神神鳥蝶悪竜神滅

雪銀かいと@コミックシーモア連載中

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第四章 赦しと覚醒《めざめ》

16話

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       16

「刀に雷? カノン。あなたそれはどういう……」フィアナが不思議そうな面持ちで問うた。
「そっか、フィアナさんは知らないんですよね。わたしの黒黄刀は、雷を吸収させて強化できる特性があるんです。いわゆる特別製ってやつです」
 小さな両手を腰に当て、カノンは自慢げに説明した。顔はさながら、おすましする童女のそれである。
「あいつに効くとしたら雷系の技だけ。つまり突破口を切り開けるのは、ユウリ君の雷槌とわたしの黒黄刀だけ! まことにまことに申し訳ないですが、フィアナさんには今回は援護役をお願いしたいです。お怪我のこともありますし」
 すらすらとカノンは力説した。「わかったわ」とフィアナは力強く応じる。
 ざわり。不気味な音がして、極小悪竜ヴァルゴンが動き始めた。
 ユウリは力強く雷槌を突き上げた。瞬時に稲妻が昇天していき、折り返してきた。
 カノンは黒黄刀を持ち上げた。雷が先端に命中し、バヂヂッ! 激しい音がして、黒黄刀が稲光を纏い始めた。
「準備万端! 気力充実! あとはあいつを倒すだけ、です!」
 やる気満々のカノンが無邪気に叫んだ。
 極小悪竜ヴァルゴンの大群が押し寄せてきた。「雷晶壁ディアクラスタ!」ユウリは再び雷壁を展開。無数の敵を間断なく打ち落としていく。
「カノン!」フィアナは言い放つと、左手をすっと前に出した。すると蝶翼の一部が分離。二十個近くの球体となり、カノンの廻りを漂い始めた。
「私の力の根幹である、子ユリシスの塊よ。あなたの動きに追随するようにしたから。ちょっとでも役に立てば良いんだけど。こんな手助けしかできなくて、何だか私、情けないな」
 フィアナは寂しげに呟いた。するとカノンはにこりと微笑を浮かべる。
「何を仰いますやら、フィアナさん! とてもとってもありがたいサポートです! ではではとくとご覧あれ! わたしとユウリ君の怒濤の連撃で、見事勝利を勝ち取って見せますゆえ」
 熱弁を振るい、カノンはキビタキ化した。ふわりと舞い上がり、雷壁の上を通過してリグラムへと接近していく。
「カノンは相変わらずわけがわからないけど、あの元気さは見習わないとな。さあて、俺たちも進むか。カノン一人に、命運を託すわけには行かないしな」
 ユウリが覚悟を口にすると、フィアナは真剣な顔で小さく頷いた。
 前に視線を戻し、ユウリは雷壁を出したまま前進を始めた。
 突如、ユウリたちへの極小悪竜ヴァルゴンの飛来が止んだ。一番の脅威と感じたのか、キビタキ・カノンのほうに全個体が向かったためだった。
 フィアナが差し向けた子ユリシスの塊が、何体もの敵を打ち落とした。しかしあまりにも数が多すぎて、アゲハ・カノンの被弾は時間の問題だった。
 ふわりとフィアナが雷壁の範囲外に出た。引いた右手にトライデントを生み出し、ぶん投げる。
 勢いよく飛んだトライデントは、キビタキ・カノン間近の極小悪竜ヴァルゴンを次々と貫いていった。そのままリグラムに命中するが、やはり金属皮膚に防がれる。
「サンキューです!」澄んだ声で礼を言い、カノンは突き進んでいく。わずかに残る極小悪竜ヴァルゴンも、ひらりひらりと器用に避けていた。
 頭の真上に到達した。カノンは人型に戻った。雷を帯びる黒黄刀を振り上げ、リグラムの頭頂部を突き刺さんとする。
 刹那、リグラムの首の付け根に「口」が出現。中から極小悪竜ヴァルゴンが飛び出してくる。
「カノン! 受け取れ!」叫んだユウリは雷槌を横手投げした。雷壁を纏った雷槌は横回転しながら飛び、カノンは左手で見事にキャッチ。「口」の前にかざして極小悪竜ヴァルゴンを撃滅し、右手の黒黄刀をリグラムの頭目がけて突き入れた。
 黒黄刀が脳天に刺さった。ズバチチッ! 雷鳴が鳴り響き、リグラムの体内に雷電が侵入する。
「ぐおおおおおお! おのれ、羽虫どもが!」
 苛立たしげなリグラムの怒声が轟く。リグラムは苦しげに身体をよじった。無防備だったカノンは長大な尾に打たれる。
「あぐっ!」悲鳴のような声を出し、カノンは吹き飛ばされていった。剣術こそ天才的だが、カノンの打たれ強さは普通の少女とそう変わらない。
