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15.バルドル視点

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ハムちゃんが少し大きく見えたのは気分的な物じゃ無く、実際に少し太ったようだった。

ハムちゃんは走っていても身体が重そうだ。少し走るとハムちゃんは立ち止まってしまった。

「ハムちゃん、これお土産の魔素を多く含む植物。食べるか?」
「キューー!」

ハムちゃんへのお土産としてディアナに渡そうと思って持ってきた魔素を多く含む植物を渡した。
俺達が魔獣の森で焼き払ったあの植物だ。
精霊のハムちゃんには美味しい筈。

「………これは!!」

ハムちゃんはその植物を食べると身体が金色に輝き出し、明らかにパワーアップした。

それからのハムちゃんは凄いスピードで街を駆け抜ける。
身体強化している俺でもついていくのがやっとだ。

★★★

ハムちゃんについていくと、小さな食堂があった。
食堂の庭で月を見ている女性……。
髪は黒いからディアナじゃないのかな?

月明かりに照らされた女性の瞳は綺麗な碧色。
「あれは……、」

ーー俺が恋い焦がれた色ーー

横顔には、あの日俺を助けてくれたディアナの凛とした面影が残っていた。

ーーディアナだ!!


「ディアナ!!」
「バルドル?バルドルなの?どうして?祝賀パーティーは?」
「だって俺はディアナを呼んだんだ。ディアナがいなければ出る意味なんて無いさ。」

ディアナと見つめ合いどちらからとも無しに手が伸びる。
次の瞬間抱きしめ合ってお互いの存在を確かめた。

「バルドル、こんなに背が伸びたのね。」
「ディアナ……会いたかった。」

ディアナの身長は低く、こうやって抱きしめるとすっぽりと腕に収まってしまうほど小さいことに驚いた。

ディアナはこんなに小さかったか?
強く抱くと壊れてしまいそうだ。
顎の線がほっそりして子ども特有の丸みも無くなっている。
身体は女性らしく成長し、触れる部分の柔らかさが、異性であることを意識させた。

お互いの成長に離れた時間の長さを感じる。
俺がディアナを思い浮かべる時は、いつも10才の少女の姿だった。
今腕の中にいるのは、18才に成長した彼女。

「ディアナ、元気だった?」
「ええ。家を出てからは…。バルドル、沢山離したい事があるの。」

「キュッキュー!!」

長く話をしてしまいそうな俺達をハムちゃんが急かせるように声をあげた。

「しまった。話は後で。今は王城に急ごう!」
「え?ハムちゃん?金色?」
「キューーーー!」

ハムちゃんの鳴き声と共に辺りがオレンジの光に包まれた。

ーーシュッーーーー

気付けばそこは王城の一室。俺が使っている部屋だ。
ハムちゃんは転移が出来るのか?

ディアナは状況に付いていけずに呆然としている。
ハムちゃんは………

「ハムちゃん。」

ハムちゃんは元のグレーの毛並みに戻っていた。コシコシと耳を掻いている。

「ハムちゃん、ありがとう。」 
「キューーーー!」

ハムちゃんは『どうだ!』とばかりに一際大きな声で鳴いてみせた。
俺には分かる。
きっとドヤ顔だ。

ハムちゃんのお蔭でパーティーに間に合いそうだ。

「ディアナ、俺と一緒にパーティーに出てくれる?」
「私で……いいの?」
「勿論、ディアナじゃなきゃ駄目なんだ。一緒に行こう?」
ディアナの綺麗な碧色の瞳がみるみる潤んだ。

「……はい。」

その細かく震える声は小さくて、けれども俺にはハッキリ聞こえた。

俺は陛下の侍従に本物のディアナを連れて来た事を伝えた。

パーティーで俺の入場は陛下が遅らせてくれているらしい。
ミネルヴァは既に会場に居るそうだ。

「ディアナ様、入浴やマッサージをする時間はありませんが、お着替えだけでも……。」

「は、はい。」

部屋に入って来た侍女達に急かされ、ディアナは恐る恐るついて行った。

ディアナを王城の侍女達に任せて俺も部屋で支度を整える。
興奮で手が震え、ボタンを外すことにすら手間取った。
ディアナと会えたーーーーー
ずっと願っていた事が現実になったのだ。

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