27 / 90
第二章 Kirihata's Growth
10話
しおりを挟む
10
コートを退出した桐畑たちは、控え選手とともにベンチに座るダンの元へと集った。
「同点で折り返したが、皆が感じている通り、相手にペースを掴まれている。このままだと、二失点目も時間の問題だ。さあ、どうする? 私にも案はあるが、まずは君たちで考えろ」
握り拳を膝に置いたダンの声色は、厳格ながらもゆったりしていた。顔付きは柔和で、椅子から離した背はぴしりと伸びている。
「俺がフルバックに回ります。んでもって、2番をマン・マークして潰します」
意を決した桐畑は、ダンに鋭い視線を送りつつ宣言した。
すぐさまエドが、ばっと振り返った。見開いた目からは、驚きが伝わってきた。
「マジかよ。ケント、今までずっーと、前のポジションばっかだったじゃん。ディフェンス、ちゃんとやれんのかよ」
エドの問責するような発言に、「問題ねえよ。やるってったら、俺はやる」と、桐畑は力強く断言した。中学時代の県のトレセンで、ストッパーをした経験があった。
「異論や他の提案がある者はいるか」と、ダンは淡々と尋ねた。しかし、誰も口を開かない。
「わかった。では、ケントを後ろに下げて、フォーメーションを2ー3ー5に変更しよう」
明るさをかすかに滲ませた口調で告げて、ダンはその後も喋り続けた。ミスの叱責は一度もなく、全てが前向きな指示だった。
「では、私からは、以上だ。健闘を祈る」
わずかに口角の上がったダンの励ますような台詞に、「ありがとうございました」と、会員たちは声を揃えてから、その場を離れ始めた。
桐畑が後半のプレーのイメージをしていると、「アルマ」と、沈痛な声が耳に飛び込んできた。
振り向くとすぐ近くで、遥香とブラムが向かい合っていた。
「最後のエドのセンタリングだけど、何であんな無茶をした?」
ブラムは、悲しみと批難の入り混じった表情だった。真顔の遥香は、ブラムの目を凝視したまま微動だにしない。
「そりゃあ、キーパーを潰してのヘディング・シュートは、得点源の一つだよ。だけどな。病み上がりの、それも女の選手がするプレーじゃあないだろ?」
有無を言わせぬ口振りに、顔を歪めた遥香は、「でも」と、小さく声を絞り出した。
だがブラムは、「競り勝てる可能性はほとんどないから、体力の無駄だしな」と、少し冷静さを取り戻した語調で言葉を被せる。
「とにかく、だ。試合に出るのなら、分相応のプレーを心懸けてくれ。頼むよ。俺はアルマが、大事なんだ」
遥香の肩を緩く掴んで、ブラムは意識に刷り込むように明言した。やがて軽く視線を落として、思い出したように歩き去る。
桐畑は、まだ動かない遥香の顔を見詰める。大丈夫かよ、と訊こうか迷うが、難しい面持ちの遥香は泣きそうですらあり、下手に声が掛けられなかった。
コートを退出した桐畑たちは、控え選手とともにベンチに座るダンの元へと集った。
「同点で折り返したが、皆が感じている通り、相手にペースを掴まれている。このままだと、二失点目も時間の問題だ。さあ、どうする? 私にも案はあるが、まずは君たちで考えろ」
握り拳を膝に置いたダンの声色は、厳格ながらもゆったりしていた。顔付きは柔和で、椅子から離した背はぴしりと伸びている。
「俺がフルバックに回ります。んでもって、2番をマン・マークして潰します」
意を決した桐畑は、ダンに鋭い視線を送りつつ宣言した。
すぐさまエドが、ばっと振り返った。見開いた目からは、驚きが伝わってきた。
「マジかよ。ケント、今までずっーと、前のポジションばっかだったじゃん。ディフェンス、ちゃんとやれんのかよ」
エドの問責するような発言に、「問題ねえよ。やるってったら、俺はやる」と、桐畑は力強く断言した。中学時代の県のトレセンで、ストッパーをした経験があった。
「異論や他の提案がある者はいるか」と、ダンは淡々と尋ねた。しかし、誰も口を開かない。
「わかった。では、ケントを後ろに下げて、フォーメーションを2ー3ー5に変更しよう」
明るさをかすかに滲ませた口調で告げて、ダンはその後も喋り続けた。ミスの叱責は一度もなく、全てが前向きな指示だった。
「では、私からは、以上だ。健闘を祈る」
わずかに口角の上がったダンの励ますような台詞に、「ありがとうございました」と、会員たちは声を揃えてから、その場を離れ始めた。
桐畑が後半のプレーのイメージをしていると、「アルマ」と、沈痛な声が耳に飛び込んできた。
振り向くとすぐ近くで、遥香とブラムが向かい合っていた。
「最後のエドのセンタリングだけど、何であんな無茶をした?」
ブラムは、悲しみと批難の入り混じった表情だった。真顔の遥香は、ブラムの目を凝視したまま微動だにしない。
「そりゃあ、キーパーを潰してのヘディング・シュートは、得点源の一つだよ。だけどな。病み上がりの、それも女の選手がするプレーじゃあないだろ?」
有無を言わせぬ口振りに、顔を歪めた遥香は、「でも」と、小さく声を絞り出した。
だがブラムは、「競り勝てる可能性はほとんどないから、体力の無駄だしな」と、少し冷静さを取り戻した語調で言葉を被せる。
「とにかく、だ。試合に出るのなら、分相応のプレーを心懸けてくれ。頼むよ。俺はアルマが、大事なんだ」
遥香の肩を緩く掴んで、ブラムは意識に刷り込むように明言した。やがて軽く視線を落として、思い出したように歩き去る。
桐畑は、まだ動かない遥香の顔を見詰める。大丈夫かよ、と訊こうか迷うが、難しい面持ちの遥香は泣きそうですらあり、下手に声が掛けられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】これはきっと運命の赤い糸
夏目若葉
恋愛
大手商社㈱オッティモで受付の仕事をしている浅木美桜(あさぎ みお)。
医師の三雲や、経産省のエリート官僚である仁科から付き合ってもいないのに何故かプロポーズを受け、引いてしまう。
自社の創立30周年記念パーティーで、同じビルの大企業・㈱志田ケミカルプロダクツの青砥桔平(あおと きっぺい)と出会う。
一目惚れに近い形で、自然と互いに惹かれ合うふたりだったが、川井という探偵から「あの男は辞めておけ」と忠告が入る。
桔平は志田ケミカルの会長の孫で、御曹司だった。
志田ケミカルの会社の内情を調べていた川井から、青砥家のお家事情を聞いてしまう。
会長の娘婿である桔平の父・一馬は、地盤固めのために銀行頭取の娘との見合い話を桔平に勧めているらしいと聞いて、美桜はショックを受ける。
その上、自分の母が青砥家と因縁があると知り……
━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
大手商社・㈱オッティモの受付で働く
浅木 美桜(あさぎ みお) 24歳
×
大手化粧品メーカー・㈱志田ケミカルプロダクツの若き常務
青砥 桔平(あおと きっぺい) 30歳
×
オフィスビル内を探っている探偵
川井 智親(かわい ともちか) 32歳
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる