魔法犯罪の真実

水山 蓮司

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第2章 血の追求者

2-09:警視庁と検察庁の在り方

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 検察庁検事総長室
 司法三者のうちの一つの役職で裁判という言い訳が出来ない場所で証拠を用いて被告人を有罪にすることを生業なりわいとしている。
 その役職の最高位に立つ人物のもとに鉄茂が報告しに訪れる。
「おかえりなさい。少し長い距離ではあったけどご足労だったな」
「いいえ検事総長、収穫があったので何よりですよ」
「あーやめやめ、俺と2人で話をする時は砕けた感じでいいぞ」
「わかった、じゃあそうさせてもらうぞ」
 鉄茂の堅苦しい話し方を指摘したこの男性、背丈は鉄茂とほぼ同じくらいで体格は陸上選手のような丁度良い感じにガッシリとして灰色混じりの若干長めの髪で、ややつり目だが穏やかな雰囲気を纏っているのは森園大吾もりぞのだいご、つまり時光の父親である。
 鉄茂をソファに座るように促して改めて話を伺う。
「それでてっちゃん、例の話だが話せるところまでで構わないから教えてくれるか?」
「ああ、そのつもりでここに来たからな」
 気持ちを落ち着かせて話を始める。
「まずは本人の希望で正式に決定しない限り顔はもちろん、名前も公表しないでくれとのことだ」
「まあ確かに知る人ぞ知る人で、今やネットはもちろんあらゆるツールを持ってすれば、ひと昔よりも遥かに簡単に載ってしまう恐ろしい時代になってきたものだからな」
 大吾がそう言うと鉄茂は黙って頷き話を続ける。
「それだけではなく俺が明らかに職務を全う出来ない限りは自分の出る幕はないとも言ってきた」
 その言葉を聞いた後に大吾が言おうか迷っていたが意を決して思いを伝える。
「そのことだけど鉄ちゃん、何も1人で背負ったり責めたりすることないんじゃないか?確かに小堂君が抜けてしまったことで影響はあるが、自分から降りることを言わなくてもいいんじゃないか?」
 鉄茂のこれからするだろうという行動に静かではあるが全力で止めに入る大吾だが、鉄茂は首を横に振って答える。
「これはもう自分自身で決めたことだし、何より彼を選抜したのは他でもなく俺だからその責任をとらないことには周りの人に示しがつかないからな」
「そうか」
 どういう顔していいかわからず大吾はそう短く返すことしか出来なかった。
 そんな大吾の顔を見て鉄茂は苦笑いして伝える。
「何も今すぐにというわけじゃないんだから、そんな顔をするなよ。別に俺じゃなくても務まる人がいればそれでいいんじゃないか?」
 他人事ひとごとのように話すと大吾は少し呆れたように言う。
「あのなあ簡単に言ってくれるけど1人の存在の影響で大勢の人に良い勢いを作れる人なんぞ、そう多くいるわけじゃないぞ。身贔屓みびいきに聞こえるかもしれないが鉄ちゃんみたいな存在感のある人は特にな」
「それは買いかぶり過ぎだ。そこで今日、俺とはまた違ったタイプの人だが務まりそうな人のところに行って話をしにいったんだ」
 大吾のダメ押しの言葉にもそう躱す。
 何を言っても信念を曲げないことがわかった大吾は潔く諦める。
「鉄ちゃんにそこまで言わせる人物であれば俺からはもう何も言わない」
「悪いなだいちゃん。わかってくれとは言わないが少しずつ受け入れて欲しいとだけ伝えておくぞ」
「ああ、そうさせてもらう」
 両者複雑な心境ではあるが気持ちを尊重するのである。
 魔法が発達してからなのか、爆発的に出現してからなのか、いずれにしてもその期を境に警視庁と検察庁がこうして互いに、いがみ合うことなく話が通じることは怪奇現象と言ってもいいほどのことである。
 ひと昔前まではどちらかが上か下か、捜査して逮捕した結果、裁判にかけられず不起訴になりそのことで争ったことが多く互いの気持ちを尊重出来なかった時代もあった。
 ましてや両庁最高位りょうちょうさいこういがこうして話をすることもあり得ないくらいだった。
 それが現実として表れること自体、始めは信じられず多くの人が驚いた。
「話が変わるが、時光やメンバーの調子はどうだ?」
 大吾がそう尋ねると鉄茂は嬉しそうに答える。
「なかなかいい態勢になってきたぞ。大ちゃんの息子だけあって時光君は賢く察しがかなり効く、他のメンバーもその意図を汲み取って自分たちの出来る最大限のことをやろうとしているあたり、俺から何を言わなくても動いてくれる。頭抜けて凄いのは氷山君、彼に関しては衝撃的だった」
「一体何があったんだ?」
「話をすると少し長くなるが大丈夫か?」
「ああ、それでその内容とは?」
 大吾が前のめりになって怜司の話に興味を持ち始める。
 その当時受けた衝撃について話始める。
「彼を組織に配属したばかりのことだった。その時からだろうな、他のメンバーとは圧倒的な力の差があるように俺は見えた。そこで今まで野放しにされていた多くの事件の依頼を彼に委ねた。魔法犯罪の有無問わず文字通り命懸けの事件もそこに含まれていた」
 まず自分が怜司と向き合い印象に残っていることに触れ、話を続ける。
「任務に慣れてくれるため、まずは確実にこなしてくれることから依頼しようとした時だった。氷山君の方から急ぎではないけど放っておくと周囲に被害が及ぶ厄介な任務はありますかと問われた」
「それで鉄ちゃんはどうしたんだ?」
「もちろんその時は慌てずとも少しずつ慣れていけばいいと反対した。しかし彼はこういった。「尊い命が一つでも多く救えるようであれば私はその事件を未然に防ぎたい。それが出来なければ私自身はもちろんメンバーの命すら救えません」と。俺はその気持ちを尊重して任務に行かせた」
「それで結果はどうだった?」
 大吾の聞く姿がワクワクした状況だとわかっても話を続ける。
「その当時行かせた任務は一週間前後かかると見込んだ内容のものに対して彼は3日弱で遂行してみせた。切り傷や擦り傷は目に見えてわかったが、大きな怪我することなく生還してきた」
「一体どんな無茶苦茶な任務に行かせたんだ」
「その当時の記録があるから少し待ってくれ」
 唖然とした大吾に淡々と言って自分の鞄の中からiPadを取り出してその記事を見せる。
 記事の内容は次の通りである。

