。
対する若者は18~20才前後。
明らかに体格差があり、人数も三人だ。


けれど少年は若者に抵抗の意思を示した。
歯向かった少年は路地裏に連れ込まれそうになっていた。
暴力を振るわれたら小さな怪我ではすまない!
そう思うより先に私は若者達の方に向かって歩いていってしまった。

「この少年が何かしたのですか?」

リーダー格の男に尋ねると、男は私を見て驚いたような表情を浮かべた。

「お嬢ちゃんには関係ねぇよ。」
「私、その方に用事があります。ですから解放して貰えませんか?ただとは言いません。」

男は面白い物でも見るようにニヤリと笑った。

「いくらだ?」
「70000ベリあります。」
「じゃあ全額寄越しな。それで坊主は返してやるよ。」
「まず、彼を離して。」
「分かった。」

男達が少年を解放したのを見て、お金の入っていた巾着袋をリーダー格の男に向かって投げた。
 
ーーーじゃり

「おー、スゲー、本当にはいってらー!」 
男達が巾着袋を覗き込んでいる隙に、少年の手を引いて逃げ出した。

男達は私達が走って逃げた事に気付いたが、目の前のお金に集中していて、追ってくる様子は無かった。

平民には70000ベリなんてお金は大金だ。
大方、お金を山分けする相談でも始めているのだろう。

後から考えると、自分は7才だった事を思い出して震えたがその時には少年を助けることに必死だった。
本気で男たちに追いかけられたら危なかった。

「大丈夫?怪我は無い?」

随分遠くまで走り、男達の影も見えない事を確認した後、少年に話し掛けた。

「ああ、ありがとう。」

少年は戸惑った様子だったが、ボソボソとした声で礼を言った。

「お前の金は?」
「買い物を頼まれていたの。けど、いいわ。」
「大丈夫なのか?」
「うん。謝れば許して……」
「良くない!俺、取り戻しに行くよ!」

そう言って今来た道を引き返そうとする少年の腕を掴み慌てて止めた。

「危ないよ。」
「だって、大切なお金だろう?」
「お金より、自分の身体を大切にして!三人の大人に殴られたら無事じゃいられないよ!」

少年の腕にしがみついたまま必死になって言うと、彼は諦めてくれた。

「あなたもお金取られたの?」
「お前程の大金じゃ無いけどな。俺、孤児院に居るんだ。みんなの大切な食費だ。」
「じゃあ、一緒に謝ってあげるよ。」
「いいよ。自分で事情は話すよ。」

大丈夫だと言う彼を押しきり、一緒に孤児院に行った。

そこで先生と呼ばれていた壮年の男性に事情を話すと、彼は私の行いを心配してくれた。

「助けてくれたことはありがとうございます。けれど、貴女も危ないですよ。周りの大人を呼んでくださいね。」

 あの時の私にはそんな余裕は無かったが、先生の言う事も尤もだと思って頷いた。

「はい。今度から気を付けます。」

先生はとても良い人で少年に
「貴方が無事で良かった。」と言って抱き締めていた。

少年は若干居心地悪そうで、 けれど先生にされるかままになっていた。

少年の名前はバルドルと言って、私と同じ年齢だった。

    
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