かぐや姫は笑わない

鯖缶

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プロローグ

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両親が死んだ日を今でも覚えている。
遺影の向こうで幸せそうに笑っている二人は俺を残してあっけなく手の届かない場所へ逝ってしまった。
年若い坊主が読む経とか、木魚の音。誰かが鳴き声を耐えるような嗚咽。体をずらしたときに聞こえる布ずれの音も。何もかもが頭の中で響いては消えていく。
絶望と失意の空気。残された俺は涙を流すこともなくただただ茫然と二人の遺影を見つめていた。

おかしいな。朝、学校に行く前は二人とも笑ってて。「いってらっしゃい」と母は撫でてくれて。「帰ってきたらパーティだぞ」なんて手を振った父がいたはずなんだ。
おかしいな。昼休みに友人と夕べのテレビ番組の話をしてたら血相を変えて担任が教室に入ってきた。両親が通り魔に刺されたって?先生、エープリルフールならとっくに過ぎたよなんて言えるわけもなく、両親の運ばれた病院に連れていかれた。

その時には両親の顔にはテレビドラマで見るような白い布がかぶせられていた。

おかしいな。おかしいな。なんだこれ。

ひどく気持ち悪くなってその場でお昼の給食を全部出してしまった。あーぁ…せっかく今日は俺が好きだった揚げパンだったのに。

―――そのときでも俺の目からは涙がこぼれることはなかった。



ぽく、ぽく、ぽく…


なんで俺はここにいるんだろ。大好きな両親はもう両隣にはいないのに。









「俺の家にきてくれるかい?」
「…え?」

年若い坊主が帰ってから親戚たちは俺の扱いについて話していた。なんとなく聞いていたがどこも引き取りたくないと言いたいようで。まぁ俺としてはどこに行ってもおなじようなものだからどうでもいい。
そしたら、随分と若い男が声をかけてきた。

誰だ?

俺はこの人のことを知らなかったが、聞くと遠縁にあたるらしい親戚だった。二十代中ばでそれなりの収入があるらしい。にっこりと笑った男は優しく俺を抱きしめてくれた。
大丈夫だよ。俺がいるよと何度も背中を撫でながらそう言ってくれた。

嬉しかった。俺はもう一つの家族を見つけた。


















俺が二度目に家族を亡くしたのはそれからたった10年後の話だった。


やはり遺影には笑顔のあの人がいた。

あぁ、俺は死神にでも魅入られているんだろうか…いや…俺が死神なのか。

俺が両親を殺して、あの人を殺したんだ。

涙はやはり出なかった。

泣くことも許されない現実に俺は嫌気がした。




俺もそっちに逝きたいなぁ…
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