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はじまりはじまり。小さな冒険?
29、またもや。
しおりを挟む車体の揺れから考えると、街道を走ってると思う。
普通の道だったら、この箱のような車体であれば、立つどころか座ってられないくらい、シェイクされるし。
ていうか、なんでこんな所にいるのか?
この馬車、外側から見れば木の箱だけど、中はしっかり鉄格子だし。
魔物、もしくは罪人か奴隷でも運ぶような……奴隷?
奴隷にしては若すぎる。この車内にいるのは、10歳にも満たない子供ばかりのように見える。
外からは複数の大人たちの声が聞こえている。
どう聞いても、護衛依頼を受けた普通の冒険者と、交易中の商人たちの会話なんだけど。
「叩いても外に、ここの声はきこえない」
「ここからは、出れない」
「……でも、行き先は王都みたいだよ。セシリア、まずはご飯にしよう?」
口々に子供達が、状況を訴える中、レイだけ、にこにことしながら、鞄からパンを取り出す。
落ち着いてるというか、肝が据わってるというか……。
「君たちも食べよう?少ないけど……どうぞ?」
私が寝ていたところとは正反対の場所の角に、ぎゅっと身を寄せ合うように座っていた子供たちにもパンを勧め……た途端に群がるように、たくさんの小さな手がパンに伸びてきた。
「お前らバカだよなぁ。ここに放り込まれても、そのまま寝てるとか、鈍すぎだろ」
「えぇぇ…」
硬めのフランスパンを、必死に噛み切ろうと頑張ってたら、言われた衝撃の事実。
私は一度寝てしまうと、全く起きない体質らしい……。
──そうじゃなくて!どうやら私とレイが寝たところで、この車内に放り込まれたらしい。
私はともかく、レイも気づかなかった、というのはすごく意外だなぁとレイを見ると、にこりと笑顔を浮かべながら、とんでもないことをいう。
「行き先は王都だと言っていたので、歩くよりは早く安全に着くかなぁと思って。そのまま寝たフリをしてたんだよ。王都に着いたら、魔法か何かで騒ぎを起こして、どさくさに紛れて逃げてしまおうかなぁなんて……ちょっと考えてたんだけどね。ここ、魔法封じられてるんだよね。どうしようか?」
「……ほんとバカだよな!」
パンに噛り付きながら、子供たちの中でも年長者っぽい男の子が、レイの言葉にケラケラ笑っている。
あの子には、バカバカ言われっぱなしなんだけど、まぁ悪い気はしないし、良いか。
あの子。
──彼はエルネストという名前らしい。
エルネストは今まで、ここの小さな子たちの面倒を見ていたらしく、まるで兄弟かのように懐かれてる。
というか、この荷馬車に一番最初に放り込まれたのが彼なのだそうで。
いろいろ脱出しようと頑張ってはみたものの、ことごとく失敗しているそうだ。
そうこうしてるうちに、1人2人と新たに子供が放り込まれ、私とレイが放り込まれて、今に至る。ちなみに全部で7人、ここにいる。
(んー、王都到着までに、何か逃げ道になるようなものを探しておきたいところなんだけどなぁ)
レイとエルネストは年齢も近いし、早速意気投合したようで、色々と会話をしている。
「まぁ、僕がいなくなっても、誰も探そうとする人はいないからなぁ」
「孤児?孤児だったら孤児院にいたんじゃなかったのかい?」
「孤児院は……」
……そんな会話を聞きつつ、薄暗い中でよくよく眼を凝らして、鉄格子を見上げると、格子の天井付近に、監獄と同じような文字が彫り刻まれていた。
(これは、簡単なレベルの魔封じと、外へ音が漏れないように音吸収が付与されてる。監獄ほどの強烈な封じではないけど、完全に魔物や罪人、奴隷の運搬用といったところだね)
「……僕は人攫いに遭ってここに居るが、コイツらは人買いに売られてここに来たんだ」
「えっ…!」
「コイツらの時は、声が丸聞こえだったから…間違いないと思うよ」
コイツら、と指差されたのはエルネストに寄り掛かってパンを必死に齧る小さな女の子2人。
歳は私と同じくらいか、栄養状態から考えると、もしかしたら少し上くらいかな?
