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第一章 予定外の共闘@チーム振り分け試験
5話
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一試合目も終了が近づいた。スコアは、〇対〇。
未奈ちゃんはずっと、諏訪と互角にやりあっていた。時には審判の死角でユニフォームを引っ張ったりして、諏訪を苛立たせたりもしていた。
正直、総合能力じゃあ諏訪が上だろう。けど未奈ちゃんは、初めの対決で股抜きという屈辱を浴びせて、きっちりばっちり諏訪に自分への苦手意識を持たせたわけだ。つくづく試合巧者である。
未奈ちゃんが相手ゴールから少し遠くでドリブルをする。並走する諏訪は、猛然と肩でぶつかった。当たり前だけど、女子相手でも容赦はない。
軽く飛ばされる未奈ちゃんだったが、事前にボールを同方向に持ち出していて、ドリブルを継続。小柄な自分の身体の使い方をよーく理解している。
縦に行くと見せかけて、踵で左の8番に落とす。8番は中にボールを出した。
羽村はぴたりと足元に止めて、すぐさまボールを浮かせた。ディフェンスを突破してシュートを放った。
ゴール右隅に突き刺さり、一対〇。俺たちの先制点だ。
羽村が片手を上げて、ゆっくりと自陣へ引いていく。テクニックは相当なもんだけど、ちょっとナルシストっぽいっちゃあぽいね。
諏訪がダッシュでボールを取りに行き、センター目掛けて蹴り出した。怒りの形相からは、未奈ちゃんに勝ち切れない焦りが見て取れる。おそらく、女子にやられることへの苛立ちが大きいだろうけど。
相手ボールで試合が再開するが、少ししたところでタイム・アップの笛が鳴った。両チームのメンバーは走ってコート外へ向かう。
「よし、集合。ミーティングをやるわよ」
コートを出たところで、未奈ちゃんのさばさばした声が聞こえた。素早く集まった俺たちは、未奈ちゃんを交えた円を作る。
「うん、私の御蔭でなんとか勝てたわね。諏訪にも大した仕事はさせなかった。私の御蔭で」
未奈ちゃんは、怒っているような面持ちで繰り返した。誰も口を挟めず、辺りに静寂が訪れる。
「一言で纏めるとあんたたち私に頼り過ぎ。幼稚園児じゃないんだから、自立しなさい。はい、以上」
すぱっと言葉を切った未奈ちゃんは振り返り、歩き去ろうとした。
爆発寸前といった顔付きの羽村が、未奈ちゃんに駆け寄った。勢いそのままに、華奢ながら完璧なラインを描く未奈ちゃんの肩を掴む。
って、何を調子に乗ってるんだ、お前。羨ましすぎるわ。
「ちょっと待てっての。点を取ったのは俺だろが。何、全部、自分の手柄みたいに語っちゃってんだよ!」
羽村に向き直った未奈ちゃんは「はぁ?」とでも口にしそうな、とことん不機嫌な顔付きだ。
「そっちこそ何を語ってんだって話よ。あんたがまともに仕事した場面、あの一点だけでしょ。チェイシングも全然しない球離れ最悪だしさ。うちのチームのガンよ、あんたは。それもド末期の」
「いや、俺は点取り屋で──」
「その程度の腕でインザーギでも気取ってんの? 弁えなさいよ。一人で試合を決められるスーパースターでない限り、前線での守備はフォワードの必須事項でしょ。メッシ、クリロナみたいな特別待遇は、あんたじゃ一万年早い」
未奈ちゃんは淡々と所感を口にした。
正論だ。世界最強チームの一つ、リヴァプールの3トップすら、敵のディフェンスやキーパーにボールがある時には追い回す。
奪取できれば大チャンスだし、できなくてもプレッシャーを掛けられるからミス・キックの確率も上がる。羽村程度では、守備の役割を免除されるに値しない。
羽村は返す言葉もない。すると未奈ちゃんは、俺たちに背を向けて歩き始めた。
だが数歩進んだところで、思い出したかのように振り返った。
「そうだ、ワラジモン。初めのコーナー・キックで、スッポンがどうとか叫んでたけど、あれは何?」
未奈ちゃんは、訝しげな顔で俺をじっと見つめている。
俺は自信を籠めた眼差しで、未奈ちゃんを見返した。
「おう、よくぞ聞いてくれたね。あれにはだな。天下に名高い武田信玄と、雷が鳴っても噛みつきを離さないってたとえがあるスッポンの力を借りて、コーナー・キックでの失点を未然に防ごうという、崇高な意図があってだな……」
重厚感たっぷりに説明していると、未奈ちゃんは、呆れているような喜んでいるような複雑な笑みを浮かべた。
「アホねー。まあ、勝手にすれば? ただ私、そういうど根性みたいなスタンス、結構好きよ」
