異分子マンション

カナデ

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 ハルはあたしのことを突き放そうとしている。
 ノブユキのもとへ戻り、さらなる思考の制御を受け入れようとしている。

 ハルのことが大切だから、しつこいと思われたくない。
 でも、大切だからこそ引き下がりたくない。

 初めて抱く感情に戸惑うばかりで、具体的に何をすればいいのか分からなかった。

 どんな言葉で表現すれば、この想いを伝えることができる?
 どんなふうに振る舞えば、この想いが伝わる?

 胸の奥底から熱い何かが込み上げてきて、爪が食い込むほど拳を握り締めた。

「……管理人さんには、自由に生きてほしいよ」

 必死に考えを巡らせて、出てきた言葉はそれだけだった。

 ハルの手が再び伸びてくる。また頭を撫でるつもりだろうかと思ったが、彼の指はあたしの頬に触れた。
 濡れている。
 いつの間にか、自分が泣いていることに気付いた。
 ハルは涙を拭おうとしたらしい。
 格好悪いところを見せたくなくて顔を背けた。

「ごめん。あたし、鬱陶しい女になってるよね」

 いえ、と小さな声で返ってくる。
 それが本音なのか建前なのか分からない。
 ハルの顔を見るのが怖かった。

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