幼馴染が勇者となって帰ってきました。

文字の大きさ
9 / 14

9.

しおりを挟む
スロア王国へ移住して1ヶ月が過ぎた。
この国に住むことに決めてからのトーイの行動は早かった。
早々に、町外れに一軒家を購入し、陛下への謁見も済ませてしまった。
陛下は勇者の移住を快く認め、私の身の安全も保障してくれた。

トーイは小さくて可愛い教会を見つけてくれて、結婚式を挙げた。

誰も招待していない結婚式。

教会の中には神父様と私たち二人だけ。 
おじいちゃん神父様は優しく語りかけるように、私たちの愛を問う。
音楽も拍手も無い静かな空間で私たちの誓いの言葉はまるで神様に届いているかのように、やけに大きく響いた。

今日は晴天。
ステンドグラスから光が差し込み、私の真っ白な花嫁衣裳を明るく照らした。
ヴェールに縫い付けられたビーズはキラキラと反射して光を撒き散らす。
それは、とても静かで神聖な儀式。 

けれど
教会の扉を開けるとーー

『わぁーーー!!』
『トーイ様、おめでとうございまーす!』
『おめでとーーー!!』

そこには大勢の人々の姿が……。

トーイは今日の結婚式の事を、色んな場所で言いふらし、街の人々が集まっていた。

「凄い人の数ね。」
「ああ。こんなに来るとは思わなかった。」
「何人に話したの?」
「え?二、三人かな?」
「へー。」

結婚が嬉しくてペラペラと喋るトーイが想像出来る。
元々隠し事とか駆け引きなんて無縁だ。
トーイはトーイのまま。勇者になっても変わらない。

私は背の高くなったトーイを見上げた。
彼はちょっと照れた顔で手を上げて人々の歓声に応えていた。ほんの少し八重歯をのぞかせた大好きな笑顔。

「トーイ。」

彼の頬に口づけしようと肩に手を置いてエイっと背伸びをして唇が頬を掠めた瞬間、グラリと身体が傾いた。

「あっ!!」

慣れないヒールで背伸びしてよろけた私をトーイががっしりと支えてくれた。

驚いた彼が私をじっと見る。

(失敗しちゃった。恥ずかしい。)

皆の前でふらついて失敗した恥ずかしさで真っ赤になった顔をじっと見られ、慌てて視線を反らせた。

「あ、あの……これは……。」

言葉が出ない。恥ずかしくて泣きそうだ。
そんな私たちの様子を見ていた人々から冷やかしの声が聞こえた。

「ヒューーーー!!」
「ラブラブだねーーー。」
「いいぞーー、もっとやれーーー。」

トーイは真っ赤な顔のまま何とも言えない表情を浮かべると、俯いて頭をボリボリと掻いた。

「あーー。もうっ!!」

トーイは私を横抱きにして顔を上げた。恥ずかしくて彼の肩に顔を埋めていると、彼が大きく息を吸うのを感じる。

「みんな、ありがとう!!」

大声でそう叫ぶとトーイは私を抱えたまま、大股で歩きだした。

人々が笑いながら見送る姿をトーイの肩越しにそっと見ていた。

★★★

数日後

テック王国で暴動が起き、国王が処刑されたとの噂を聞いた。

※テック王国の顛末は闇鍋で。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。

芹澤©️
恋愛
王太子の元へ側室として嫁いだ伯爵令嬢は、初夜の晩に宣言した。 「申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。」

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

処理中です...