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第二章 負けられぬハンデ戦@賭けミニゲーム
13話
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13
翌日、一年生は、六時に部室に集まった。
昨日は雨だったので、ボールの手入れに加えて、部室にあるスポンジでグラウンドの水溜りを処理しなければならなかった。食堂は六時からしか開かないので、みんな、朝食は食べていなかった。
その後のボールの手入れも含めて終わったのは八時過ぎで、練習まで時間があった。しかし、スパルタな練習の直前には、食事を取る気にはなれない。一年生はみんな、朝食は抜きだった。
九時に、コーチから集合の声が掛かり、二人の一年生の退部が淡々と告げられた。しかし、辞めた人の顔が浮かばなかった。
俺たち、一年生は、互いに自己紹介などはしていなかった。辞める人が多いので、名前を覚えても、無意味になりうる。ドライな感じで、俺はちょっと嫌なんだけどね。
昨日とほとんど同じ内容の午前の練習が終わり、一年生が部室に戻ろうとしていると、「一年生、ちょっと集まってくれ」と、五十嵐さんのニュートラルな声が聞こえた。
駆け寄った一年生は、五十嵐さんを含んで円を作った。仏頂面の釜本さんもいた。
「今日のボールは、綺麗でした。よくやってくれた、ありがとう。ただ、部室のボール・バックに入っているメディシン・ボールを磨き忘れてます。やる気は見えるんだけど、うーん。……なんというか、もう少し、機転を利かせられないかな」
言葉が切られ、沈黙が訪れる。今回の五十嵐さんは怒っているわけではないようで、言葉には刺がなく、表情も落ち着いていた。
釜本さんが、五十嵐さんに顔を向けた。細めた目からは不満が感じ取れる。
「五十嵐さん。メディシン・ボールもっすけど、俺に言わせりゃ普通のボールも汚いっすよ。一年、やっぱ、舐めてますって。今日も走らせましょうや」
「ちょっと良いっすかね」
堪り兼ねた俺は、口を挟んだ。
「メディシン・ボールの件は、すみませんでした。二人の指摘の通り、迂闊でした。これからは、忘れずに磨きます」
みんなの視線が集まるが、俺は気にしない。はっきりと、だが反抗的には聞こえないように、五十嵐さんへの主張を続ける。
「ボールの空気入れとグラウンド整備は、必要だと思います。でも俺には、顔が映るまでボールを磨く意味がわからないです。道具は大切にするべきですけど、毎日、一時間以上も取られたくないです。ボールを磨く時間を練習に充てれば、もっと上手くなれますって」
「お前な、生意気過ぎんだよ。集団におけるルールって、意味があるもんばっかじゃないだろうがよ」
釜本さんの凄むような声が聞こえるが、俺は、五十嵐さんから視線を外さない。
「無意味なルールは、なくすべきだと思います。この世の中は、マイナー・チェンジで成り立ってますから」
「調子乗りもその辺にしとけよ。今のうちに、目上の人の命令を聞けるようになっとかねえと、社会に出ても通用……」
「釜本」
五十嵐さんが静かな声で、ヒート・アップする釜本さんを窘めた。
「星芝の主張ももっともだな。それと俺らは、ちゃんとしたボールの手入れの方法も、わかってなかったよな。星芝、手間を掛けて悪いけど、調べておいてくれるか。ボールの手入れをどうするかは、星芝の調査結果を見てから考えよう」
「了解っす」と俺は、静かに依頼を引き受けた。
昼食後、俺は学校のPCルームに行き、インター・ネットでボールの手入れについて調べて、纏めた情報を印刷した。
部室に戻って五十嵐さんに渡すと、五十嵐さんは「おう、ありがとな」と、柔らかいお礼の後に熱心に読み始めた。
柔軟な考えを持った、理想的な先輩である。俺も来年以降、かくありたいもんだわ。
午後練の終了後、柳沼コーチの話を聴き終わったCチームの面々は、再び円になった。
「ボールの手入れだけど、週一で行う決まりにします。星芝が調べてくれた手入れ方法の載った紙を、部室に貼っておくので、見ておいてください。それと星芝と釜本、ちょっと出てきてくれ」
平静な口調の五十嵐さんの指示を受けて、円から抜けた俺と釜本さんは、五十嵐さんの前に出た。
「お前ら、ちょっと険悪な感じだから、仲直りしとけ。ほら、握手」
五十嵐さんはにこりと温和に微笑むと、俺たち二人を順に見回した。
俺は、釜本さんと向かい合った。俺を見下ろす釜本さんは、いつもと同じ怖い目をしている。
俺は、釜本さんの目をまっすぐに見ながら手を差し出した。釜本さんもわずかに遅れて手を出し、俺たちは握手をした。
