海が囁く誓い ー冤罪で島流しになった令嬢は、初恋王子と戀に堕ちるー

まめなちゅせん

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甘やかされて溶ける夜*

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 重厚な扉が閉ざされる音が、寝室の静寂に沈んだ。
 分厚いカーテンが夜を閉じ込め、揺らめく燭台だけが二人を照らしている。

 エドワードの腕に抱えられたままのエリザベスは、胸元で拳をきゅっと握った。
 足が床につかない心許なさと、温かな胸板に支えられる安心感とが、同時に心を乱す。

「……もう、侯爵様。いい加減、降ろしていただけませんの?」

 抗議を口にするが、その声は震えている。
 彼の腕の中で暴れるのも憚られ、結局、ただ赤面しているしかなかった。

 エドワードは歩みを止めず、寝台の前でようやく足を止めた。
 意地悪げな微笑を浮かべ、囁く。

「嫌か?」

「い、嫌では……ございません。ただ、恥ずかしいだけで……」

 返す声が小さく掠れる。
 それを聞いた侯爵は、楽しげに肩を揺らした。

「恥ずかしがる君を眺めるのは、私の密かな愉しみだ」

「っ……!」

 さらに頬が熱を帯び、言葉が続かない。
 エリザベスは顔を逸らし、けれど心臓の音までは隠せなかった。

 やがてエドワードは、そっと彼女を寝台の上へ降ろした。
 深紅の天蓋が垂れるベッドに腰を下ろすと、ふわりと背中に羽毛の柔らかさが触れる。

 侯爵はその前に膝をつき、彼女の手を取った。

「……今日はよく頑張ってくれたな」

 低い声音に、胸がじんわりと熱を帯びる。
 エリザベスは首を横に振り、か細く返した。

「いいえ。わたくしなど……クラウディオやセシリアが成長してくれただけですわ」

「違う。君が導いたからだ。私も、そして彼らも、そう思っている」

 蒼の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
 視線が絡むだけで、心臓が跳ねて苦しくなる。

「……侯爵様は、本当に……甘やかしてばかりでいらっしゃる」

 息を吐くように呟けば、彼は愉快そうに目を細めた。

「甘やかしたくなるんだ。君を見ていると」

 囁きと共に、手の甲へ口づけが落とされた。
 僅かな唇の温もりが、指先から胸の奥へと伝わり、甘い痺れを生む。

 エリザベスは慌てて手を引こうとしたが、侯爵の大きな掌に包まれ、逃れることはできなかった。

「……っ、侯爵様」

「エドワードだ」

 その一言に、喉が詰まる。
 普段は威圧感すら放つ彼が、今はただ彼女の婚約者として、名を呼ばせようとしている。

「……エ、エドワード様」

 勇気を振り絞り囁けば、彼は満足げに笑った。

「そう、よくできたな」

 褒められただけで、胸がぎゅっと締め付けられる。
 どうしてこれほどまでに、彼の言葉は心を揺さぶるのだろう。

 視線を逸らそうとした瞬間、顎に指先が添えられ、正面へと向けられる。
 至近距離で見つめられ、思わず息を止めた。

「……君が愛おしい」

 熱を帯びた囁きと共に、再び唇が重ねられる。
 先ほどよりも深く、長く、そして優しく。

「んっ……ふ」

 時間の感覚が曖昧になり、ただ彼の温もりだけが世界を満たしていく。

「ふぁ……っ」

 触れるだけのキスは慣れたが、まだ深いキスには慣れなくて、息が出来なく苦しくなった頃、鼻で呼吸をするのだと思い出す。
 苦しそうに肩を震わせる彼女が堪らないと、エドワードが舌を絡める。

