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終章
6話
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「相当厳しい試合だよね。さすがは将来の日本の至宝。凡人の延長の慶太と由衣香じゃ、正直言ってモノが違う。さあてこっからだよね。根性の見せ所は」
隣に立つ妻、遥香は、不敵で不穏な口ぶりだった。
(ああ、試合の前とか、よくこんな感じで喋ってたな。いやぁ、月日は流れたもんだ)
遥香のなでしこ現役時代を懐かしみながら、俺は、ベンチにいる慶太と由衣香に目を遣った。
二人とも深刻そうな表情だけど、目はまだ死んではいなかった。監督の話を、小さく頷きながら必死で聞いている。
ミーティングが終わり、集合が解かれた。突っ立ったままの慶太と由衣香に、俺は大股で近づいた。
「ようようお前ら。だいぶ苦戦してんじゃねえか。どうだ? 遊馬が怪物にでも見えてきたか?」
緊張をほぐすべく、俺は冗談っぽく声を掛けた。
「聞いてお父さん。遊馬あいつ、磁石かなんか使ってんのかってぐらいボールが足にへばりついてんの」
言い聞かせるような調子の慶太の台詞に、「それ!」って感じで慶太を指差した由衣香が続く。
「慶くんうまいこと言った。絶対あいつ、メッシの生まれ変わりだって」
「おいおい由衣香。メッシを勝手に殺しちゃあだめだぞ。でも、言いたいことはよーくわかるよな」
前掛かりな由衣香の断言に、俺は的確に突っ込みを入れた。
「遊馬は本当に優秀な選手だ。一筋縄じゃあ攻略できないよな。でもな、諦める必要はどこにもねえし、諦めてる場合でもねえんだわ」
俺が本気の力説をすると、慶太と由衣香の顔付きに決意の色が生まれ始めた。
「俺と母さんも、何回も超難敵とバトってきたんだ。母さんなんか、同い年の男子、それも怪我するようなラフ・プレーもお構いなしな奴と、対等に渡り合ったんだよ」
言葉を切ると、慶太たちは不思議そうな面持ちになった。当然だ。タイム・スリップについては、一度だって話しちゃあいないからな。
「現時点の能力じゃあ、お前たちは二人とも遊馬に敵わない。だから今回は、二人で協力して遊馬に一杯食わせてやれ。そんでもってこれから死ぬ気で練習して、遊馬に追いつけ引っこ抜け、だ。わかったら返事!」
俺が全力の笑顔とともに嘯くと、「「はい!」」と、慶太と由衣香からぴりっとした返事が来た。二人とも、迷いの消えた良い顔になっている。
「お父さんの言う通り。大丈夫だよ。頭を冷やして声を出して、いつも通りにやればばっちり対処できる。自分を信じて、ね」
冷静ながらも愛の籠もった調子で遥香も続く。俺は何度、遥香のこういう言葉に救われてきたことか。
「よしっ! お父さんたちからのパワー充電も終わったことだし、後半はさくっと反撃しちゃいますかぁ」
「うん、了解! 由衣香はもうちょい、ディフンスは離れてやったほうがいいよ。あいつじみーにスピードもあるからさ」
慶太と由衣香は、身振り手振りを交えて後半のプレーについて話し始めた。
二人とも目には希望と意欲を湛えており、俺は遥香と柔らかな視線を交わした。
「相当厳しい試合だよね。さすがは将来の日本の至宝。凡人の延長の慶太と由衣香じゃ、正直言ってモノが違う。さあてこっからだよね。根性の見せ所は」
隣に立つ妻、遥香は、不敵で不穏な口ぶりだった。
(ああ、試合の前とか、よくこんな感じで喋ってたな。いやぁ、月日は流れたもんだ)
遥香のなでしこ現役時代を懐かしみながら、俺は、ベンチにいる慶太と由衣香に目を遣った。
二人とも深刻そうな表情だけど、目はまだ死んではいなかった。監督の話を、小さく頷きながら必死で聞いている。
ミーティングが終わり、集合が解かれた。突っ立ったままの慶太と由衣香に、俺は大股で近づいた。
「ようようお前ら。だいぶ苦戦してんじゃねえか。どうだ? 遊馬が怪物にでも見えてきたか?」
緊張をほぐすべく、俺は冗談っぽく声を掛けた。
「聞いてお父さん。遊馬あいつ、磁石かなんか使ってんのかってぐらいボールが足にへばりついてんの」
言い聞かせるような調子の慶太の台詞に、「それ!」って感じで慶太を指差した由衣香が続く。
「慶くんうまいこと言った。絶対あいつ、メッシの生まれ変わりだって」
「おいおい由衣香。メッシを勝手に殺しちゃあだめだぞ。でも、言いたいことはよーくわかるよな」
前掛かりな由衣香の断言に、俺は的確に突っ込みを入れた。
「遊馬は本当に優秀な選手だ。一筋縄じゃあ攻略できないよな。でもな、諦める必要はどこにもねえし、諦めてる場合でもねえんだわ」
俺が本気の力説をすると、慶太と由衣香の顔付きに決意の色が生まれ始めた。
「俺と母さんも、何回も超難敵とバトってきたんだ。母さんなんか、同い年の男子、それも怪我するようなラフ・プレーもお構いなしな奴と、対等に渡り合ったんだよ」
言葉を切ると、慶太たちは不思議そうな面持ちになった。当然だ。タイム・スリップについては、一度だって話しちゃあいないからな。
「現時点の能力じゃあ、お前たちは二人とも遊馬に敵わない。だから今回は、二人で協力して遊馬に一杯食わせてやれ。そんでもってこれから死ぬ気で練習して、遊馬に追いつけ引っこ抜け、だ。わかったら返事!」
俺が全力の笑顔とともに嘯くと、「「はい!」」と、慶太と由衣香からぴりっとした返事が来た。二人とも、迷いの消えた良い顔になっている。
「お父さんの言う通り。大丈夫だよ。頭を冷やして声を出して、いつも通りにやればばっちり対処できる。自分を信じて、ね」
冷静ながらも愛の籠もった調子で遥香も続く。俺は何度、遥香のこういう言葉に救われてきたことか。
「よしっ! お父さんたちからのパワー充電も終わったことだし、後半はさくっと反撃しちゃいますかぁ」
「うん、了解! 由衣香はもうちょい、ディフンスは離れてやったほうがいいよ。あいつじみーにスピードもあるからさ」
慶太と由衣香は、身振り手振りを交えて後半のプレーについて話し始めた。
二人とも目には希望と意欲を湛えており、俺は遥香と柔らかな視線を交わした。
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