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第一章 Travel to Whiteford
2話
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試合は結局、三対二で女子が勝利した。その三日後の高校からの帰り道。桐畑は、住宅街の道路の脇をぶらぶらと歩いていた。
すると、ヒュッ、ドン! 何かが視界を縦断し、前髪を掠めて落下した。正確な形はわからなかったが、色は茶に見えた。
まったく間に合っていないにも拘わらず、桐畑は反射的に飛び退った。わずかに遅れて、背中にぞくぞくと冷たいものが走る。
(隕石みたいな凄まじい速度だったな。もう一歩前に出てりゃあ頭にぶつかって、脳震盪でも起こしてたんじゃねえか)
少し前で、バレーボール大の球体が数回バウンドした。素材が硬いのか、落下速度から考えると跳ねは小さかった。
バウンドを終えた球体が、桐畑に転がってくる。訝しく思いながら、桐畑は、ゆっくりした動きで拾い上げた。両手で球体を回し、全体を隈なく調べ始める。
ずっしりとまではいかないが、球体は重みがあった。感触は革のものであり、野球のボールのような縫い目が入っている。そこはかとなく、歴史を感じさせる作りだった。
梅雨時の、湿った風が頬を撫でる。手を止めた桐畑の脳裏には、一つの疑問が浮かび始めていた。
(小学生の時にチームで行った、サッカー・ミュージアムで見た気がすんな。それも、ずっと昔の時代の展示で。俺が手にしてる物はもしかしたら、サッカー・ボールなのか?)
ボールを持ち続ける桐畑は、頭上に視線を移す。
飛行機などの姿はどこにも見られず、鱗雲が広がっている。桐畑の困惑とは裏腹に、空は平和そのものだった。
(ほんと、死ぬかと思ったぜ。訳がわからないけど、まあぶつからなくて良かった。どっから湧いてきたか知らないけど、交番にでも届けるか。こんなもん、持って帰ったってしゃーないしな)
少し落ち着いた桐畑は、顔を前方に戻した。すると、信じられないものが目に飛び込んできた。
百メートルほど前方、住宅に挟まれた一車線の道を、人間の集団が埋め尽くしていた。それも西洋人で、老若男女が皆、映画でしか見た経験のないような昔のヨーロッパ風の出で立ちだった。
ぎょっとして目を見開いた桐畑は、次に、謎の群衆が凄い勢いで近づいてきている事実に気付いた。だんだんと見えてくる人々の目は、正気を疑うほど血走っている。
先頭の若い男性が転んで群衆に呑まれ、並びがやや乱れる。しかしまもなくして、隊列は元の状態に戻った。転倒した男性が気に掛けられる様子はなかった。
群衆の異常な狂気に、桐畑の背筋が寒くなる。鞄も球体もその場に放って、ぐるんと後ろを向いた。転けそうになりながらも、全力で走り始める。
だが、状況は打開できない。後方からも同じような集団が、桐畑を目掛けて走ってきていた。先ほどの群衆に負けず劣らずの狂乱で、鎌のようなものを頭上でぶん回す人の姿も見える。
(いやいや、ちょっと待て。何だよこの状況は。ドッキリ? テロ? クーデター? 陰謀?)
思考が単調になり始める桐畑は、辺りを素早く見回す。だが、何の手も打てない。
とうとう二つの集団は、桐畑から五メートルほどの距離にまでに達した。猛り狂って目を血走らせる群衆の突撃する軍隊のような大音声が、否応無しに耳に飛び込んでくる。空気の温度が、高くなった気さえする。
混乱の極地の桐畑はしゃがみ込み、耳を押さえて目を瞑る。生まれて初めての死の予感に、身体の震えが止められなかった。
群衆の先頭が、桐畑にぶつかった。刹那、桐畑の視界は鮮烈な光に包まれた。
試合は結局、三対二で女子が勝利した。その三日後の高校からの帰り道。桐畑は、住宅街の道路の脇をぶらぶらと歩いていた。
すると、ヒュッ、ドン! 何かが視界を縦断し、前髪を掠めて落下した。正確な形はわからなかったが、色は茶に見えた。
まったく間に合っていないにも拘わらず、桐畑は反射的に飛び退った。わずかに遅れて、背中にぞくぞくと冷たいものが走る。
(隕石みたいな凄まじい速度だったな。もう一歩前に出てりゃあ頭にぶつかって、脳震盪でも起こしてたんじゃねえか)
少し前で、バレーボール大の球体が数回バウンドした。素材が硬いのか、落下速度から考えると跳ねは小さかった。
バウンドを終えた球体が、桐畑に転がってくる。訝しく思いながら、桐畑は、ゆっくりした動きで拾い上げた。両手で球体を回し、全体を隈なく調べ始める。
ずっしりとまではいかないが、球体は重みがあった。感触は革のものであり、野球のボールのような縫い目が入っている。そこはかとなく、歴史を感じさせる作りだった。
梅雨時の、湿った風が頬を撫でる。手を止めた桐畑の脳裏には、一つの疑問が浮かび始めていた。
(小学生の時にチームで行った、サッカー・ミュージアムで見た気がすんな。それも、ずっと昔の時代の展示で。俺が手にしてる物はもしかしたら、サッカー・ボールなのか?)
ボールを持ち続ける桐畑は、頭上に視線を移す。
飛行機などの姿はどこにも見られず、鱗雲が広がっている。桐畑の困惑とは裏腹に、空は平和そのものだった。
(ほんと、死ぬかと思ったぜ。訳がわからないけど、まあぶつからなくて良かった。どっから湧いてきたか知らないけど、交番にでも届けるか。こんなもん、持って帰ったってしゃーないしな)
少し落ち着いた桐畑は、顔を前方に戻した。すると、信じられないものが目に飛び込んできた。
百メートルほど前方、住宅に挟まれた一車線の道を、人間の集団が埋め尽くしていた。それも西洋人で、老若男女が皆、映画でしか見た経験のないような昔のヨーロッパ風の出で立ちだった。
ぎょっとして目を見開いた桐畑は、次に、謎の群衆が凄い勢いで近づいてきている事実に気付いた。だんだんと見えてくる人々の目は、正気を疑うほど血走っている。
先頭の若い男性が転んで群衆に呑まれ、並びがやや乱れる。しかしまもなくして、隊列は元の状態に戻った。転倒した男性が気に掛けられる様子はなかった。
群衆の異常な狂気に、桐畑の背筋が寒くなる。鞄も球体もその場に放って、ぐるんと後ろを向いた。転けそうになりながらも、全力で走り始める。
だが、状況は打開できない。後方からも同じような集団が、桐畑を目掛けて走ってきていた。先ほどの群衆に負けず劣らずの狂乱で、鎌のようなものを頭上でぶん回す人の姿も見える。
(いやいや、ちょっと待て。何だよこの状況は。ドッキリ? テロ? クーデター? 陰謀?)
思考が単調になり始める桐畑は、辺りを素早く見回す。だが、何の手も打てない。
とうとう二つの集団は、桐畑から五メートルほどの距離にまでに達した。猛り狂って目を血走らせる群衆の突撃する軍隊のような大音声が、否応無しに耳に飛び込んでくる。空気の温度が、高くなった気さえする。
混乱の極地の桐畑はしゃがみ込み、耳を押さえて目を瞑る。生まれて初めての死の予感に、身体の震えが止められなかった。
群衆の先頭が、桐畑にぶつかった。刹那、桐畑の視界は鮮烈な光に包まれた。
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