【完結】幻惑の華 ※ギャグパロディ作品も別途掲載

双葉

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おまけ13【side.パスカル】――歌

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 五年に渡る長き高校生活が終わりを告げた。四月からは大学生活が始まる。
 俺自身が望んだ未来ではない。
 結局、両親の敷いたレールの上を歩くしかないのだ。

 それでも心を壊さずにいられるのは、望まない大学生活と同時に、俺自身の希望で決めた生活も始まるから――愛する人との同棲も始まるから。エリックと一緒にいられるのなら、この先もずっと〝本当の俺〟を見失わずにいられる。

 短い春休み。
 真っ先に行うべきことは引っ越しの準備だ。少しずつ荷造りを進めてはいるが、面倒くさくて捗らない。

 何か気晴らしがしたいと思いながらスマホで動画サイトを開くと、お勧め欄に【歌ってみた。】という動画が表示された。歌い手を名乗る人々によるもの――そこでふと、先月頃の記憶がよみがえってきた。

 俺がノアを部屋へ招き、一緒にゲームしていた日。エリックとタケル先生は食事に出掛けたという。その行き先はカラオケ店。ディナー代が安くなるというチケットを用い、夕食ついでにカラオケを楽しんだと聞かせてもらった。そこまでなら「楽しそうで何より」で会話も終わっていただろうが、気になる情報を得ている。

『タケルの奴、エグいレベルで歌が上手いぜ? あの仏頂面からは想像できん』

 もちろん、ノアにも同じ情報は渡っている。エリックいわく、ノアは「ずるい! オレも一緒に行きたかった!」と喚いていたそうだが。頭の固いタケル先生は、生徒とプライベートで遊びに行くことなど許さない。卒業したらみんなで行けるといいね、なんて綺麗に話をまとめて終わっていた。

 動画サイトを閉じ、ノアへ発信する。
 やがて『どした?』と返ってきた。

「卒業から一週間くらい経ったけど、調子はどう? 引っ越しの準備とか」

『荷運びはほとんど終わって、あとは家具だけになってる。お前の荷物、オレの部屋に運び始めてくれていいぜ?』

「あ、うん、それはそれで助かるけど。本題はそっちじゃなくて、忙しいかなーって」

『バタバタしてるってほどでもないけど』

「じゃあさ、今週か来週にでもカラオケ行かない?」

『カラオケ?』

「ほら、いつだったか話題に出たでしょ? タケル先生の歌を聴きたいって」

『――そうだ、引っ越しに気を取られて忘れてた。オレたちはもう在校生じゃないから、みんなで一緒に行けるよな!』

「そういうこと。俺からタケル先生に連絡して誘ってもよかったんだけど、ノアがヤキモチ焼くかなと思って」

『別に、そのくらいで妬いたりしねーけどなっ』

 ノアの膨れっ面が容易に想像できる。
 本当に可愛いんだから、なんていつもの調子で茶化したら話が大幅に脱線するだろう。今日のところは押さえて――。

「俺はみんなの都合に合わせるから、そっちで決めてくれていいよ」

『じゃあ今回はオレが仕切るぜ。春休みと言ってもアニキとタケルは仕事だし、行くなら夜かな? 二人に訊いてみるから待ってて』

 通話が切れる。
 折り返し連絡があるまで荷造りの続きを進めよう。チョコを頬張りながら段ボール箱を広げていると、スマホの着信音が鳴り響いた。

 時刻は午後六時過ぎ。
 ディスプレイをフリックして応答し、ノアに現状を訊ねた。

『タケルとアニキ、春休み中ならいつでもいいって。仕事が終わってから二人で合流すると言ってた』

「そっか。でもまさか、四人で遊びに出掛ける日が来るとはね」

『だよな! めちゃくちゃ楽しみ』

 ノアと予定を照らし合わせ、明後日の午後六時、カラオケ店前で落ち合うことになった。通話を終え、スマホをローテーブルに置く。そろそろ夕食の支度でもするか――と言っても、相変わらず自炊はしていない。徒歩圏内のスーパーでお惣菜を買う、もしくはカップ麺に冷凍食品。

 今夜は荷造りの疲労もあるため、わざわざ出掛けるのも億劫だ。カップ麺でさっと済ませ、デザートにアイスとプリン。その後シャワーを浴びてから部屋に戻ると、テーブルの上でスマホが鳴っていた。ディスプレイに表示されている名前は《ノア》。何だろうと思いつつ電話に出た。

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