私のパパは魔王様

月夜

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第一章 放浪

11話 闇闇

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最近メアリーの様子がおかしい。

そう思ったのは朝自分が起きた頃にはメアリーがいないからである。
ここ数日は借りた本を夜遅くまで読んでいたため、朝起きの時間が日頃より少し遅くなっていたが、それでもいつもメアリーが起きているよりは早い。にも関わらず、なぜかシオンが起きた頃にはもうメアリーはどこかに出かけているのである。

「一体どこに行っているのでしょうか?」

そう考えていると、今日もまた風呂から上がってきたメアリーが部屋へと帰ってくる。

「朝風呂ですか?」

そう聞くとメアリーはこくんと頷いて髪の水分を肩に掛けたタオルに吸収させ、そのままいつものように空魔法を使って髪を乾かす。

(はぁ、この大陸は魔法すら使わない人が多いというのに。メアは朝晩と空魔法を使って髪を乾かす余裕がある程魔力総量が多いのか?)

そんなことを考えるシオンに気づかないメアリーは鼻歌を歌いながらその長い銀髪を乾かす。
髪を乾かし終えたメアリーはシオンの方へと歩み寄り、ベッドの側の本を手に取る。表紙に『月降る夜』と書かれた本を開くと顔を顰めてこう言う。

「あなた、こんなに文字ばっかり見てて飽きないの?」

「ぼくは読むのが好きなので大丈夫ですよ。あ、栞は外さないで下さいね」

そう言われてふーん、と言った表情のままメアリーは本を閉じ、そのまま立ち上がって部屋を出ていく。

(あ、またどこかに行ってしまった)

また何も言わずに出て行ったメアリーを不審に思うが、先程メアリーが手にした本を手に取り、それを読む事にした。

栞の挟まったページを開くと、そのまま数十分読み進める。
ずっと姿勢を変えなかった事で痛くなってきた関節を動かす為に再び栞を挟んで立ち上がると、ふとメアリーのことを思い出す。

(まだ帰ってこない。一体どこに行ってるんだ?)

そう思ってから数分が経った頃、今度は汗をかいた様子のないメアリーが部屋に入ってくると「昼食を食べに行きましょう」と誘われる。読書のキリも良かったのでそのまま昼食に向かう事にした。

昼食後、体が鈍らないようにと続けている日課のランニングを終えると2人はギルドにいた。

「ここに来るのもなんだか久しぶりね」

確かにギルドに来たのは1週間程前が最後である。始めて来たときの感動も今では薄れつつあるのだが、今日はここに用事があって来たのである。

「そろそろクエストもやらないとお金が無いわね」

そう言ってお手軽なクエストはないかの掲示板を覗くが、中々良いものは見つからない。

「どれも面倒なクエストばかりですね。特にこれ、繁殖期のジャイアントフロッグの卵の処理とか無理です」

そう言って鳥肌の立った腕を摩るとぎこちなくメアリーの方を見る。

「うーん、どれも私達には合わないわ」

そう言って掲示板に背を向けると近くの椅子に座ると姿勢を悪くして机に突っ伏す。

「メア、行儀が悪いですよ」

そう言って歩み寄るシオンを他所にして「うぅ....」と唸っていると、受付の奥から出てきた女性がカウンターから出てきて2人に声をかける。

「あの、お2人様少しよろしいでしょうか?」

顔を上げないメアリーに変わってシオンが返事をする。

「はい。どうしましたか?」

「ええと、ちょっと込み入った話がしたいので、奥の部屋までよろしいでしょうか?」

そう言われて、シオンはメアリーの腕を引っ張って女性の案内に従うようにしてカウンターの奥の部屋へと連れて行く。

奥の部屋は、特に凝った作りな訳ではなかった。最低限の装飾と机上に花瓶が置かれていないことからシオンは会議部屋か何かの類だろうと推測する。開いた窓から感じるか感じないか微妙な風が通っていたが、女性はその窓を閉じると、一旦部屋を出て部屋には2人だけが残された。

それは少しの間のことであり、すぐに女性は水の入ったコップを3つ乗せた御盆を持って帰ってくる。それをコンッと音を立てて机の上に置いて2人の方へと差し出す。

「お水しか無くてすいません」

そう言われてシオンは「いいえ」と答えると、女性はポケットの中からカードを取り出した。

「私はヘスカ・マルゴーンと言います。ヘスカだけで結構です」

そう言って名刺をシオンに1枚渡すと、再びポケットに手を入れて四つ折り状態になった紙を取り出す。
それを広げると、そこには地図と文章が書かれていた。

「ここがハルタです。今回話したいのは左手にある山脈についてです」

そう言って指差すのは先週カルディアから通ってきた山脈である。

「何かあったのですか?」

「実は、ここ1週間でこの山脈に異常がありまして。その異常の対処をお願いしたいと思っておりまして。先日アイスドラゴンを倒したあなた方なら実力的に十分かと」

そう言われてシオンは納得する。
あの山のことについては何も知らなかったが、あの日アイスドラゴンが襲って来たのも関係があるのかもしれない。そうなれば、討伐実績があるメアリーやシオンが行くのが道理である。

「異常というのは何でしょうか?場合によっては僕達では対処する事ができないかもしれません」

「異常といっても奇譚な話ではありません。先日あなた方が倒されたアイスドラゴンが何匹も麓近くまで狩りに来ているという報告がありまして。原因の解明と必要があれば放追を依頼させて頂きたいのです」

シオンはなるほど、と思った。先日アイスドラゴンに襲われたのはたまたまではなかったのだ。
だがしかし、この依頼には1つ問題があった。メアリーが寒さに弱い事である。彼女が山で震えていたのを思い出して「ああ、無理かなぁ」とか思いつつあるシオンとは裏腹にメアリーのやる気は満ち溢れていた。

「戦えるのね」

そう言って自らの拳を眺めるメアリー。そんな彼女をシオンは止めようとしたが間に合わなかった。

「任せてください!なるべく早めに準備を済ませて行きます!」

それを聞いたヘスカは全く心が笑っていないだろう笑顔を浮かべ、必要なものを机上に並べていく。
温度計、湿度計、そして最後に剣を1本。

「この刀は冷気に対して耐性を持つものです。耐性がない武器で連戦をしたら冷気でカチカチになったところを折られてお終いになってしまいますから」

そう言われるが、連戦するつもりはないと目を細めるシオン。メアリーはというと、剣をじっと眺めて会議からはフェードアウトしているようだった。

「メアリーさん?」

2、3秒世界から隔絶された空間にいたメアリーをヘスカが呼び戻す。

「ああ、すいません」

そう言ってヘスカの方へと向き直ると、再びヘスカの話が始まる。

「この剣はこの依頼以降もあなた方に持って行っていただいても構いません。それほど重大だという事です。なので死なない程度に頑張ってきて下さいね」

今度はニコニコと作られたわけではない笑顔を向けられ、若干狼狽えつつもこの件を引き受けることにした。
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