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第二章 負けられぬハンデ戦@賭けミニゲーム
15話
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15
式は九時からで、会場は飛翔館という名前の、体育館と講堂を兼ねた建物だった。
普通の高校の体育館の二倍以上の面積がありそうな館内では、七百人ほどの新入生と父兄たちが、厳粛な空気の中で席に着いている。ステージ上部の幅広の窓からは、清らかな朝の光が入ってきていた。
式は滞りなく進み、お祝いの言葉を終えた校長が壇を降りた。しばらくして、「新入生代表、挨拶」と、厳かな声が響き渡る。
すると、新入生が座る椅子の最前列で、長身の女子生徒が立ち上がり歩き始めた。背筋はぴっと伸びており、まさに威風堂々って感じだ。
女子生徒の目は丸くて大きく、太ってはいないけど、頬は少しふっくらとしていた。黒い髪は、首に辛うじて付くぐらいの長さである。やや眉は濃く、全体的に優しげな印象だ。
「美人」よりは、「別嬪」って言葉がぴたっと来るかな。辞書を引いたわけじゃないから適当だけどね。
女子生徒の名は、川崎あおい。竜神中学上がりのサッカー部員で、ポジションはセンター・バックだ。その一つ前、中盤の底での起用も多い。中学時代には、ナショナル・トレセンU14にも選ばれた経験もある、かなりのエリート選手である。
「陽春の光り輝く、今日の良き日、私たち、竜神高校四十四期生は……」
あおいちゃんは、一節一節を区切ってゆっくりと挨拶をし続ける。声は明朗で、とても聞き取りやすかった。
入学式が終わって保護者が退席し、新入生は、三クラス毎に飛翔館から出て行った。
俺たちのクラスの退場の番になり、三クラス分の新入生がぞろぞろと入口を目指し始めた。立ち上がった俺は、無人のパイプ椅子の間を隣り合って歩く、二人の女子の少し後ろに従く。
「あおい、良い挨拶だったじゃん。全然、上がってる感じじゃなかったしさ。私あんま経験ないんだけどああいう時って、どんなことを考えながら話してるの?」
「うふふ、ありがとう未奈ちゃん。うーん、そうね。こういう式って、いっぱい人が来てるでしょ? その全員がわたしに期待してくれてるって考えると、『よし、頑張ろう』って気になってね。緊張は、あんまりしないのよね」
「ふーん。やっぱりあんたって、良い方向にずれてるわよね。サッカーにも生かしなさいよ、そのポジティブ精神」
「うんありがとう。頑張るわ。なんてったってわたしは、未来の竜神の守護神だもんね」
「やる気満々なのは良いけどさ、守護神って普通はキーパーに使うでしょ?」
「あ、それもそうね。まあ私ったらそそっかしい。全然気づかなかったなぁ」
気易いお喋りを続ける二人に、俺は一気に接近する。あおいちゃんが親しみの籠もった視線を遣る人物に、「やっ、未奈ちゃん!」。軽快さを意識して話し掛けた。
向き直ったあおいちゃんにわずかに遅れて、未奈ちゃんが振り向いた。「んっ?」って感じのやや不思議げな表情である。
そう、俺のクラス、一年十二組には未奈ちゃんがいる。未奈ちゃんがいるのだ。大事なことだから、二回、言ったよ。
十日前俺は、寮の掲示板のクラス発表を、皇樹と一緒に見に行った。
十二組の欄には、俺に加えて、沖原、佐々、皇樹、あおいちゃん、未奈ちゃんの名前があった。振り分け試験のチーム分けは学校のクラスがベースって森先生の言は、本当だったわけだ。
部屋への帰り道、俺は、隣を歩く皇樹に全身全霊で喜びを表した。狂喜乱舞って語は、あの時の俺のためにあるよね。皇樹は心ここにあらずって感じで、反応が妙に淡泊だったけどさ。
「……どこのどいつかと思ったら、二束の草鞋の色呆け半端もん、か。あんだけ見事に玉砕しといて、よく私に話し掛けてくるわねー。スッポンの如しとかほざいてたけど、むしろあんた、スッポンそのものよねー。しつこいったらありゃしない」
腕組みをする未奈ちゃんは、細ーい目で俺を見上げ、低ーい声で詰るように語る。だけど、この程度で音を上げてたら、みんなが笑顔のハッピー・エンドは望めない。
完全に開き直った俺は、キリっとした顔を作って、未奈ちゃんをまっすぐに見返す。
「ああ、しつこいよ。だって俺、未奈ちゃんが大っ好きだもん。遠慮なんて、ぜっったいにしねーから」
「だ、だからあんたさ。告白が軽いのよ。照れるから辞めなさいっての」と、うっ、て表情の未奈ちゃんから小声の返事が来た。
俺が未奈ちゃんを見詰め続けていると、「もうやってらんない。日が暮れちゃうわ。あおいー。色呆け男は放っといて、教室に行こー」
呆れた口振りで告げて、あおいちゃんを待たずに歩き去っていく。
