魔力なしの私と魔術師を目指した少年

文字の大きさ
7 / 28

6.

しおりを挟む
ーーー朝が来た。
泣きつかれて瞼が開きにくい。
おそらく腫れているのだろう。

寝ている間、私の手にハムちゃんが身体を摩り寄せてくれていた。
小さくて温くてふにふにと動く感触は、私を一晩中慰めてくれていた。

「ハムちゃん?」

ふと足元に移動しているハムちゃんを見た。
ハムちゃんは何か言いたそうにキラキラとした目で私を見上げてくる。

そしてーー

木箱に置いてあった紙の上で「キュー。」と一鳴き。

そしてペンの隣に座りまたもや「キュー。」と一鳴き。

今度は私の掌に乗って花の巻いてある部分に乗って「キュー。」と一鳴きした。

きっと何か伝えたい事があるのだろう。
ハムちゃんの行動の意味を考えた。

「……紙に…書く…バルドル…。……もしかしてバルドルに手紙を書くの?」

まるでそうだと言うように一際大きな声で
「キューキュー。」とハムちゃんが鳴いた。

ハムちゃんはどこか得意げで、まるで胸を張るように頭を上げて、………コロンと後ろに倒れた。

「大丈夫?」

ハムちゃんはそんな事よりも早く手紙を書けとでも言うように、身体全体で私の手を押してきた。

「うんと、手紙ね。」

手紙の内容を考える。
ハムちゃんの身体は小さくてとても普通の手紙は運べそうに無い。
紙を小さく切って手紙を書いた。

『バルドルへ、魔術師の訓練は辛いと聞いたことがあります。身体に気を付けてね。また会える日を楽しみにしてます。』

手紙を小さく畳んでみたが、それでもハムちゃんには大きくて運べそうにない。
この世界の紙は分厚くて、ペンも太い。
色々試して10文字くらいしか手紙に書けない事が分かった。

一番彼に伝えたい言葉を考える。

『ありがとう』

一言そう書いた。手紙を細長く畳んでハムちゃんに括りつける。

「届けてくれるの?お願いね。」

ハムちゃんは私を振り向き「キュー。」と鳴くと、壁の穴から外へと出ていった。


ーー彼が私にくれたものは未来への希望だ。


私が生きることに絶望しないように!未来を諦めてしまわないように、彼は私に約束をくれた。

私も自分に出来る事をしなければ。
ハムちゃんからも元気を貰った。

ーー出来る。

バルドルが街を去ってから、私はいつか本当にバルドルが迎えに来た時に、彼についていけるように料理と文字の練習をしていた。
バルドルの奥さんとしての未来を夢見て…。

バルドルが仕事から帰って来るのを夕飯を作りながら待つ。

ーーそれは涙が出そうな程眩しい未来。

そんな未来を想像する時、想像の中の私とバルドルはいつも笑顔で幸せそうだ。
眠る前にそんな未来を想像しながら眠りにつく。

バルドルは私の事を好きじゃ無いかもしれない。
けど、想像出来る未来の中でそれが一番明るい光景ー

バルドルとの未来を夢見る。
いつしかそれが習慣になっていた。

しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

3回目巻き戻り令嬢ですが、今回はなんだか様子がおかしい

エヌ
恋愛
婚約破棄されて、断罪されて、処刑される。を繰り返して人生3回目。 だけどこの3回目、なんだか様子がおかしい 一部残酷な表現がございますので苦手な方はご注意下さい。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

処理中です...