俺への怒りゆえかはわからないが、釜本さんの握る力はとても強く、手が痛かった。
翌日、一年生は、六時に部室に集まった。
昨日は雨だったので、ボールの手入れに加えて、部室にあるスポンジでグラウンドの水溜りを処理しなければならなかった。食堂は六時からしか開かないので、みんな、朝食は食べていなかった。
その後のボールの手入れも含めて終わったのは八時過ぎで、練習まで時間があった。しかし、スパルタな練習の直前には、食事を取る気にはなれない。一年生はみんな、朝食は抜きだった。
九時に、コーチから集合の声が掛かり、二人の一年生の退部が淡々と告げられた。しかし、辞めた人の顔が浮かばなかった。
俺たち、一年生は、互いに自己紹介などはしていなかった。辞める人が多いので、名前を覚えても、無意味になりうる。ドライな感じで、俺はちょっと嫌なんだけどね。
昨日とほとんど同じ内容の午前の練習が終わり、一年生が部室に戻ろうとしていると、「一年生、ちょっと集まってくれ」と、五十嵐さんのニュートラルな声が聞こえた。
駆け寄った一年生は、五十嵐さんを含んで円を作った。仏頂面の釜本さんもいた。
「今日のボールは、綺麗でした。よくやってくれた、ありがとう。ただ、部室のボール・バックに入っているメディシン・ボールを磨き忘れてます。やる気は見えるんだけど、うーん。……なんというか、もう少し、機転を利かせられないかな」
言葉が切られ、沈黙が訪れる。今回の五十嵐さんは怒っているわけではないようで、言葉には刺がなく、表情も落ち着いていた。
釜本さんが、五十嵐さんに顔を向けた。細めた目からは不満が感じ取れる。
「五十嵐さん。メディシン・ボールもっすけど、俺に言わせりゃ普通のボールも汚いっすよ。一年、やっぱ、舐めてますって。今日も走らせましょうや」
「ちょっと良いっすかね」
堪り兼ねた俺は、口を挟んだ。
「メディシン・ボールの件は、すみませんでした。二人の指摘の通り、迂闊でした。これからは、忘れずに磨きます」
みんなの視線が集まるが、俺は気にしない。はっきりと、だが反抗的には聞こえないように、五十嵐さんへの主張を続ける。
「ボールの空気入れとグラウンド整備は、必要だと思います。でも俺には、顔が映るまでボールを磨く意味がわからないです。道具は大切にするべきですけど、毎日、一時間以上も取られたくないです。ボールを磨く時間を練習に充てれば、もっと上手くなれますって」
「お前な、生意気過ぎんだよ。集団におけるルールって、意味があるもんばっかじゃないだろうがよ」
釜本さんの凄むような声が聞こえるが、俺は、五十嵐さんから視線を外さない。
「無意味なルールは、なくすべきだと思います。この世の中は、マイナー・チェンジで成り立ってますから」
「調子乗りもその辺にしとけよ。今のうちに、目上の人の命令を聞けるようになっとかねえと、社会に出ても通用……」
「釜本」
五十嵐さんが静かな声で、ヒート・アップする釜本さんを窘めた。
「星芝の主張ももっともだな。それと俺らは、ちゃんとしたボールの手入れの方法も、わかってなかったよな。星芝、手間を掛けて悪いけど、調べておいてくれるか。ボールの手入れをどうするかは、星芝の調査結果を見てから考えよう」
「了解っす」と俺は、静かに依頼を引き受けた。
昼食後、俺は学校のPCルームに行き、インター・ネットでボールの手入れについて調べて、纏めた情報を印刷した。
部室に戻って五十嵐さんに渡すと、五十嵐さんは「おう、ありがとな」と、柔らかいお礼の後に熱心に読み始めた。
柔軟な考えを持った、理想的な先輩である。俺も来年以降、かくありたいもんだわ。
午後練の終了後、柳沼コーチの話を聴き終わったCチームの面々は、再び円になった。
「ボールの手入れだけど、週一で行う決まりにします。星芝が調べてくれた手入れ方法の載った紙を、部室に貼っておくので、見ておいてください。それと星芝と釜本、ちょっと出てきてくれ」
平静な口調の五十嵐さんの指示を受けて、円から抜けた俺と釜本さんは、五十嵐さんの前に出た。
「お前ら、ちょっと険悪な感じだから、仲直りしとけ。ほら、握手」
五十嵐さんはにこりと温和に微笑むと、俺たち二人を順に見回した。
俺は、釜本さんと向かい合った。俺を見下ろす釜本さんは、いつもと同じ怖い目をしている。
俺は、釜本さんの目をまっすぐに見ながら手を差し出した。釜本さんもわずかに遅れて手を出し、俺たちは握手をした。
俺への怒りゆえかはわからないが、釜本さんの握る力はとても強く、手が痛かった。
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