置いていかれたあおいちゃんは、心配そうな面持ちで、きょろきょろと俺と未奈ちゃんに交互に見た。だが、しばらくして、未奈ちゃんの元へ小走りで近づいていった。
式は九時からで、会場は飛翔館という名前の、体育館と講堂を兼ねた建物だった。
普通の高校の体育館の二倍以上の面積がありそうな館内では、七百人ほどの新入生と父兄たちが、厳粛な空気の中で席に着いている。ステージ上部の幅広の窓からは、清らかな朝の光が入ってきていた。
式は滞りなく進み、お祝いの言葉を終えた校長が壇を降りた。しばらくして、「新入生代表、挨拶」と、厳かな声が響き渡る。
すると、新入生が座る椅子の最前列で、長身の女子生徒が立ち上がり歩き始めた。背筋はぴっと伸びており、まさに威風堂々って感じだ。
女子生徒の目は丸くて大きく、太ってはいないけど、頬は少しふっくらとしていた。黒い髪は、首に辛うじて付くぐらいの長さである。やや眉は濃く、全体的に優しげな印象だ。
「美人」よりは、「別嬪」って言葉がぴたっと来るかな。辞書を引いたわけじゃないから適当だけどね。
女子生徒の名は、川崎あおい。竜神中学上がりのサッカー部員で、ポジションはセンター・バックだ。その一つ前、中盤の底での起用も多い。中学時代には、ナショナル・トレセンU14にも選ばれた経験もある、かなりのエリート選手である。
「陽春の光り輝く、今日の良き日、私たち、竜神高校四十四期生は……」
あおいちゃんは、一節一節を区切ってゆっくりと挨拶をし続ける。声は明朗で、とても聞き取りやすかった。
入学式が終わって保護者が退席し、新入生は、三クラス毎に飛翔館から出て行った。
俺たちのクラスの退場の番になり、三クラス分の新入生がぞろぞろと入口を目指し始めた。立ち上がった俺は、無人のパイプ椅子の間を隣り合って歩く、二人の女子の少し後ろに従く。
「あおい、良い挨拶だったじゃん。全然、上がってる感じじゃなかったしさ。私あんま経験ないんだけどああいう時って、どんなことを考えながら話してるの?」
「うふふ、ありがとう未奈ちゃん。うーん、そうね。こういう式って、いっぱい人が来てるでしょ? その全員がわたしに期待してくれてるって考えると、『よし、頑張ろう』って気になってね。緊張は、あんまりしないのよね」
「ふーん。やっぱりあんたって、良い方向にずれてるわよね。サッカーにも生かしなさいよ、そのポジティブ精神」
「うんありがとう。頑張るわ。なんてったってわたしは、未来の竜神の守護神だもんね」
「やる気満々なのは良いけどさ、守護神って普通はキーパーに使うでしょ?」
「あ、それもそうね。まあ私ったらそそっかしい。全然気づかなかったなぁ」
気易いお喋りを続ける二人に、俺は一気に接近する。あおいちゃんが親しみの籠もった視線を遣る人物に、「やっ、未奈ちゃん!」。軽快さを意識して話し掛けた。
向き直ったあおいちゃんにわずかに遅れて、未奈ちゃんが振り向いた。「んっ?」って感じのやや不思議げな表情である。
そう、俺のクラス、一年十二組には未奈ちゃんがいる。未奈ちゃんがいるのだ。大事なことだから、二回、言ったよ。
十日前俺は、寮の掲示板のクラス発表を、皇樹と一緒に見に行った。
十二組の欄には、俺に加えて、沖原、佐々、皇樹、あおいちゃん、未奈ちゃんの名前があった。振り分け試験のチーム分けは学校のクラスがベースって森先生の言は、本当だったわけだ。
部屋への帰り道、俺は、隣を歩く皇樹に全身全霊で喜びを表した。狂喜乱舞って語は、あの時の俺のためにあるよね。皇樹は心ここにあらずって感じで、反応が妙に淡泊だったけどさ。
「……どこのどいつかと思ったら、二束の草鞋の色呆け半端もん、か。あんだけ見事に玉砕しといて、よく私に話し掛けてくるわねー。スッポンの如しとかほざいてたけど、むしろあんた、スッポンそのものよねー。しつこいったらありゃしない」
腕組みをする未奈ちゃんは、細ーい目で俺を見上げ、低ーい声で詰るように語る。だけど、この程度で音を上げてたら、みんなが笑顔のハッピー・エンドは望めない。
完全に開き直った俺は、キリっとした顔を作って、未奈ちゃんをまっすぐに見返す。
「ああ、しつこいよ。だって俺、未奈ちゃんが大っ好きだもん。遠慮なんて、ぜっったいにしねーから」
「だ、だからあんたさ。告白が軽いのよ。照れるから辞めなさいっての」と、うっ、て表情の未奈ちゃんから小声の返事が来た。
俺が未奈ちゃんを見詰め続けていると、「もうやってらんない。日が暮れちゃうわ。あおいー。色呆け男は放っといて、教室に行こー」
呆れた口振りで告げて、あおいちゃんを待たずに歩き去っていく。
置いていかれたあおいちゃんは、心配そうな面持ちで、きょろきょろと俺と未奈ちゃんに交互に見た。だが、しばらくして、未奈ちゃんの元へ小走りで近づいていった。
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