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はじまりはじまり。小さな冒険?

25、出発しよう。

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「見えるかな?この先の森を抜けていくと、大きな街道に出るんだ。そこをずっと北に進めば王都につけるよ」

「ここから、おうとはちかい?」


レイは少し屈みこんで、私と目を合わせるように話を進める。

小麦の穂のような淡く落ち着いた、少し癖のある金髪がふわりと揺れる。
アクアマリンのようなきらきらした瞳が私を見ている。

……今、私たちのいる場所は、ちょっとした小高い丘になっていて、この周辺だけ草原のようになっている。
魔法陣で飛ばされた場所は、元々小屋でもあったかのような残骸と、倒木となっている聖樹、そしてこの場所を囲うように森が広がっている。


「少し…歩くかな?大人の足なら5時間くらい、かな?僕たちのペースだと、今日は野宿になるね。セシリアは野宿、大丈夫かな?」

「がんばる」

「いい子だね」


にこりと笑って頭をぽんぽんとされた。

前前世むかしの記憶から、世界地図を引っ張り出す。
まぁ世界地図って言っても、まだまだ未知の世界が多くて、そんなに広く網羅されているわけでは無いのだけれど、当時でも少なくとも人間達が暮らす世界、という意味での地図はそこそこ出来上がっていた。

──昔、メアリローサ王国は大陸の東側、辺境と呼ばれる位置にある小国だった。

ま、今でも相変わらず辺境だけどね。こればっかりは地形が変わらないとことには無理な話だから。

大陸の東側に位置するメアリローサ王国は、周囲を小高い山にぐるりと囲まれていて、周辺国とは交流のし難い立地なんだ。
唯一西側に、北にある国への陸路があるけれど、とにかく魔物が多くて、今はほとんど使われてないし。

基本は海路が使われていて、陸路は国内の領地への移動にのみ使われている。

街道の整備はバッチリなんだけどね。


「街道には、一定距離ごとに休憩できる場所が作られているから、まずは暗くなる前に街道まで一気に出たいと思うんだ」


すごく急いでる、のはわかった。
早く出発したい、というのもわかるけどね……私にも気になることはあるわけで。
これは流石におかしいと思うんだけど、ユージアは気にせず行ってしまったし、一応確認する。


「わかった。……ねぇ『大人で5時間の距離』をレンは、どうやってここまで、きたの?」


ゼンと別れてから、1時間程度しか経ってないのだ。
『ゼンの代わり』に来たのであれば、どうやって来たのか。
空を猛スピードで飛んでいったゼンはともかくとして、ごまかすにしても到着が速すぎて、とても怪しい。


「……今は言えない」

「あとでなら、おしえてくれる?」


「内緒」とでも言うような、ちょっと困ったような顔で唇に指を当てる。
ユージア以上に初対面だから、ここで誤魔化されると怪しさ満載なんですけどね……。


「セシリアを守るためでもあるから……今はごめん」

「あとでかならず、ね?」

「うん、じゃ、そろそろ行こうか」

「あ、まって!」


レイの怪しさもだけど気になってたのがもう一つ。
さっき、ユージアが言ってた『聖樹』
これって普通にそこらに生えてることがすでに珍しい事だから、倒木とはいえ生きているのならなんとかしたい。
ていうか、近くでしっかり見てみたい。


「これ、せいじゅ、なんだって」

「──確かに、聖樹だね。枯れかけてる」


この小高い丘の草原部分に一本だけある、木。それを指差して駆け寄る。
近づいてみるとかなり大きくて、随分長い間ここにあったのだろうとわかる。

ただ、残念なことに、しっかりと…見事に倒木で。
一見枯れているようにも見えるんだけど、これは枯れたあとでも、木材として効力を発して魔物よけとなっているのか、それともまだ根は生きていての「本調子ではない」なのか、さてどっちだろう?

