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トーイが帰って来ないまま七日間が過ぎた。
(もう私の家には来れないのかしら?あれが最後のお別れなんて……。)
国中が勇者と姫との婚約にお祭り騒ぎ。
私は素直に幼馴染の幸せを祝福する気持ちにはなれなかった。
(小さい頃あんなに苦労したんだもの。喜んであげなきゃいけないよね。)
今の国王になってから、税金は上がり続けていた。
王都は街道の整備も進まず、治安も悪化。不作も続いていて、食料品の物価は上がるばかり。
今の王家に対して民衆はかつて無いほど不満を溜めていた。
それがこの婚約発表によって一変する。
今回の婚約は久しぶりに国民に届いた明るいニュース。
それほど世界の危機を救った勇者は国民の間で絶大な人気を誇っていた。
祖国の勇者が世界を救った。この事実は国民を昂揚させ、王都はかつての活気を取り戻した。
新聞や雑誌は連日マルガリーゼ王女様を特集し、街の女性たちは挙って王女様のファッションの真似をした。
仕事帰りに通りを歩いていると、マルガリーゼ様愛用の香油を買って嬉しそうにお喋りしている少女達とすれ違う。
大切そうに胸に箱を抱え、弾けるような笑顔を浮かべていた。
その浮かれた街の雰囲気に自分だけが取り残されたよう……。
「トーイはもう手の届かない人になっちゃったな……。」
一番身近にいた幼馴染。
それが今ではこんなにも遠い。
重い気分のまま、家に帰る。
もう、トーイのために買った食材は腐らせてしまった。
両親が亡くなってから戸締まりを厳重するため、扉を頑丈な物に付け替えた。
それでも治安が悪くなった最近では、夜が来るのがほんの少し怖い。
ドンドンドンドン
明け方、扉を乱暴に叩く音に飛び起きる。
(な、なに?緊急の連絡かしら?こんな時間に?)
恐る恐る扉の前に近づくと、よく知る声が聞こえた。ずっと聞きたかった声……。
「アイ姉ちゃん、開けてくれ。」
ほっとして扉を開けると、焦った顔の幼馴染がいた。
「アイ姉ちゃん、良かった。無事で。」
私の顔を見て安堵の色を浮かべると、急に抱きついてきた。
「ごめん。姉ちゃんを巻き込んで。一緒にこの国を出て欲しい。」
「え?」
「俺、結婚を強制されそうになって………。言うこと聞かないと姉ちゃんに危害を加えるって脅された。俺、アイ姉ちゃんとじゃなきゃ嫌だ。」
真剣に、縋るように、トーイは私の手を握る。成長した幼馴染は男を感じさせる顔になっていた。
「アイ姉ちゃん。俺と結婚して。」
夜、急に来てこんな告白をするなんて…。
トーイはいつも私を振り回す。
さっきまでもう二度と会えないと諦めていた幼馴染。
いきなり返事なんて考えられない。
なのに、トーイは返事を急かす。
「……俺と結婚するの……いや?……」
眉をへにょりと下げた情けない顔は、暗い所でも分かるぐらい真っ赤に染まっていた。
昔からそうだ。
私は彼のお願いには弱い。
断れないのは……多分………。
「……行くよ。一緒に。今準備するね。」
私の返事に、小さな安堵の溜め息を吐く。緊張で強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。
「……良かった。じゃあ姉ちゃん、急いで欲しい。王城の兵士が追いかけて来ているし、もう時間がないんだ。俺、金ならあるから。俺、姉ちゃんのためなら何だって頑張れる。必ず守るから……。」
「うん。」
私は必要最小限の荷物と両親の遺骨だけを持って家を出た。
外では彼の仲間、ユンフィーさんとジンさんも待っていた。
「はじめまして。」
「挨拶は後だ。急ぐぞ。」
街を抜けると空がうっすら白んできた。
遠くに見える森の後ろからゆっくり朝陽が昇ってくる。
キンと冷えた空気が私の意識をハッキリと目覚めさせた。
この国を出たら二度とは戻って来れないだろう。想い出の詰まった家にはもう戻れない。それでも、光に向かって歩くトーイに私はついて行く。
