【完結】幻惑の華 ※ギャグパロディ作品も別途掲載

双葉

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20【side.パスカル】――ノア/白

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 ……「後悔してる」だって。
 そんなはっきり言う?

 俺は「良かった」と思っていたのに。
 片想いしているのは俺じゃなく向こうなのに。

 何なの、この状況。
 俺の方がフラれたみたいなんですけど。なんだか笑えてきた。

 昨日からエリックの態度がよそよそしいとは思っていた。生徒といやらしいことをしたんだから学校で会うのは気まずいよね、なんて楽観的に捉えていたが。

 そんな単純なものではなかった。

 確かに誘ったのは俺だけど。
 選んだのはエリックだ。
 俺はちゃんと選択する猶予を与えた。

 でも。
 あんな沈んだ顔で「後悔した」と明言されてしまったら……いくら性格のねじ曲がった俺でも、さすがに罪悪感を抱いてしまう。

 ……あの人はたぶん。
 ノアと同じくらいピュアで、ノア以上に繊細だ。少なくとも俺にはそう見える。口と態度の悪い不良教師だから分かりづらいけれど。


 帰宅する気力が湧かず、三年一組の教室へ戻った。自分の席にバッグを下ろし、ゲーム機を取り出す。

 誰もいない教室で新作の格ゲーをプレイしていると、後方から肩を叩かれた。イヤホンを外して振り返る。タケル先生が鬼の形相で見下ろしていた。

「僕の言いたいことは分かるな?」

「生徒指導部の巡回中ですか? お疲れさまです」

「話をそらそうとするな。ゲーム機の校内持ち込みは禁止、没収だ。親御さんを通して後日返却する」

「え、それはホントに勘弁してほしいです。親が絡むと鬱陶しいので」

「分かっているなら持ち込むな」

 タケル先生はゲーム機を奪い取ると、俺のスクールバッグの中へ戻した。……没収しないのだろうか。

「今日だけは特別に見逃してやる。……先日は君にも面倒を掛けてしまったからな」

「……あの件は俺が元凶なので。むしろタケル先生は被害者ですから、エリックみたいにぶっ飛ばしてくれるくらいがちょうどよかったんですけど」

「エリック先生が君を殴ったのか!? そんな話は聞いていないぞ!」

「言ってませんから。エリックを責めないでくださいね? 全部俺のせいなので」

「……悪いのは君じゃない。僕がきちんと自分を制御できる人間であれば何も起きなかったのだから。僕は被害者でなく加害者だ」

「でも結果として、大好きな人をゲットできたわけで。その点に関してはよかったですね」

「……恋愛事には触れないでもらえるだろうか。僕が教師として間違ったことをしているのは事実。良心の呵責に耐えられなくなりそうで怖い」

「ふざけた俺だけど口は堅いので安心してください。あの件は俺たち四人の秘密、ですよね?」

 タケル先生は気まずそうに会釈し、教室を出ていった。

 担任だった頃は毎日しつこかったタケル先生。学年が変わってから少しずつ、ほんの少しずつ、距離ができていって。

 あの人にも自分のクラスがあるから仕方ないけれど。ゴミ生徒の俺を見てくれる唯一の存在だと思っていたから寂しかった。

 ……先日までは。

 俺のことを気に掛けていたのはタケル先生だけじゃなかった。むしろ、もっと身近なところにいた。

 エリックがサボり仲間になって約半年。
 好意を抱かれているなんて全く気付かなかった。

 エリックは他人に深入りするタイプじゃない。俺の闇を知ってからも、基本的には〝我関せず〟という様子だった。それが心地よく、ありがたかった。

 定期的なサボりタイムを提案したのも俺だ。この人のことは信頼できると感じたから。

 そんな相手だから〝身体から始まる本気の恋〟なんてのもアリかな、と思っていたのに。エリックにとってはむしろ〝身体で終わる恋〟になってしまったようだ。

 後悔して。
 俺と必要以上に関わらないようにして。
 全部終わらせようとしている。
 バカみたいなすれ違い。

 本当はもっと軽いノリで話が進むと思っていた。身体を交えて気持ち良くなって、今までどおりサボりながらいろんな話をして、何となく距離が縮まって、そのまま自然と付き合う流れになるかなー……なんて。

 こんな重苦しい展開は想定外。

 エリックの繊細さを、分かっているようで分かっていなかった。こんなにも唐突に突き放されるなんてね。……もう少し考える時間がほしかったな。


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