異分子マンション

カナデ

文字の大きさ
上 下
179 / 220

179

しおりを挟む


 今度はノブユキが沈黙した。
 その面持ちは夜闇と同化するほど暗い。

 ハルに選択権を与えておきながら、出された答えに納得がいかないのだろうか。それとも、最初からハルの意思に委ねるつもりなどなかったのか――。

「……お前さんのコントロールは既に崩れかけている。あとはユイカ側のコントロールをやめればいい」

 ノブユキの発言に驚いたのはあたしだけではなかったらしい。ハルは訝しげな顔で「どういうことですか?」と訊ねた。

「お前さんと同じAIチップを、ユイカの頭にも埋め込んでいるんだ」

「そんな……そんな話は聞いていません」

「ユイカはお前さんの心を乱さぬよう、事実を黙っていたからな」

「黙っていたって……。僕は頭に穴を開けられてから一週間、絶対安静を余儀なくされたじゃないですか。ユイカにそんな期間は――」

「覚えていないのか? あの子が整形したときのこと」

 ユイカと出会ったとき、彼女は美容整形していると言っていた。あたしは詳しく聞いていなかったが、ユイカは「術後の腫れた顔を兄さまに見られたくない」と言い、十日間ほどファミリアを出ていたらしい。その時期に被せ、AIチップを埋め込む作業も行っていたという。

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕の体験記

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

機械仕掛けの悲劇

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

私を愛でる人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:95

処理中です...