「っは、ぁ」

「ふっ、また忘れていたのか? 何度もしているのに慣れないんだな」

 唇が離れると、エリザベスは小さな吐息を零した。
 肩で息をしながら、紅潮した顔で見上げる。

「不慣れで、ごめんなさい……ん」

「そこが堪らない」

「もう、どうして、そんなに……」

「大切だからだ」

 即答するその声に、胸が痛いほど締め付けられる。
 けれど、それが恋であるとは――まだ気づけなかった。

 ただ、彼に大切にされる幸福感に包まれている。

 侯爵は彼女の背を支え、ゆっくりと寝台へと横たえさせた。
 彼女の頭の横に手を置き、覆いかぶさるようにして視線を落とす。

「怖いか?」

「……いいえ」

 小さな声で、けれどはっきりと否を返した。
 その勇気に、エドワードは静かに目を細める。

「ならば……安心しろ。今夜はただ、君を甘やかすだけだ」

 その言葉どおり、彼は強引に迫ることはしなかった。
 頬に、額に、指先に――無数の口づけが降り注ぐ。

 まるで宝石を扱うように丁寧に、優しく。
 触れられるたびに、胸が熱で満たされ、涙が滲みそうになる。

「なんだか恥ずかしい……っン」

 呟きは途中で途切れた。
 彼の唇が再び重なり、言葉を飲み込んだからだ。

 甘い口づけが続く間、心の奥に芽生える感情はただひとつ。
 ――この人に守られている。

 それだけで身体を開くには十分な理由だった。

「あ、の……」

 エドワードの指先が、ゆっくりと背のファスナーを下ろしていく。
 繊細な布地がほどけるたびに、空気が肌に触れ、エリザベスは小さく身を竦めた。

「……っ、こ、侯爵様……」

 思わず抗議しかけるが、低い囁きに言葉を飲み込まれる。

「エドワード、だ。これはいち早く慣れてほしい」

 耳もとに落ちる声は、甘やかしと命令を一つにした響き。
 拒む余地などなく、頬が熱で染まっていく。

 肩口までずり落ちた布を、彼の唇が辿る。白い肌に柔らかな熱が触れるたび、エリザベスの喉から息が漏れた。
 やがて胸元を覆う布が緩むと、慌てて両腕で抱き寄せる。

「み、見ないで……」

 弱い抵抗は、彼の掌にあっさりと制された。
 そのまま覆い隠す指先に唇が触れ、びくんと肩が震える。

「……君はすべてが美しい。恥じることはない」

 低い囁きが胸に直接落ちるようで、心臓が跳ねる。
 覆っていた腕を解かされ、露わになった柔らかな双丘へ、指がそっと触れた。

「んっ……!」

 小さな悲鳴が漏れる。触れられるのはただの指先なのに、そこから痺れるような熱が広がっていく。
 弄ばれるたび、声を堪えきれず唇を噛む。

「噛むな」

「んんっ」

 力を緩ませようと、唇を舐め上げ、またキスをする。
 彼女の唇に残った歯形をエドワードは丁寧に、2度としないようひとつひとつ舌で突いて刺激する。

「や、……ッわ、分かり、ましたから!」

 あまりの羞恥に耐えきれず、エリザベスが彼の要求を飲み込んだ。その返事を聞いて、ちゅっと歯形を吸ったエドワードは更に彼女を追いつける為に、二人の唾液で潤った艶やかな唇を舐めた。

「───なっ! や、やだ! ひゃう!」

 普段の彼女からは聞くことのない子供のような言葉遣いに、こんな彼女を見れるのは世界で己一人なのだと優越感を覚える。もっと聞きたいと、彼女の柔い胸を優しく手で包むと、否定の言葉とは裏腹に、身体は正直に愛撫を受け入れている。

 エドワードの唇がその頂に触れた瞬間、全身に衝撃が走った。

「ひゃ……っ、だ、め……!」

 必死に訴える声も、甘い刺激の中で掻き消されてしまう。
 舌で弄ばれ、指で形をなぞられ、胸の奥から熱が込み上げる。

「……声を我慢するな。もっと聞かせてくれ」

 意地悪な囁きが耳に届くと同時に、快感の波が高まった。
 腰が勝手に跳ね、彼の肩を掴む指先に力がこもる。

「やぁ……あっ……! も、もう……っ」

 堰き止めていたものが、ついに決壊する。
 胸元だけの愛撫なのに、全身が震え、熱い涙が瞳の端から零れ落ちた。

 呼吸を乱しながら彼の胸に縋りつくと、エドワードは満足げに微笑んだ。

「……君がこれほど乱れるとは。私の宝物だ」

 その囁きに、また胸がきゅうっと締め付けられる。
 羞恥と幸福の狭間で、言葉にならない声を洩らすしかできなかった。

 やがて彼は彼女を抱き寄せ、背を撫でながら額に口づけを落とす。

「安心しろ。今夜はこれ以上はしない。ただ君を大切にしたかった」

 甘やかす声に包まれ、エリザベスは抵抗する力を失っていく。
 そのまま彼の胸に顔を埋めると、温かな鼓動が耳を打ち、心を安らぎで満たした。

 エドワードの腕の中、彼の心臓の鼓動を聞きながら、エリザベスの瞼は重くなっていった。

「……おやすみ、愛しい婚約者」

 耳元で囁かれるその声を最後に、彼女は眠りへと落ちていく。
 彼女が眠ったあとも、侯爵はただ穏やかに微笑み続けていた。

 ――今夜はまだ、彼女が自分だけに特別であると気づいてはいない。
 だが、それでいい。
 ゆっくりと、確実に、この絆を育んでいけばいいのだから。
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