聖樹は……大事にされて大きくなると、精霊樹や世界樹と呼ばれるものになる。そこまで育つと、それ自体が意思を持ったり、精霊が宿ったりと、自然災害的なものに関しても、そこそこ自衛ができるようにもなるらしいんだけどね。

倒木のようになってしまっているということは、そういう自衛の策がまだ取れない、まだまだ若木、ということなのだと思う。
3歳児わたしが3人くらいいないと、囲めきれない太さまで育っているのだけど、これでもまだ子供みたいなものなんだろうね。

前世の感覚で言えば、ここまで育ってる木ですら、そこそこの高樹齢ということで大事にされて、社寺や史跡なんかでしか見かけないようなレベルなんだけどなぁ。

側に駆け寄って、根元を凝視する。植物は、特に庭木や大きな木になるものは、根元を見るとその状態がよくわかるんだ。
ガーデニングが得意だったのは、前世のみで……こちらの世界にいた前前世それよりまえでは観察・研究対象の植物すら、即枯らすという、ある意味特技なのでは?と周囲に嫌味のように言われるほどに、お世話下手だったのだけど。
さて、今回はどうなんだろう?上手にできると思いたい。


『はじめましゅて。あなたをたすけたいの、すこしみせてね』


魔力を込めて話しかけてみる。反応のような特に変化はなくて、返答はないみたいだったから、まだ意思があったりというレベルまで育っていなかったのかな……。

折れて倒木となってしまっている部分は、先の方へ行くほど枯れてしまっていた。根元の近くからは新しい枝が、倒木部分から上へ向かって伸び始めている。
切り株のようになってしまってもなお、しっかり地に根付いている株元、こちらは元気そうだった。

新芽になりそうな膨らみがいくつか見えていた。
これなら特に手をかけなくても、時間はかかるだろうけど、また育っていけそう。


『だいじょうぶ、しょうだね、またおおきくなりますように』


根元の付近を「いいこいいこ」するように願かけのように、触って話しかけて……ふと思いつく。


「かれちゃったはっぱ、ちょっとちょうだいね」

「セシリア。そろそろいいかい?出発しよう」


素材としても魔物よけの効果が期待できる聖樹だから、きっと枯れ葉でも効果があるはず。
子供だけでの移動になるのだから、少しでも安全の確保をしておきたいと思ったんだ。


『──これもあげる。連れて行って?』


折れてしまった部分の枝の端にある、枯れた葉をいくつか外していると、不思議な声が頭に響いた。
切り株のようになってしまっている株元を見ようと振り向くと胡桃クルミのようなものが3つ、こちらへふわふわと飛んできた。
それをありがたく受け取って、上着の内側にあるポケットにしまいこんだ。


「……タネかな?ありがとう!あなたも、がんばっておおきくなってね」

「じゃ、行こうか」


株元まで戻って、お礼を言って……もう一度「いいこいいこ」して振り向くと、少し不機嫌な顔をしたレイが、手を私へ差し出していた。
その手を取って歩き出す。


──まずは、子供だけでこの森を抜けなくてはならない。
手を繋いで少し小走りとなって草原を駆け抜けていく。

先ほどまでユージアと休憩していた小高い丘を降りると、今までの景色とはうって変わり、いかにも何かが出てきそうな、広大な森の入り口にさしかかった。


「これから先は魔物も出る、周囲に十分注意して」

「はぁい…」


奥へ進めば進むほど樹勢は強くなり、からまるように無秩序に大きく成長していて、とても薄暗く、ここから先は視界もかなり悪くなりそうだ。
ていうか、雰囲気がもう、いかにも何かが出ますよって感じ。


……やはり小さいと困るのは、こういう場所では大人よりずっと視界が狭いということ。
そして俊敏さに大きく欠けて咄嗟に動けない、ということ。
急襲されたら、ひとたまりもないだろうなぁ。


「レイはたたかえる?」

「一応、魔法を少しだけ」


どれだけ使えるのかわからないけれど、きっと王都近くであれば、酷く強い魔物が出てこないと思いたい。
もし遭遇しても、子供だけのパーティーで、乗り越えられる程度の敵でありますように。



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