The Demons !!

かませかませ

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燃え上がり連鎖する絶望と、眩しくも醒めぬ眠り

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 賑やかな街並み、人々が行き交い笑い合い、喧騒の中で人々は生活していた。
頑丈な壁に囲まれ、好きなく配置された兵士達は住民達と笑顔で語り合っていた。
平和、人々は幸せを噛み締めていた。




城下町の一角。
人々が行き交う街の中心近くに構える喫茶店。
百年前、この国が建てられた時からある店であった。

その店のテラス席、シルクハットを被った男が小さめのサイズの本を読んでいた。
そこへ、二人の男が近寄る。
一人は空色のアロハシャツ、一人は白いパーカーを着ていた。

シルクハットの男が座るテラス席に二人は座ると、アロハシャツの男が手を上げてウエイターを呼んだ。
パーカーの男はメニューを開いて見ていた。
若い少女が席に近づいて来た。

「ご注文はお決まりですか?」

「俺コーヒーね」

「…同じく」

「かしこまりましたー!」

ウエイターの少女は短いスカートとエプロンを翻して離れて行った。

「ヒュー!ナイス太もものかわい子ちゃん!」

アロハシャツの男が笑いながら椅子の背もたれに寄りかかった。
パーカーの男は腕を組んでため息をついた。

「…ディメ、要件を話せ」

本を閉じる音がテラス席に響いた。
ディメが顔を上げて目の前に座る二人の男に視線を向けた。

「時間通りだよ、ヴォルケイノス、明光」

ヴォルケイノスと呼ばれたアロハシャツの男はニヤリと笑う。
明光と呼ばれた男は店の外を眺めていた。

「事前に話していたと思うが、確認のために要点を話す」

机にコーヒーの入った白い陶器のカップがおかれた。

「お待たせしました!オリジナルコーヒーです!」

「おー、あんがとさん」

ヴォルケイノスがカップに口をつける。
それに遅れるようにして明光がカップに口をつけた。

「うん、美味い!」

ヴォルケイノスが声を上げると、ウエイターの少女は笑顔を浮かべ、伝票を置いて店内へと戻っていった。

「…目標は二つ。お前らにはそれぞれ一つずつ、別々の目標と作戦を行ってもらう」

ディメは机に肘をついて手を組んだ。
ウエイターが去るのを確認すると、ディメは再び話し出した。

「明光はこの国を出て西へ行った先の丘、その更に先にある巨大な墓場跡。そこにいるアンデットキング、もとい…転生者の懐柔だ」

ディメは明光へと視線を向けながら話を続ける。

「なんでも神に無理やり連れて来られた日本の学生の一人で、一人だけ魔物として転生したらしい」

スマホを取り出し、少し操作したのち画面を明光へと向けた。
そこには平凡な黒髪黒い瞳の少年が映っていた。
画面をスライドさせて画像を変えると、そこには鎧を着た骨の魔物の横顔が映っていた。

「こいつがそのガキだ。神に恨みを持ってそうだから、この世界で動かす駒に仕立て上げろ」

「…了解した。交渉材料は?」

「命、あるいは仲間か、元の世界へ戻る権利…場合によっては要望を聞いてやれ」

「…断ったら?」

「殺せ、従わなくば用は無い」

ディメは瞳を不気味に光らせた。
明光は静かに息をつくと、目を閉じた。
話は終わり、とでも言いたげの様子であった。

ディメはヴォルケイノスに目を向けた。

「ヴォルケ、お前は東にある聖教国家の天辺から下まで全員だ」

「交渉はしなくていいのか?」

「神に味方した時点で敵だ、慈悲は無い」

ディメは今度はスマホの画面をヴォルケイノスに見せた。
そこには、白い鎧を着た老若男女の姿が映っていた。
その中央、金髪の美女をディメは指差した。

「こいつがこの聖教騎士団の隊長、メイル・アーシャントだ」

「へえ、顔はいいな。中身は知らんが」

「母親の腹から生まれおちてから今に至るまで、神を信じ続ける頭でっかちだ」

「純情な処女ってか?殺す前に取って喰っちまおうか?」

「殺すなら何をしようが構わんよ」

「ヘッヘ…楽しみにしとくわ」

ヴォルケイノス…ヴォルケはヘラヘラと笑うと、首の後ろに手を回して背もたれに寄りかかった。
足をぶらつかせながらテラス席の日除けを見上げた。
日除け越しに太陽を見つめると、目を細めてニヤリと笑った。

「…さて、話は済んだ。仕事にかかってくれ」

「りょーかい。明日にゃ向かうとするわ」

「右に同じだ」

ディメは席を立つと、街の喧騒の中へと消えていった。
その姿が完全に消えると、二人の悪魔は顔を見合わせた。

「…支払いはこっち持ちか…?」

「…割り勘…だな…」

「…あいつケチだよなあ…」

「…そうだな…」

悪魔二人は溜息をもらして肩をすくめ、手を頭に当てて首を横に振った。








「…それで?どうして俺は夜の街に連れて来られてるんだ?」

「あ?んなもん決まってんだろ?仕事の前にパーッと飲むんだよ!」

二人の悪魔は夜の繁華街で並んで立っていた。
ヴォルはウキウキで、明光はげんなりしながら人通の多い道を眺めていた。
通りで客引きをする美人に目移りしながらヴォルはフラフラと辺りを見渡しながら歩く。
その背中を明光が冷たい目で見つめながらついて歩く。