そう決めた。
(もう私の家には来れないのかしら?あれが最後のお別れなんて……。)
国中が勇者と姫との婚約にお祭り騒ぎ。
私は素直に幼馴染の幸せを祝福する気持ちにはなれなかった。
(小さい頃あんなに苦労したんだもの。喜んであげなきゃいけないよね。)
今の国王になってから、税金は上がり続けていた。
王都は街道の整備も進まず、治安も悪化。不作も続いていて、食料品の物価は上がるばかり。
今の王家に対して民衆はかつて無いほど不満を溜めていた。
それがこの婚約発表によって一変する。
今回の婚約は久しぶりに国民に届いた明るいニュース。
それほど世界の危機を救った勇者は国民の間で絶大な人気を誇っていた。
祖国の勇者が世界を救った。この事実は国民を昂揚させ、王都はかつての活気を取り戻した。
新聞や雑誌は連日マルガリーゼ王女様を特集し、街の女性たちは挙って王女様のファッションの真似をした。
仕事帰りに通りを歩いていると、マルガリーゼ様愛用の香油を買って嬉しそうにお喋りしている少女達とすれ違う。
大切そうに胸に箱を抱え、弾けるような笑顔を浮かべていた。
その浮かれた街の雰囲気に自分だけが取り残されたよう……。
「トーイはもう手の届かない人になっちゃったな……。」
一番身近にいた幼馴染。
それが今ではこんなにも遠い。
重い気分のまま、家に帰る。
もう、トーイのために買った食材は腐らせてしまった。
両親が亡くなってから戸締まりを厳重するため、扉を頑丈な物に付け替えた。
それでも治安が悪くなった最近では、夜が来るのがほんの少し怖い。
ドンドンドンドン
明け方、扉を乱暴に叩く音に飛び起きる。
(な、なに?緊急の連絡かしら?こんな時間に?)
恐る恐る扉の前に近づくと、よく知る声が聞こえた。ずっと聞きたかった声……。
「アイ姉ちゃん、開けてくれ。」
ほっとして扉を開けると、焦った顔の幼馴染がいた。
「アイ姉ちゃん、良かった。無事で。」
私の顔を見て安堵の色を浮かべると、急に抱きついてきた。
「ごめん。姉ちゃんを巻き込んで。一緒にこの国を出て欲しい。」
「え?」
「俺、結婚を強制されそうになって………。言うこと聞かないと姉ちゃんに危害を加えるって脅された。俺、アイ姉ちゃんとじゃなきゃ嫌だ。」
真剣に、縋るように、トーイは私の手を握る。成長した幼馴染は男を感じさせる顔になっていた。
「アイ姉ちゃん。俺と結婚して。」
夜、急に来てこんな告白をするなんて…。
トーイはいつも私を振り回す。
さっきまでもう二度と会えないと諦めていた幼馴染。
いきなり返事なんて考えられない。
なのに、トーイは返事を急かす。
「……俺と結婚するの……いや?……」
眉をへにょりと下げた情けない顔は、暗い所でも分かるぐらい真っ赤に染まっていた。
昔からそうだ。
私は彼のお願いには弱い。
断れないのは……多分………。
「……行くよ。一緒に。今準備するね。」
私の返事に、小さな安堵の溜め息を吐く。緊張で強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。
「……良かった。じゃあ姉ちゃん、急いで欲しい。王城の兵士が追いかけて来ているし、もう時間がないんだ。俺、金ならあるから。俺、姉ちゃんのためなら何だって頑張れる。必ず守るから……。」
「うん。」
私は必要最小限の荷物と両親の遺骨だけを持って家を出た。
外では彼の仲間、ユンフィーさんとジンさんも待っていた。
「はじめまして。」
「挨拶は後だ。急ぐぞ。」
街を抜けると空がうっすら白んできた。
遠くに見える森の後ろからゆっくり朝陽が昇ってくる。
キンと冷えた空気が私の意識をハッキリと目覚めさせた。
この国を出たら二度とは戻って来れないだろう。想い出の詰まった家にはもう戻れない。それでも、光に向かって歩くトーイに私はついて行く。
そう決めた。
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