「カノン!」落ちていくカノンにユウリが絶叫する。
「問題ないわ、ユウリ! こういう時のための子ユリシスの防護だもの!」
 決然とフィアナが応じた。カノンは地面に激突するかに見えたが、子ユリシスの塊が滑空。カノンと地面の間に入り、衝撃を和らげた。
 わずかな着地音とともに、カノンは地に倒れた。
「悪あがきみたいな一撃を食らっただけだ。カノンはおそらく心配ない。というか、心配している暇はない」
 ユウリは静かに告げて、風扇でリグラムを示した。ふうふうと荒い息をしつつ、ユウリたちに凶悪な視線を向けてきている。カノンの突き刺した箇所からは、血だろうか、黒い液体がどくどくと流れでている。やはり電気が弱点なようだった。
「ケイジ先生にルカ! あいつは俺たちの大切な人を死に追いやった! 絶対に、絶対に赦せなんかしない! ここで討つ! 行くぞフィアナ!」
「ええ!」二人は言葉を交わし、隣り合ってリグラムへと飛んでいく。ユウリはカノンから雷槌を呼び寄せ、右手で掴んだ。
「王を舐めるなぁぁぁぁぁ!!!!」
 狂気すら感じる罵声を発すると、リグラムの全身の「口」が発光し始めた。やがて白い光がそれらの表面に収束し、一斉に放たれた。
(この土壇場でこんな奥の手を!)驚嘆するユウリへと、光線が多角から迫り来る。
鏡蝶弾ミラルガン!」フィアナが叫んだ。蝶翼から白球が続々と出現。フィアナの前に至ると、四方八方に飛んでいく。
(いつもの技か! でもこの恐ろしいほどの数! フィアナの力も完全に飛躍を遂げてる!)
 高揚するユウリの視線の先で、鏡蝶弾ミラルガンはリグラムの光線のすべてに当たった。しばらく押し合い拮抗していたが、すぐに双方消滅する。
 猛攻を凌ぎ切った。ユウリは全速でリグラムとの距離を詰めて、頭部へと着地。雷槌を振り上げて大きく息を吸い込んだ。
 刹那、雷槌の周囲に純白の靄が生じた。ユウリは目を瞠る。優しくて清らかで人なつっこくて、あまりにも慣れ親しんだこの雰囲気は。
(ルカ? ──って俺は何を言ってるんだ。ただの光だぞ?)
 ユウリは混乱しつつも不思議な靄を見つめる。するとなんとなく、靄が笑った気がした。ユウリも笑みを返し、強く雷槌を握って、振り下ろした。
 命中の瞬間、すさまじい白光がほとばしった。ただの雷槌では起きないはずの現象だった。光の中でリグラムの身体がぼろぼろと崩れ、空中に溶けるように消えていく。ユウリは静謐な心持ちで、魔王の滅びを見届ける。
 光が収まった。ユウリはふうっと息を吐き、着地した。
「ユウリ!」背後から歓喜の声がした。ユウリは振り返った。フィアナが駆けてきていた。表情はこの上なく晴れやかな笑顔で、一点の曇りもない。
 フィアナはユウリの手前で止まった。両手でユウリの左手を握り込む。
「やった! 私たち、勝ったのよ! もうエデリアとルミラリアを脅かす者はいない! ケイジ先生もルカさんも、安らかに眠れるわ!」
 フィアナはまっすぐにユウリを見つめつつ、興奮気味にまくし立てた。
「ああ、まったくそうだ! ここに来るまでたくさんの悲劇があった。けどもう大丈夫だ! これからはみんな平和に──って、待て待て。カノンだ。カノンは大丈夫なのか?」
 ユウリは現実に戻り、カノンの落ちたほうへ顔を向けた。
「うわっ! カノン! 目覚めてたのか?」
 ユウリは驚愕を口にした。カノンが十歩ほど離れた位置に立っていた。ユウリをじとっと見据えている。いつもは穏やかで柔らかい印象の瞳だが、今は見る影もなかった。
「目覚めてました! 目覚めてバッチリ見てました! 愛しいユウリ君が美人のフィアナさんとひしと手を触れあって、甘ーい視線で見つめ合っていた衝撃のシーンをねっ!」
 強い抑揚を付けてカノンは言葉を叩きつけてきた。
「いやっ、そうじゃなくて。違うのよカノン。私とユウリはそんな関係じゃ──」
「そうだぞカノン。お前は壮大な勘違いをしている。一度深呼吸して、冷静になってだな」
 ユウリたちはあたふたと言い訳するが、カノンのむーっとした表情は変わらない。
「もうっ! 何ですかこの仕打ちっ! せっかく死の危険を冒してまで強敵に立ち向かったっていうのに! 創造神ルミラルよ! わたしは再度あなたに問います! あなたには、頑張ったものを労う心はないのですか!」
 カノンの魂の叫びが響き渡った。ユウリとフィアナは視線を交わし、同時に溜め息を吐いた。
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