低い声で告げた未奈ちゃんは、今度こそ歩き去っていった。
一試合目も終了が近づいた。スコアは、〇対〇。
未奈ちゃんはずっと、諏訪と互角にやりあっていた。時には審判の死角でユニフォームを引っ張ったりして、諏訪を苛立たせたりもしていた。
正直、総合能力じゃあ諏訪が上だろう。けど未奈ちゃんは、初めの対決で股抜きという屈辱を浴びせて、きっちりばっちり諏訪に自分への苦手意識を持たせたわけだ。つくづく試合巧者である。
未奈ちゃんが相手ゴールから少し遠くでドリブルをする。並走する諏訪は、猛然と肩でぶつかった。当たり前だけど、女子相手でも容赦はない。
軽く飛ばされる未奈ちゃんだったが、事前にボールを同方向に持ち出していて、ドリブルを継続。小柄な自分の身体の使い方をよーく理解している。
縦に行くと見せかけて、踵で左の8番に落とす。8番は中にボールを出した。
羽村はぴたりと足元に止めて、すぐさまボールを浮かせた。ディフェンスを突破してシュートを放った。
ゴール右隅に突き刺さり、一対〇。俺たちの先制点だ。
羽村が片手を上げて、ゆっくりと自陣へ引いていく。テクニックは相当なもんだけど、ちょっとナルシストっぽいっちゃあぽいね。
諏訪がダッシュでボールを取りに行き、センター目掛けて蹴り出した。怒りの形相からは、未奈ちゃんに勝ち切れない焦りが見て取れる。おそらく、女子にやられることへの苛立ちが大きいだろうけど。
相手ボールで試合が再開するが、少ししたところでタイム・アップの笛が鳴った。両チームのメンバーは走ってコート外へ向かう。
「よし、集合。ミーティングをやるわよ」
コートを出たところで、未奈ちゃんのさばさばした声が聞こえた。素早く集まった俺たちは、未奈ちゃんを交えた円を作る。
「うん、私の御蔭でなんとか勝てたわね。諏訪にも大した仕事はさせなかった。私の御蔭で」
未奈ちゃんは、怒っているような面持ちで繰り返した。誰も口を挟めず、辺りに静寂が訪れる。
「一言で纏めるとあんたたち私に頼り過ぎ。幼稚園児じゃないんだから、自立しなさい。はい、以上」
すぱっと言葉を切った未奈ちゃんは振り返り、歩き去ろうとした。
爆発寸前といった顔付きの羽村が、未奈ちゃんに駆け寄った。勢いそのままに、華奢ながら完璧なラインを描く未奈ちゃんの肩を掴む。
って、何を調子に乗ってるんだ、お前。羨ましすぎるわ。
「ちょっと待てっての。点を取ったのは俺だろが。何、全部、自分の手柄みたいに語っちゃってんだよ!」
羽村に向き直った未奈ちゃんは「はぁ?」とでも口にしそうな、とことん不機嫌な顔付きだ。
「そっちこそ何を語ってんだって話よ。あんたがまともに仕事した場面、あの一点だけでしょ。チェイシングも全然しない球離れ最悪だしさ。うちのチームのガンよ、あんたは。それもド末期の」
「いや、俺は点取り屋で──」
「その程度の腕でインザーギでも気取ってんの? 弁えなさいよ。一人で試合を決められるスーパースターでない限り、前線での守備はフォワードの必須事項でしょ。メッシ、クリロナみたいな特別待遇は、あんたじゃ一万年早い」
未奈ちゃんは淡々と所感を口にした。
正論だ。世界最強チームの一つ、リヴァプールの3トップすら、敵のディフェンスやキーパーにボールがある時には追い回す。
奪取できれば大チャンスだし、できなくてもプレッシャーを掛けられるからミス・キックの確率も上がる。羽村程度では、守備の役割を免除されるに値しない。
羽村は返す言葉もない。すると未奈ちゃんは、俺たちに背を向けて歩き始めた。
だが数歩進んだところで、思い出したかのように振り返った。
「そうだ、ワラジモン。初めのコーナー・キックで、スッポンがどうとか叫んでたけど、あれは何?」
未奈ちゃんは、訝しげな顔で俺をじっと見つめている。
俺は自信を籠めた眼差しで、未奈ちゃんを見返した。
「おう、よくぞ聞いてくれたね。あれにはだな。天下に名高い武田信玄と、雷が鳴っても噛みつきを離さないってたとえがあるスッポンの力を借りて、コーナー・キックでの失点を未然に防ごうという、崇高な意図があってだな……」
重厚感たっぷりに説明していると、未奈ちゃんは、呆れているような喜んでいるような複雑な笑みを浮かべた。
「アホねー。まあ、勝手にすれば? ただ私、そういうど根性みたいなスタンス、結構好きよ」
低い声で告げた未奈ちゃんは、今度こそ歩き去っていった。
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