私のパパは魔王様

序章

プロローグ

魔王城ルミナリア。
その最下層の果てにある大きな漆黒の扉の先、無駄のない質素で小さな部屋の隅で1人の女性が寝ていた。

「リアム様がそろそろ御出でになります」

従者の1人であるソフィアがそう言いながら部屋の隅まで駆けると、女性の弱った腰を支えるようにして体を起こす。すると、彼女はうっすらと意識を覚醒させていく。

「リアム...」

女性は目を擦りながら掠れた声でそう呟くと、乾き切った喉を潤す為に水分を求めて机へと手を伸ばした。
しかし、その伸ばした手先に感触が無く戸惑っていると他の従者が寄ってきて、先程から求めていた物であるティーカップを差し出してきた。

「失礼します。こちらをお受け取り下さい」

そう言われうっすらと笑みを浮かべつつティーカップを受け取ると、重たい腰をソフィアに支えられながら窓辺の椅子に座り、受け取ったばかりのティーカップに口をつける。
まだ淹れたばかりで湯気が立つ紅茶をゆっくりと喉へ流し込むと先程までの疲れ切った顔が嘘であるかのように顔色が良くなっていった。

「久しいわね」

そう一声ついた。
暫く経たぬうちに背後の扉がゆっくりと大きな音をたてながら開くと女性はそちらの方へと視線を移す。

「アイシャ調子はどうだ？」

至高の魔王リアムが7人の従者と共にこちらへと歩み寄ってくる。

「いつもと変わらないわよ。あなたこそ毎日働きすぎよ。少しくらいはこっちに来てくれてもいいのに」

そう言うと魔王はそれもそうだなと笑って答え、

「あの子は元気に育っているよ」

と言うと空いた方の椅子に座った。
少し間を空けて先程アイシャと呼ばれる女性にもしたように従者がティーカップを差し出す。

「ああ、せっかく準備してもらったのにすまないね。長くは居れないんだ。だから要らないよ」

そう言い終わると魔王はこちらに視線を移す。

（今日もすぐに行っちゃうのね）

そう思った矢先に男は話し始める。

「アイシャ。相談したい事がある」