異分子マンション

カナデ

文字の大きさ
上 下
14 / 220

14

しおりを挟む


 ガチャ、とドアの開く音が響く。
 事務所の入口に白衣姿の男性が立っていた。
 まるで医者のようだが、白髪交じりの髪はぼさぼさで無精ひげを生やしている。歳は四十代後半くらいだろうか。
 ハルは「ちょうどいいところに」と呟いた。

「こちらが僕の叔父、月下ノブユキです」

「……えっ、そうなんですか?」

 白衣の男性――ノブユキは「やぁ」と右手を挙げた。
 失礼ながら、ハルとはあまりにも雰囲気が違う。こんなだらしない風貌のおじさんがハルの縁者だなんて、説明されなければ絶対に分からない。

 ノブユキは白い紙袋を手にしている。
 袋に印字されている文字を全て読むことはできないが、病院で処方される薬のようだ。それをハルに手渡したノブユキは、こちらに向かって微笑した。

「俺はファミリアここじゃ〝ノブおじさん〟で通っている。そう呼んでくれていいよ」

「分かりました。よろしくお願いします」

「こちらこそ。色々話したいところだが今は忙しくてね。またの機会に」

 白衣をなびかせ身を翻したノブユキが事務所を出て行く。
 ハルは苦々しい笑みを浮かべた。

「慌ただしくて申し訳ありません」

「別にいいですけど。それより、さっきおじさんに渡されてた袋って……薬?」

「いえ。ここのところ食事が偏っていると話したら、ビタミン剤を用意するから飲めと言われたんです。わざわざ来客中に渡さなくても良かったのですが」

 ハルは薬袋をジャケットの内ポケットに突っ込み、契約関係の書類を挟んだファイルを片付けた。

しおりを挟む

処理中です...