――政治家の不祥事が相次ぐ中、国民はそれを非難していることは言うまでもない。
 不祥事をおこした国会議員の処罰は甘く、更に国民から怒りを買っていること、口にするのも馬鹿らしいことも。
 そんな国会議員を文字通り痛い目に遭わせてやるだけではなく、これまで自分が得た報酬を返納、議員辞職に追い込んでやるため、またその議員の話の内容次第で抹殺しようとテロをくわだてた。
 そのテロに参加した人数は40~50名前後と腕が立つ武闘派でどの距離においても立ち回って戦える精鋭を揃えて国会に乗り込む算段も考えていた。
 計画当日、あらかじめ考えていたやり方で国会に乗り込み実行しようとしていた時だった。
 自分たちの居場所から2~3km圏内に警視庁の捜査員たちが検問している姿があり計画を延長して次の機会にと思っていたが1人の青年が近づいて来る姿があったため、やむを得ず確実に仕留めるため数十人で対峙しようとした。
 だが返り討ちにあってしまっただけではなく確実に自分たちの居場所が知られたと思いその場から散って逃走した。
 数日間、青年は逃げた人物の捕獲をするため捜査したとのこと――

 記事を読み終えた大吾は懐かしむように口にする。
「そういえばこんな事件あったな。でもまさかこの事件に氷山君が関わっていたとは」
「そう、これは間違いなく取り逃したままだったら非常に厄介なことになっていた事件でもあるからな」
 誇らしげにいう鉄茂を見て大吾が溜息を吐いて言う。
「事件が解決したからいいものの一歩間違えば奇襲かけられて命を落としていたかもしれなかったんだぞ。わかっているのか?」
「ああ、それは否定しない。自分でも今思えばギリギリまで氷山君を動かしていたことに反省しているさ。でも彼を信じていた自分は間違いじゃなかったとも思っている」
 自分の言うこと成すことにメリハリをつけて間違っていると思えば潔く謝り、判断すべきところはハッキリとさせ結果に結びつかせるスタンス、これこそが上に立って構える人の理想像だと言える。
「その清々しい言いよう、嫌われないように気を付けるんだぞ」
「わかっている、困ったことがあればまた相談しに来ると思うからその時はよろしくな」
「はいよ、でも頻繁に来られても困るからな」
 大吾はクスッと冗談っぽく言ってみせる。
「ああ最後に、この後予定空いているか?久々に食事でもと思っているんだがどうだ?」
 その誘いに申し訳なさそうに、
「悪いな、これから少し厄介なもののまとめで」
「そうか、あまり無理するなよ。じゃあまたの機会で」
「そうさせてもらう。またな」
 そう言って検事総長室を後にした。
 
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