……一応だけど、この世界でも日本と同じように、人身売買は禁じられてる。
ま、奴隷は存在するけどね。しかも合法で。
ちなみに合法の奴隷は、15歳以下は存在しない。
もしも、という意味で居るとすれば、それは重罪人がなる「重罪奴隷」
ただ、そもそも奴隷落ちするほどの重罪を犯せるような、15歳以下がそうそう存在しないだろうから、こちらもほぼいないと考えて良い。
つまりこれが人買いや人攫いであって、非合法で人を売り買いするような商人であるとするなら、奴隷にするにしても非合法な……。
「……非合法奴隷商ってヤツだね。セシリアはユージアの首についてた隷属の首輪を見たよね?非合法の場合は騙して契約するか、そもそも奴隷になる為の条件に合致しなければ──アレを使う。あの首輪は、合法奴隷の契約とは違って、着けた者の意志や思考を完全に乗っ取るんだ。主人の命令通りに動く為だけの存在にしてしまう」
(ですよね。ユージアの隷属の首輪はかなり古い物だったけど、非合法奴隷商人が普通にいるとすれば、まだ作れる技術を持った錬金術師、もしくは魔細工師がいるのだろう)
「こわい、ね…」
あれはかなり強烈な精神干渉の魔法が組み込まれているから、正直、さっさと廃れて欲しい技術だと思ってる。
ちなみに合法での奴隷契約は、双方合意の上での契約であって、魔法でいくつかの制約ができるとはいえ、雇用契約に近い。
しかも国で管理されているので、奴隷の正式な契約は、期限が切れるまで書面として国に保管される。
例えば、雑用の名目で契約で雇った奴隷に対して、性的な関係などを迫ったりするのはアウトで。
その場合、奴隷は拒否できるし、それでも雇用主が手を出そうとするなら、奴隷は職務を放棄して逃げ出すことが可能で、そのことが国に伝われば、雇用主が罰せられる。
そう、奴隷は逃げ出せるし、国に訴えることができる「意思」や「権利」がちゃんと存在するのですよ。
「首輪は嫌だな…逃げるにしても……」
エルネストはチラリとこちらを見る。
そうだよねぇ。幼児の大脱走なんて、大人にすぐ捕まってしまう。
どうにか逃げるにしても、誰かしらを足止めか、犠牲にして逃げ切るような方法にしかならない。
そして、もし、うまく逃げ出せても、その後に助けを求める手段もなければ、足止めとして残してきた子供たちを助ける方法も、ない。
この状況だと私でも、意表をつく、誰かを先に逃がして助けを呼んでもらう、くらいの方法しか思いつかない。
ただ、こんな小さな子供の話を、真に受けて行動を起こしてくれるような大人が、どれだけいてくれるのだろうか?
(……逃げるなら、全員で逃げたい。もちろん、全員無事で)
どうにも考えが詰まってしまったので、レイの隣に戻る。
鉄格子に彫り込まれてる魔法はまだまだ現役のようで、しっかりと稼働中だし、鍵に関しては外側からつけているようなので、こちらから確認できないし。
どちらかに劣化等があれば、そこからこちらで細工することもできるかな?なんて思ったんだけど。どうにも無理っぽい。
「ね、逃げれたら、エルネストはどうするの?街に帰る?」
「うーん、コイツらが心配だし、みんなで王都の孤児院かな。帰る家もないし」
まぁそうだよね、帰るにしても子供だけの旅とか無理があるし。
そもそも売られてここにいる子達は、戻ってもまたどこかへ売られてしまうかもしれない。
「レイは──!」
エルネストの言葉が途切れた直後、外が騒がしくなると同時に、体が浮いた感触があり……。
馬車内の前方の壁に、子供たちは全員、身体を強かに打ち付けられた。
……まぁ実際のところは、年長者2人組がちょうどその壁のところに寄りかかって座っていたために、勢いで飛ばされてきた小さな子供たちのクッションがわりとなってしまったわけで……多分、痛さで泣きたいのはその2人だと思うんだけど。
車内に悲鳴が響き渡る。
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