幼馴染が勇者となって帰ってきました。

文字の大きさ
7 / 14

7.

しおりを挟む
トーイが帰って来ないまま七日間が過ぎた。

(もう私の家には来れないのかしら?あれが最後のお別れなんて……。)

国中が勇者と姫との婚約にお祭り騒ぎ。
私は素直に幼馴染の幸せを祝福する気持ちにはなれなかった。

(小さい頃あんなに苦労したんだもの。喜んであげなきゃいけないよね。)

今の国王になってから、税金は上がり続けていた。
王都は街道の整備も進まず、治安も悪化。不作も続いていて、食料品の物価は上がるばかり。
今の王家に対して民衆はかつて無いほど不満を溜めていた。
それがこの婚約発表によって一変する。

今回の婚約は久しぶりに国民に届いた明るいニュース。
それほど世界の危機を救った勇者は国民の間で絶大な人気を誇っていた。
祖国の勇者が世界を救った。この事実は国民を昂揚させ、王都はかつての活気を取り戻した。

新聞や雑誌は連日マルガリーゼ王女様を特集し、街の女性たちは挙って王女様のファッションの真似をした。

仕事帰りに通りを歩いていると、マルガリーゼ様愛用の香油を買って嬉しそうにお喋りしている少女達とすれ違う。
大切そうに胸に箱を抱え、弾けるような笑顔を浮かべていた。

その浮かれた街の雰囲気に自分だけが取り残されたよう……。

「トーイはもう手の届かない人になっちゃったな……。」

一番身近にいた幼馴染。
それが今ではこんなにも遠い。

重い気分のまま、家に帰る。
もう、トーイのために買った食材は腐らせてしまった。

両親が亡くなってから戸締まりを厳重するため、扉を頑丈な物に付け替えた。
それでも治安が悪くなった最近では、夜が来るのがほんの少し怖い。

ドンドンドンドン 

明け方、扉を乱暴に叩く音に飛び起きる。 

(な、なに?緊急の連絡かしら?こんな時間に?)

恐る恐る扉の前に近づくと、よく知る声が聞こえた。ずっと聞きたかった声……。

「アイ姉ちゃん、開けてくれ。」

ほっとして扉を開けると、焦った顔の幼馴染がいた。

「アイ姉ちゃん、良かった。無事で。」

私の顔を見て安堵の色を浮かべると、急に抱きついてきた。

「ごめん。姉ちゃんを巻き込んで。一緒にこの国を出て欲しい。」

「え?」

「俺、結婚を強制されそうになって………。言うこと聞かないと姉ちゃんに危害を加えるって脅された。俺、アイ姉ちゃんとじゃなきゃ嫌だ。」

真剣に、縋るように、トーイは私の手を握る。成長した幼馴染は男を感じさせる顔になっていた。

「アイ姉ちゃん。俺と結婚して。」

夜、急に来てこんな告白をするなんて…。
トーイはいつも私を振り回す。
さっきまでもう二度と会えないと諦めていた幼馴染。
いきなり返事なんて考えられない。
なのに、トーイは返事を急かす。

「……俺と結婚するの……いや?……」

眉をへにょりと下げた情けない顔は、暗い所でも分かるぐらい真っ赤に染まっていた。
昔からそうだ。
私は彼のお願いには弱い。

断れないのは……多分………。

「……行くよ。一緒に。今準備するね。」

私の返事に、小さな安堵の溜め息を吐く。緊張で強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。

「……良かった。じゃあ姉ちゃん、急いで欲しい。王城の兵士が追いかけて来ているし、もう時間がないんだ。俺、金ならあるから。俺、姉ちゃんのためなら何だって頑張れる。必ず守るから……。」

「うん。」

私は必要最小限の荷物と両親の遺骨だけを持って家を出た。

外では彼の仲間、ユンフィーさんとジンさんも待っていた。

「はじめまして。」
「挨拶は後だ。急ぐぞ。」

街を抜けると空がうっすら白んできた。
遠くに見える森の後ろからゆっくり朝陽が昇ってくる。
キンと冷えた空気が私の意識をハッキリと目覚めさせた。
この国を出たら二度とは戻って来れないだろう。想い出の詰まった家にはもう戻れない。それでも、光に向かって歩くトーイに私はついて行く。
そう決めた。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。

芹澤©️
恋愛
王太子の元へ側室として嫁いだ伯爵令嬢は、初夜の晩に宣言した。 「申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。」

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

処理中です...