61 / 231
20【side.パスカル】――ノア/白
1
しおりを挟む……「後悔してる」だって。
そんなはっきり言う?
俺は「良かった」と思っていたのに。
片想いしているのは俺じゃなく向こうなのに。
何なの、この状況。
俺の方がフラれたみたいなんですけど。なんだか笑えてきた。
昨日からエリックの態度がよそよそしいとは思っていた。生徒といやらしいことをしたんだから学校で会うのは気まずいよね、なんて楽観的に捉えていたが。
そんな単純なものではなかった。
確かに誘ったのは俺だけど。
選んだのはエリックだ。
俺はちゃんと選択する猶予を与えた。
でも。
あんな沈んだ顔で「後悔した」と明言されてしまったら……いくら性格のねじ曲がった俺でも、さすがに罪悪感を抱いてしまう。
……あの人はたぶん。
ノアと同じくらいピュアで、ノア以上に繊細だ。少なくとも俺にはそう見える。口と態度の悪い不良教師だから分かりづらいけれど。
帰宅する気力が湧かず、三年一組の教室へ戻った。自分の席にバッグを下ろし、ゲーム機を取り出す。
誰もいない教室で新作の格ゲーをプレイしていると、後方から肩を叩かれた。イヤホンを外して振り返る。タケル先生が鬼の形相で見下ろしていた。
「僕の言いたいことは分かるな?」
「生徒指導部の巡回中ですか? お疲れさまです」
「話をそらそうとするな。ゲーム機の校内持ち込みは禁止、没収だ。親御さんを通して後日返却する」
「え、それはホントに勘弁してほしいです。親が絡むと鬱陶しいので」
「分かっているなら持ち込むな」
タケル先生はゲーム機を奪い取ると、俺のスクールバッグの中へ戻した。……没収しないのだろうか。
「今日だけは特別に見逃してやる。……先日は君にも面倒を掛けてしまったからな」
「……あの件は俺が元凶なので。むしろタケル先生は被害者ですから、エリックみたいにぶっ飛ばしてくれるくらいがちょうどよかったんですけど」
「エリック先生が君を殴ったのか!? そんな話は聞いていないぞ!」
「言ってませんから。エリックを責めないでくださいね? 全部俺のせいなので」
「……悪いのは君じゃない。僕がきちんと自分を制御できる人間であれば何も起きなかったのだから。僕は被害者でなく加害者だ」
「でも結果として、大好きな人をゲットできたわけで。その点に関してはよかったですね」
「……恋愛事には触れないでもらえるだろうか。僕が教師として間違ったことをしているのは事実。良心の呵責に耐えられなくなりそうで怖い」
「ふざけた俺だけど口は堅いので安心してください。あの件は俺たち四人の秘密、ですよね?」
タケル先生は気まずそうに会釈し、教室を出ていった。
担任だった頃は毎日しつこかったタケル先生。学年が変わってから少しずつ、ほんの少しずつ、距離ができていって。
あの人にも自分のクラスがあるから仕方ないけれど。ゴミ生徒の俺を見てくれる唯一の存在だと思っていたから寂しかった。
……先日までは。
俺のことを気に掛けていたのはタケル先生だけじゃなかった。むしろ、もっと身近なところにいた。
エリックがサボり仲間になって約半年。
好意を抱かれているなんて全く気付かなかった。
エリックは他人に深入りするタイプじゃない。俺の闇を知ってからも、基本的には〝我関せず〟という様子だった。それが心地よく、ありがたかった。
定期的なサボりタイムを提案したのも俺だ。この人のことは信頼できると感じたから。
そんな相手だから〝身体から始まる本気の恋〟なんてのもアリかな、と思っていたのに。エリックにとってはむしろ〝身体で終わる恋〟になってしまったようだ。
後悔して。
俺と必要以上に関わらないようにして。
全部終わらせようとしている。
バカみたいなすれ違い。
本当はもっと軽いノリで話が進むと思っていた。身体を交えて気持ち良くなって、今までどおりサボりながらいろんな話をして、何となく距離が縮まって、そのまま自然と付き合う流れになるかなー……なんて。
こんな重苦しい展開は想定外。
エリックの繊細さを、分かっているようで分かっていなかった。こんなにも唐突に突き放されるなんてね。……もう少し考える時間がほしかったな。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