「できれば美人がいっぱいの酒場がいいなあ」

「…人間に見えるようになる装飾品を持っているからといって、調子に乗ると正体がバレるぞ?」

そう言いながら、明光はパーカーの首元に手を入れ、そこから首にかけたペンダントを取り出した。
白い目の形の文様が入った、金属のように黒く光る石のペンダント。
派手な装飾はされていないが、シンプルな作りの物だった。

ヴォルケはアロハシャツの胸元から、明光が持つものと同じペンダントを取り出した。
それを指先で弾きながら明光の方を見やる。

「大丈夫だって!こいつは”幻想”…ファジーが作ったもんだぞ?薬ならまだしも、装飾品ならそうそうおかしなことは起こらねえよ」

「はあ…だといいがな」

二人はペンダントを胸元にしまう。
ヴォルケは視線を通りの店々へと向けた。
どの店も賑わっており、笑い声、喧嘩の怒鳴り声、やけ酒の泣き声…
しかし、どれも幸せが滲み出る声で、その声の主の人々の表情も明るいものであった。

「さてさて…ど・の・店・に・し・よ・う・か・な…」

ヴォルケは指で通りの店を右から順番に指差しながら、店を選び出した。
その指先が、一つの店に止まった。
あまり大きい店ではなかったが、人入りも少なくなく、外からでも店内が活気に満ちているのがうかがえた。
店の看板には、『巨人の酒樽』と書かれていた。

「あそこにしようぜ!」

「気が進まん…」

「まあまあ!俺たち友達だろ?奢ってやるから飲もうぜー!?」

ヴォルケは明光と肩を組むと、ケラケラと笑いながら目的の店へと明光の身体を引きずっていった。
引きずられる明光の目は死んでいたが、それでもヴォルケの腕を振り払うことはしなかった。

この二人の付き合いはそこそこ長く、数百年以上の付き合いがある。
チャラく、暑苦しい性格のヴォルケイノス。
他人に厳しく、冷静な性格の明光。
正反対な性格の二人だが、なぜかよく一緒にいる。
気が合うのか、それとも正反対ゆえに惹かれ合うのか…
それは、ディメにも分からないことであっ。






「2名様、ご案内でーす!」

賑やかな店内に二人は入ると、ウエイトレスに案内された店の奥の方の席へと着席する。
メニューを開いて中を見ながら、ヴォルケは明光に話しかける。

「ビール…ここじゃエールだっけ?つまみは…ケウリの漬物…?多分胡瓜だしピクルスかなんかだろ。それと…明光はどうする?」

「…ポテトサラダ。それと…鶏肉の焼き串。あとは後で決める」

「ふーん…じゃあ俺はこの…メッギョ?のソテーにするわ…店員さーん!」

ヴォルケは手を上げて近くにいたウェイトレスの女性に声をかけた。
ウエイトレスは空のジョッキの乗ったお盆を持ちながら、悪魔二人の座る席へと近づいて来た。

「はーい!…お客さん、うちは初めてだよね?うちのオススメは新鮮なアッゼ鳥の焼き鳥だよ!」

店内の喧騒に負けないように声を張りながら、ウエイトレスは二人に話しかけた。

「ふーん…今日は魚にしようかと思ってたが…それじゃあそいつをもらおうか!あとエールとケウリの漬物ね」

「あいよ!そっちのお連れさんは?」

「…エールとポテトサラダ…それと…メッギョのソテー」

明光は二つ折りのメニューを閉じながらウエイトレスに注文をした。

「エール2つに漬物とポテトサラダ、焼き鳥に魚のソテーね!毎度あり!」

ウエイトレスの女性は元気よく注文を繰り返して確認すると、店の厨房の方へと足早に向かっていった。

「…別に焼き鳥二つでもよかったんじゃねえか?」

ヴォルケが明光に目を細めながら聞いてきた。
明光は視線を逸らすようにして店内に目を向けた。

「…半分に分かればいいだろ。シェアだシェア」

「…へへ…!」

ヴォルケはニヤリと笑った。
明光は顔を隠すようにしてそっぽを向いた。
穏やかな空気が二人の間に流れた。
別段話し込んだりすることはないが、それでも二人の間の空気が悪いようには見えなかった。
…こうしたところも、二人の仲の良さを感じさせた。






「お待たせしましたー!」

ウエイトレスが料理を運んで来た。
木製のジョッキに入った冷えたエールは泡を立て、皿に乗った料理は湯気と香りを立ち上らせていた。
ヴォルケは音を立てて唾を飲むと、近くに置かれた二人分のナイフとフォークのうち一組を明光へと渡した。

「さて!俺の奢りだ!遠慮せずに食え!」

ヴォルケは早速料理に手を出そうとするが、その目の前にジャッキが差し出された。
目線を前へと向けると、両手でジョッキを持った明光の姿が映った。

「…まずは乾杯…だろ?」

ヴォルケの顔を見ずに明光は言った。
それに対してヴォルケはフッと笑うと、ジョッキを受け取った。
二人は互いのジョッキを軽くぶつけ合わせると、ニッと笑った。

「俺達の友情に!」

「…悪魔の俺達に…」




「乾杯!!」

ジョッキがぶつけ合わされた。
中身が少し溢れるが、それを気にする者はその場には誰もいなかった。


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